バイヤーの「超」基本業務 9(牧野直哉)

●見積書の「絶対」評価方法 2 売価面から持つ基準 ~サプライヤの売価/市場価格

サプライヤ1社からしか入手できない場合に必要となる見積書を評価するための「絶対的基準」。今回は、サプライヤの売価/市場価格からの評価基準について考えてみます。売価や市場価格から、購入金額の妥当性を判断するには、次の3つの条件が必要です。

(1)見積金額の構成要素分析

サプライヤ1社からしか購入できない場合でも、複数のコスト要素の合計で製品が構成されている場合があります。原材料も複数、構成部品も複数、必要な生産工程も複数といった具合です。このような場合では、どんな要素で構成されているのかを、まず分析します。自社の要求内容や、サプライヤから提示された図面や仕様書から、想定される要素を抜き出します。

同時に、見積金額の構成要素分析に欠かせない情報として、サプライヤへ見積の明細提示を要求します。サプライヤ1社からしか購入できない場合、買い手としての立場も弱いケースが想定されます。 サプライヤへ明細提示を要求して、拒否されたらどうするか。私は、次の2つの方法で、長期的な視野で明細情報を入手しています。

①過去の見積と競合させ、相違点を探る

サプライヤ1社のみからの購入といっても、取引関係は長期である場合に活用します。過去に入手した見積書と、現在の見積書を比較し、見積金額が異なっている場合に「なぜ違うのか」の説明を求めます。想定される回答は、

「原材料費の変動」
「短納期要求で残業対応した」
「設備が変わった」
「価格の見直し」
「前回は(コスト積算が)間違っていた」
「生産数量が異なる」
「工程の見直し」
「要求仕様の違い」

といった多岐にわたる内容です。しかし、上記の内容、すべて変化内容を数値で表せます。したがって、上記の例にあるような回答の場合、定量的な数値による答えを求めます。また、変動の中でも見積価格のアップの場合「値上げを社内に説明する必要があるので協力してほしい」との趣旨で、内容の説明を求めます。

見積価格のアップに際して、仮に十分に妥当性のある説明がおこなわれた場合、値上げを受け入れなければならない可能性が高まります。それは、購買力と販売力のバランスによって結果が決まります。アップの場合は、提供された情報の代償として、受け入れを検討するのも一案です仮に、サプライヤから提供された情報が、場当たりや一時しのぎであっても、次の同じような見積提示がおこなわれた場合は、活用できる情報かもしれないのです。

②問題発生したときに「どさくさに紛れて」確認する

長期的にはサプライヤ優位でも、サプライヤに起因する問題が発生した場合は、一時的に優位性が揺らぎます。こういった千載一遇のチャンスを見逃してはなりません。「どさくさに紛れて」と表現しましたが、発生した事象に関連した問題に絡めて、いろいろと質問してしまいます。問題の解消を急ぐためにもサプライヤを訪問して、関連部門に直接確認します。

サプライヤの担当者にヒアリングした内容だけでなく、製造現場の見学時にもさまざまな情報の取得をおこないます。私は「サプライヤからの納入を受けた所から、自社製品の製造フローに合わせて見学をお願いしたい」と、必ずお願いします。結果、見学順路がサプライヤの工場内を行ったり来たりするようでは、効率性に問題を見いだせます(最近ではめったにありませんが)。また、サプライヤの購入品を確認すれば、構成要素の一端が判明する可能性もあります。

(2)市場取引がある

上記(1)によって、一部の構成要素でも判明すれば、市場取引の有無を確認します。購入する製品そのものには市場取引がなくても、原材料といった製品コストを構成する要素には市場取引が存在し、価格が公開されている場合があります。「製品コストを構成する要素」は、単数も、複数である場合もあります。購入価格全体でなくとも、大きな割合を占めるコスト要素を足がかりに、価格の妥当性を判断します。

(3)購入サプライヤ以外からの「情報」

サプライヤ1社からの購入を前提にしながら、購入するサプライヤ以外からの情報とは?と、疑問を持たれた方もおられると思います。こういった情報を入手できるかどうかは「運」にも左右されます。しかし、ほんとうに1社からしか購入できないのかどうか。この点は、常に疑わなければなりません。心の底から「1社からしか買えない」と思ってしまうと、有益な情報への関心度も薄れてしまいます。1社からしか買えない場合にもっとも避けるべきは、その境遇にバイヤーが納得することです。

ほんとうに日本で、あるいは世界でオンリーワンなのか。それとも、現在知る限りにおいてオンリーワンなのか。多くの場合、後者です。私自身、日々の調達購買業務をおこなっていて、世界でオンリーワンのサプライヤは、まだ出会っていません。もちろん、ある製品や業界で揺るぎなく、事実上のスタンダードとされているサプライヤは存在しています。しかし、バイヤーであれば、どこかに別のサプライヤはいないかといった考えは、捨てるべきではないのです。

これまでに収集した情報によって、購入対象のコスト積算をバイヤーみずからおこないます。最初は、総コスト中少額の部分しか妥当性が確保できないかもしれません。バイヤーが想定したコストでも良いのです。その積算結果を、サプライヤへ提示しコメントを求めます。もらったコメントによって、バイヤ積算のコストの精度を高めてゆきます。

1社からしか購入できないサプライヤには、なんからの優位性が存在します。優位性に関連するコスト内容は、サプライヤは明確にしません。しかし、総コストのどの程度の割合が優位性に起因して、コストの内容がブラックボックスになるのか。ブラックボックス以外を明らかにすれば、サプライヤの持つ競争力の源泉の明確化につながり、適正価格を判断する材料にもなるのです。

<つづく>

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