転職を考えない人が読む「転職」のおはなし 2(牧野直哉)

(2) 誤った判断による転職

「誤った判断」とは、ここでは待遇に関する問題をお話します。

現在の職場での待遇に関する不満、給与であったり、ポジションであったり様々な内容が想定されます。もっとも重要なのは、数字で判断できる給与です。自分の貢献度に対して、給与が少ない。もしくは、自分よりも成果の劣る人間の方が高い給与をもらっている、或いは、成果が劣るにも関わらず同じレベルの給与である……等々、あまりにネガティブな内容なので、この辺でやめておきます。

給与に関する不満を持って、転職へと活路を見いだす場合、私は二つの確認をおこなうことが必要だと考えています。

(1) 自分の市場価値

ここに、2つのホームページをご紹介します。

① 一般的な給与所得者の平均的な年収

年収ラボ サラリーマンの平均年収

http://nensyu-labo.com/2nd_salary.htm

② 調達購買における平均的な年収

平均年収 職種別詳細データ 2011

http://doda.jp/guide/heikin/008_09.html

この2つのホームページに掲載されているデータと、現在のご自身の年収を比較してください。その上で、自分の希望する年収も考えてください。調達購買部門の重要な仕事の一つに、値付けがあります。明確な根拠がなくてもかまいません。自分に値段をつけるのです。ここで、現在の年収と、希望年収の二つの数字ができました。希望年収は、上記2つのデータと比較して、どのようなポジションになるでしょうか。

希望年収と、上記データによって自分が当てはまる平均との差が大きい場合、より大きな能力が必要となり、困難がともないます。例えば、調達購買部門で働いて、30歳代で年収1千万を求める場合は、上位1~2%しかいません。100人いたら1人か2人です。ここではあくまでも希望ですので、現状の年収と大きな開きがあってもかまいません。しかし、平均レベルと異なる=人と違った年収を得ようとすれば、異なる仕事、異なるアウトプットを求められることは、認識してください。

(2) 自分の社内価値

上記(1)を踏まえ、具体的に自分を評価します。理由はどうあれ、今の待遇に不満がある場合、特に、自分よりも成果を出していない人が同じレベルの年収であるとの不満を転職の基点とする場合が要注意です。今の職場での自分のポジションを確認してください。自分より優秀だなと認めざるを得ない人はいますか。そんな存在がいなくて、なおかつ数値的に評価できる成果がトップである場合、それは転職する価値があります。しかし、不満を持ちつつも、自分よりも優れた能力を持っていることを認めなければならない人がいる場合、それは自分の能力を過大に評価しているかもしれません。

適度な「背伸び」は、成長をうながすものとして考えることも可能です。しかし、あまりにも「背伸び」が過剰である場合、とてつもなくおおきなリスクを個人で抱えることになります。転職活動の雌雄を決する「面接」に費やされる時間は、多くても十数時間です。一般的には、10時間以下ではないでしょうか。そのような限られた時間の中で、転職の場合には、数年から数十年に及ぶ業務経験を説明しなければなりません。限られた時間であるが故に、大きな「背伸び」を、企業側が認めてしまう場合もあるのです。事実、実態のともなわないプレゼンテーション能力・優れた弁舌をもって、高いポジションを確保している人もいます。しかし、仕事は日々、継続的に問われ続けるものです。一回だけ相手を納得する能力と、日々納得してもらい続ける能力は、大きく異なるのです。

日々、自分の仕事・成果を納得して貰い続けることは、現在の勤務先でも明日からでも実行できることです。そういった積み重ねの結果、少なくとも同僚を大きく凌駕するような成果を産み出す能力が、転職を成功させるためには必要なのです。

(3) 成果を知らずしての転職

これまで何度も登場する「成果」という言葉。では、成果とはなんでしょう。

ここでは成果について、2つの定義をおこないます。

一つ目は、数値的なものです。会社目標をベースにした調達購買部門の目標、さらには分割された個人目標に対して、自分で稼ぎ出したものです。これは、ぜひ具体的な数値で、自分でも理解し、アピールにも活用しなければなりません。この数字は、企業規模や担当購買品目によって、その大小は大きく異なります。評価する側は、プロフェッショナルとして採用活動をおこなっていますので、企業規模や担当品目を加味して評価してくれます。この数字は、様々な要因に基づいた相対的なものですので、実績の数値によって「成功」を判断します。

ポイントは二つ目です。

企業内で業務を進める場合、上司であり、同僚であり、調達購買部門内のみならず、関連部門とも共同で仕事を進めることが必要です。二つ目の成果とは、共同して仕事を進めた周囲からの評価によるものです。単純にいえば、周囲から認められていたかどうか。とても抽象的なものですが、もう少し話を続きにお付き合いください。

私は、一つの企業に勤務したら、少なくとも3年間は勤めるべきであると考えています。「石の上にも三年」との言葉もあります。もう少し具体的に3年という期間を分析してみます。

例えば、調達購買部門でのキャリアを武器に転職を実現させたとします。しかし部門名は調達購買であっても、その職責や役割は企業によって微妙に異なります。まず、そのずれを認識して、正しく業務内容を理解するのに一年。その上で、業務内容への理解を深め、成果を生み出すのに一年。そして、深い業務内容への理解をベースに、みずから提案して、改善や、従来とは異なる結果を生み出すのが3年目最後の一年です。この3年という期間は、経験によって短縮化は可能です。しかし、少なくとも年単位での経験は必須です。これは、企業の一般的なマネジメントサイクルが、年次で完結することにも影響を受けています。また、欲を言えば、一つの企業を理解するために、20代では5年以上の継続的な勤務が必要だと考えています。一つの部門での継続勤務が5年以上あれば、仕組みを理解した上で、大抵の業務経験を得ることができます。そして、なにより「やり切った」という成果を得ることもできるわけです。

<つづく>

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