ほんとうの調達・購買・資材理論~番外編(坂口孝則)

・25のスキルと知識が調達・購買を変える

これまで、調達・購買の5×5マトリクスを使い、調達・購買スキルや知識を紹介してきた。私は調達・購買人員に必要なスキルや知識は25に集約されると考えており、その解説を行なった。さらに、この5×5調達・購買スキルを書籍「調達・購買の教科書」にまとめた。

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これまた繰り返しだけれど、このマトリクスでは、あえていくつかの項目を省略した。システム系の知識なんてのがそうだ。くわえて、リスクマネジメントも省略しておいた(どちらかというと、調達・購買部門のなかの、管理職や企画系社員の仕事である場合が多いからだ)。

今回は新連載に移行する前に、番外編としてリスクマネジメントについて述べる。といっても、私が「大震災のとき!」などで書き続けてきたリスク把握・対策論ではない。まず私たちをとりまくリスクの最新データを提示したい。

その意味では、調達・購買担当者が知っておいてソンしない、「Theリスク2013」としてお読みいただければ幸いだ。

・Theリスク2013

①日本というリスク

これまで米国経済は日本とカップリング(同じ動きをする)といわれてきた。しかし、ほんとうだろうか。日本製造業は昨年度の経常利益が昨年比マイナス6%だった。もちろん、東日本大震災の影響もあるだろう。しかし、本業の儲けを示す営業利益はマイナス12%にまで落ち込んでいた。

本来は、経常利益のほうが、営業利益よりも少なくなる。利子支払い等があるので当然だ。しかし、経常利益が大きいとは、本業の儲けを、なんとか営業外収益でカバーしていることを指す。すなわち、海外法人からの配当金や受取利息でなんとか糊塗(悪い点を塗りつぶすこと)しながらしのいでいる。

日本で赤字。海外の儲けでなんとか食っている。残念ながら、これが実態であり、まずはじめに「日本」というリスクを挙げざるをえない。

さらに恐ろしいのは日本に設備投資が回っていない事実だ。各企業ともまったくお金(キャッシュフロー)がないわけではない。しかし、日本企業全体で15兆円(推計値)ほどの年間キャッシュフローが生み出されているなか、設備投資に回ったお金は9兆円程度にすぎない。1980年から1990年までのあいだ、キャッシュフローがほぼ、設備投資に回されていた時代と比べると、将来を悲観視してしまう。

アメリカは第一四半期のデータで、昨年比プラス60%、IT関連ではプラス90%であった。ナスダック指数も2007年の最高値に近づいている。

おそらく、ここに米国IT企業と、日本製造業の戦略差がある。アップルをはじめとする企業は、アジアの安価な労働力を「使う側」にいる。EMS(電子機器の受託生産企業)を活用して、それを先進国に販売するビジネスモデルだ。しかし、日本製造業は、生産を自社内で抱え、アジアを「売り先」として見てきた。そうなれば、アジア、特に中国の不振は、そのまま日本製造業の不振となった。

(なお、鉄工業生産指数を見ても、2011年後半以降、EURO圏が落ちているのに対して、アメリカは伸び続けている。「デ」カップリングが鮮明になりつつある)

②中国経済というリスク

胡錦濤体制の2007年。中国経済は実質GDP成長率約15%(!)という驚異的な数字をあげた。しかし、そこから下落をはじめ、現在では7~8%程度に落ち着く。日本企業が、中国をはじめとするアジア諸国を「売り先」としてとらえ、それが問題だった点はさきほどあげた。

中国経済の正確な予想をすることは、私の力量を超える。ただ、中長期的には成長を続けるのは間違いない。その意味で「中国経済というリスク」とは、直近1~2年において、経済失速が続くのかというリスクだ。

もちろん、予測にすぎないが、次を述べておく。中国人民銀行の主要5000社サーベイによると( http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1210b.pdf このpdfの96ページ)在庫水準はまだ高く、調整に時間がかかると思われる。なお、上記pdfでは在庫水準が逆目盛(!)になっているので注意のこと。

また、中国企業の売上高も以前のレベルには達していない。CRB指数も2011年をピークに減少傾向にある。もちろん、中国政府は成長率7%を死守として、さらに景気浮揚策を掲げるだろう。その意味で、この2013年は苦しむが、その後の再成長に期待する、といった程度が妥当だろう。

ところで、良いニュースとしては、チャイナ・モバイルが2013年にアップルのiPhoneを発売すると見られている。爆発的な伸びを見せれば、日本の部品メーカーにも大きな恩恵があるだろう。

なお、グーグルのシュミット会長が北朝鮮入りしたのは、単なる「プライベート」だったのかはわからない。中国の支援なしに、米国企業トップが北朝鮮を訪問することは考えられない。おそらく、中国が自国内の情報公開を進める前に、北朝鮮の情報公開を徐々に進めつつ、自国内に応用しているのだろう。きっと、米朝対話も復活するはずだ(シュミット会長はオバマ大統領の支援者として有名だ)。

中国の情報公開が進めば、アメリカ資本のIT企業がこぞって情報機器類を中国に販売するのは間違いなく、日本企業にとっても大きな「目玉」となりうる。

③新興国の労働力上昇というリスク

私は①で、さも、新興国のEMSを活用することが正解のように述べた。しかし、もちろん、これとてリスクと無縁ではない。中華人民共和国国家統計局によると、1995年に5,000元程度だった中国都市部の平均賃金は、2010年には35,000元を超えるにいたった。実に7倍の伸びだ。

もちろん、「中国都市部」であり、地方部は別だ(が、その包括的データは存在しない)。しかも、工場作業者の賃金はこれほど大きな伸びを見せていないといわれている(JETROなどが代表都市の賃金レベルは公開しているものの、これも包括的なデータがない。きっと政府も把握できないのだろう)。しかし、代表的な「生産回帰」の例を挙げると、こうなる。

日本HPがノート型PCを日本へ移管
キヤノンがカメラ用レンズを国内事業所にシフト
キャタピラーがテキサスに新工場を設立
GEが冷蔵庫等を米国内で生産再開
フォードが米国内に巨額投資

私は正直にいえば、この「生産回帰」の動きは一時的なものではないかと考えている。しかし、各社の動きを見ると、「脱」新興国とも呼べるパラダイムシフトが生じているように思われる。EMSか生産回帰か。これはリスクの問題でもあり、2013年に注目したいトピックスだ。

まずは「Theリスク2013」として調達担当者が知っておいてソンをしない情報を述べた。このリスクは、どちらかというと「経済・マネー」のリスクが中心だった。しかし、日本に住む私たちには、津波や原発等のリスクもある。サプライチェーンを考えるにリスクは、他国よりも多い。機会に触れ、「Theリスク2013」ならぬ「The日本リスク2013」も書いていきたい。

(追伸)

たまに、アメリカ経済の雇用状況がニュースになる(ところで余談だが、NEWSとは「北~ North」「東~ East」「西~ West」「南~ South」の頭文字をとったものだ)。雇用者数が何十万減ったとか、増えたとか報じられているが、あれに何の意味があるだろう。アメリカでは1億2000~3000万人のひとが働いているといわれる。そのなかであの調査は一部の標本を抜き出して調べているにすぎない。だから、当然、誤差が生じる。区間95%の範囲にあったとしても、数十万人など、誤差だ。これもニュースを見る目として、調達・購買担当者のみなさまに参考までにお伝えしたい。

 <つづく>

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