ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●3-6 モノのつくり方と使われ方を知る ~生産技術部門から学ぶこと~

広義的に「生産技術」を捉えると、生産効率を追求する対象は企業全体と定義されます。ここでは、生産・製造技術にフォーカスし、調達購買部門が業務を進める上での協業の方法について述べます。

☆生産技術部門の役割

生産技術部門では、設計された製品を、効率性的に具体化するための生産方法の管理。運営を責務としています。無駄なコストを排し、製造業としての優位性を確保するためのノウハウをもち、かつ高める部門です。具体的には、

(1)生産工程および生産方法を決定し、改善する
(2)生産工程と生産方法に必要な設備、治具、工具を改善する
(3)最適な生産コストの継続的な追求

の3点が重要な役割です。生産に関わる社内資源を最大限有効活用して、アウトプットを最大化・最適化する使命を持っています。

☆調達購買部門で活用できる生産技術部門のリソース

生産工程や生産方法改善活動によるコストの引き下げは、サプライヤーでも同様に取り組み、成果を出してもらわなければなりません。調達購買部門は、サプライヤーに継続的なコスト改善を依頼します。コスト削減とは、企業としての生き残るため自発的な活動が理想です。なぜ、コストを削減しなければならないのか。それは、自社の利益を確保し、最大化するのが目的です。

自社とサプライヤのリソースを比較します。サプライヤの中には、自社よりも量的にも質的にも優れたリソースを持つサプライヤあるでしょう。そういったサプライヤには「指導」よりも、サプライヤ自身が持つリソースを自社へ振り向けて貰うためのモチベーションのマネジメントを中心におこないます。そういった優れたサプライヤでなく、自社よりも量や質でリソースが不足している場合、バイヤー企業内の生産技術部門の活用を検討します。生産技術部門と共同しサプライヤの工程診断をおこなって、改善ポイントを指摘します。サプライヤを訪問する際は、生産現場の見学を申し入れ、みずから発注した製品がどのように作られるのかを確認します。そして、自社のノウハウの活用の可能性を見極めます。

調達購買部門は、サプライヤーのコスト改善活動を後押ししなければなりません。調達購買部門として必要性を感じた場合は、サプライヤーの改善に自社のノウハウを活用するため、生産技術部門へ協力を要請します。

生産技術部門が行っている現状掌握の手法に、タイムスタディ(時間測定)があります。製造現場での手順ごとに必要時間を測定し、標準時間を設定。そのうえで、手順ごとに無駄を発見して作業内容を改善しています。最初は、生産技術担当者同士の交流会といった場をつくります。交流を通じて、コスト削減の必要性を啓蒙し、コスト削減活動へと巻き込んでいくのです。また、バイヤ企業側で受け入れ検査をおこなっている場合は、検査するポイントをサプライヤと共有して、生産側/購入側での着目点の共有化を図ります。

企業によっては、生産技術部門の中にサプライヤーを指導する機能を持っている場合もあります。そのような機能は、調達購買部門も最大限に活用して、コスト削減を実現すると同時に、品質改善やトラブル対応の際にも、協力を依頼して、早急なトラブルの収束を図ります。

☆設備・治具・工具の購入に貢献する調達購買部門

生産技術部門は、サプライヤーから購入した設備、治具・工具を使用しています。調達購買部門にとって、ユーザー部門です。生産技術部門で購入する設備や工具など要求仕様の決定と、それらを実際購入する調達購買部門によるサプライヤーの決定の2つの作業を分離が必要です。生産技術部門と設計・技術部門との違いは、購入品の使用者である点です。調達購買部門は、サプライヤ選定の過程で、複数のサプライヤに対して、購入品選定のサポートであったり、製品サンプルの提供や、新製品の紹介を働きかけます。調達購買部門による、具体的な生産技術部門へのサポートをおこないます。

私が知る限り、多くの企業では調達購買部門が、実質的なサプライヤ選定を生産技術部門にゆだねてしまっています。調達購買部門では、生産施術部門での検討結果に基づいて、注文書を発行するだけといった対応が一般的です。こういった状況を打開するために、例えば複数のサプライヤに依頼して、新しい技術の社内への紹介を調達購買部門主導でおこなう。複数のサプライヤを集め、社内で展示会を開催し、サプライヤの新しい技術や取り組みを積極的に生産技術部門へ伝えます。そういった取り組みによって、調達購買部門の実質的な購買プロセスへの関与につなげます。

<つづく>

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