「海外へ行かなくなった若者」に思うこと(牧野直哉)

ある新聞に「海外に行かなくなった若者」という事象を前提においたコラムが掲載されていました。若者が海外へ行かない中、新しい基軸(でもないと思うが)でツアーを企画した旅行会社を例に、若者のニーズを取り込めていないことが、海外へ行かなくなった若者を生んでいる、そんな内容です。

海外へ行かなくなった若者については、2007年頃からそのような報道がありました。しかしそんな話を聞く度に、ただ実数で語られる減少数に二つの違和感を持っていました。一つは少子化が叫ばれ、若者そのものが減っている現実をあわせて考えたとき、「海外へ行かなくなった若者」とは、ほんとうの姿なのか。そして、行かなくなったのは、若者のニーズを取り込めていない旅行会社に原因があるのかどうか。二つ目は、この論調にいつの世も耐えることがない「最近の若い者は~」という世代間対立の新たな理由付けになる、そんな意図です。自分たちが若者だった時にも必ず感じていたはずなのに、自分が若者でなくなった途端に「最近の若者は……」と語り出す魔のループは、相互理解への悪しき影響を両者に与えます。今の日本の置かれた状況を鑑みれば、そんなことにとらわれるよりも、もっと他にやるべき事があるはずです。自分の周囲で同じような話が持ち上がったときに「違いますよ~ほんとうは××ですよ」と言いたいのです。私は事実を知りたいし、伝えたいのです。

私はジャーナリストではなく、バイヤーです。しかし、興味にもったことを追求していくのに、バイヤーとしてモノやサービスのほんとうの価格を追求する上で培ったノウハウを活用することが可能です。なので、読者の皆さんにとっても検証可能であり、簡単に追体験いただけるな方法で、「海外へ行かなくなった若者」がほんとうにそうなのか。そして、もし仮にそうなのであれば、考え得るほんとうの原因へ迫ってみます。

さて、最初にほんとうに海外へ若者がいかなくなったのかどうか。この場合は、海外へ行っている人数を年ごとに参照できるデータを入手したいですね。なので、Googleで以下の通り検索します。(なお、今後はインターネットでホームページを検索することを「検索」と称します。検索エンジンは、すべてGoogleを使用します)

海外旅行 人数 推移

それぞれのキーワードの間には、スペースを入れます。こういった検索は、例えば、原材料費の価格トレンドを見たい場合に

銅 価格 推移

とか、

原油 価格 推移

といったキーワードで検索して、目的のデータを手に入れた経験によるものです。私は比較的多用している検索方法です。検索したい対象の名前+検索したい数値+推移をキーワード欄へ入力するわけです。(Googleの検索方法は、このページに解説があります)

検索結果のトップには、「図録海外旅行客数の推移」という社会実情データ図録のHPに掲載されているグラフへのリンクが第一位に表示されます。余談ですが、この社会実情データ図録というHPも、様々なデータをグラフで表示している秀悦なホームページです。のぞいてみると、2008年に日本から海外へ行ったのは1600万人弱ということがわかります。皆さんは、この1600万人という数値をどのようにお感じになられましたか?私は、思った以上に少ないなと感じました。日本の人口が一億三千万人弱です。海外渡航者は全人口の12.3%となります。そして1600万人という渡航者は、同一人の複数回数の渡航数は一人とはカウントされずに、複数人とカウントされます。このことから、私は

「海外へ年一回以上行っている日本人は、10人に一人程度以下」

ということを知りました。しかし、このデータは今回の目的を満足しないので、検索結果の第二位以下を参照してゆきます。

そして、検索結果の第二位に観光庁のホームページへのリンクがありました。観光庁のホームページを見ていくと、日本からの入出国を司っている法務省入国管理局というホームページがあることがわかりました。各省庁は、統計データの多くのデータを公開しています。私は、そこにある種の頑張りを感じています。そして、今回の様に経年変化を見る場合のデータを入手することで、その公開方法にもいろいろ試行錯誤があるんだな、と感じることもできます。(ちょっと話が横道に逸れました)

法務省入国管理局のホームページには、海外渡航者の年ごとの数値データありました。毎年前年度と比較する形で公開されています。図表はPDF化されています。今回のPDFでは埋め込まれたテキストデータを読むことができたので、容易にエクセルデータへ変換して、データの加工をすることができました。そのデータをグラフ化したものが以下になります。

ここで、そもそもエクセル形式は問題ないのですが、テキストだったりPDFだったりといったデータの場合、グラフ化するのにはちょっと工夫が必要になります。それ以外にもエクセルを使いこなす必要がでてきます。今回は、真実を読み取るための情報の入手、加工したデータからいろいろな仮説をたて、起こっている事象の根っこを捕まえるのが目的です。なので、個々のエクセル操作については解説をしません。(ごめんなさい)もし、ご興味があれば、ご自身で使用されているバージョンのソフト使用方法解説書をご一読されることをお勧めします。私は、困ったら力仕事に頼ることなく、まず使用しているソフトに元々含まれている機能を使うことはできないか、と最初に参照しています。私が使用しているのはオフィス2003なので、次の文献です。よりバージョンが新しいソフトをお使いの場合は、繰り返しますがバージョンに合わせた解説書を参照してください。

エクセル2003
(※他のソフトにも同じシリーズがあります)

そして、ここで後先逆になりますが「若者」の定義をします。入手したデータを参照すると、

20歳~24歳
25歳~29歳

といった様に、5歳毎に分類されてデータが表記されています。ここでは、上記に記したとおり、20歳~29歳を「若者」と定義します。そして作成したグラフが次の2つのグラフです。自分は30代だけど気持ちは……みたいなのは、残念ながら今回の「若者」とは見なさないこととします。(30代以上の方、ごめんなさい)

<グラフはクリックすると拡大表示されます>

グラフから判断すれば、確かに右下がりで減少している姿が浮き彫りとなります。うん、確かに減少していると判断できるわけです。

しかし、これは渡航者の実数での判断であり、傾向として「海外へ行かなくなった若者」との判断を行うことはできません。もしかすると、少子化の影響で、海外へ行かなくなった人数以上に20歳から29歳の若者の人数が減っている可能性もあるからです。そして次にこのように検索します。

人口 年齢毎 推移

すると、第一位で「統計局ホームページ/日本の統計-第2章 人口・世帯」へのリンクがありました。クリックしてみると、たくさんのデータがダウンロード可能な状態になっている(=リンクが張られている)のがわかります。そして、お目当てのデータはないか……と探していると、上から6番目のリンクに「2- 5 年齢5歳階級別人口(エクセル:26KB)」がありました。ファイルを参照してみると、まさに求めていたデータを見つけました。

元々のグラフには、平成12年から平成21年の海外渡航者の人数が記載されています。そして今回見つけた人口のデータには21年度のデータがありません。もう一度申し上げますが、今回は自分でそもそも提起した問題への解決が目的です。なので、絶対に21年度の数値を!でなく、ここは20年度のデータで傾向を掴むことを優先します。平成12年と平成20年のそれぞれの若者の人数の中で、どのくらいの割合で海外へ行っているのか、との比率を求めることにします。
H12年    H20年    増減(△は減、単位:万人)
人口     1821   1473  △348 △19.1%
海外渡航者   417    261  △156 △37.4%

結果として、海外に行かなくなった若者は、数値的には確かに存在することがわかりました。今度は「なぜ若者は海外へ行かなくなったのか」について、ほんとうの理由を探索しなければならなくなりました。そんなことを考えていると、「最近、商社に勤務する若者が、海外赴任を断るようになった」といった事が、海外に行かなくなった若者の象徴としてTwitterでつぶやかれていました。私は、ただ自分を納得させるために、この問題をネット検索によって追求することになりました。

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