決定版!調達購買視点での交渉論(牧野直哉)

<調達購買部門における交渉の基本>

2.交渉準備

③交渉シナリオの作成

今回のテーマ。「交渉は水物だ(出たとこ勝負)」との認識では、シナリオは書けません。しかし、シナリオ作成には次の三つのメリットがあります。

(1)自分に有利な、ゴールの明確な認識

シナリオ作成には、自分に、自社(バイヤー企業)にとって有利なゴール設定がないと作成できません。シナリオの作成の第一歩は、ゴールを設定して、交渉者である自分が明確な理解です。交渉は水物です。しかし、当初設定するゴールは、目指すべき方向をとしてクリアにし、水物にしてはならないのです。

(2)交渉途中のベンチマーク

交渉の最中に、有利/不利を判断するベンチマークとしての役割としても活用できます。複数の出席者によって議論が拡散した場合、状況判断の基準は、設定したゴールです。ゴールから遠いポイントで白熱した議論でなく、近いポイントへの誘導をおこなったり、合意可能性を計ったりする場合にも、必要です。

(3)交渉ロールプレイの実行

ロールプレイとは、疑似体験を通じて、ある事柄が実際に起こったときに適切に対応できるようにする学習方法です。有利で理想的なゴールを設定して、交渉相手に納得し最終的な合意を得るためにどう話すでしょうか。どうやって交渉の第一声を発するかから想定してみてください。シナリオは、想定問答の文書化です。「想定」ですから相手がいません。したがって、できる限り自社に有利な主張を展開します。そして「相手の反応は?」を、自分で導きだします。この部分で、日常的なコミュニケーションや、サプライヤマネジメントの実践による、サプライヤ=交渉相手の理解を最大限活用します。

これまでに述べた三点により、議事録を交渉前に作成するのも、よいアイデアです。

しかし、いきなり「シナリオ」と言われても作成できませんね。一つの方法として議事録の体裁で作成します。一般的な議事録の記載内容は次の通りです。

・交渉実施日時
・実施場所
・出席者 自社/サプライヤ
・合意内容
・サプライヤ主張の論点
・討議内容
・今後のスケジュール

七つの項目のうち、「討議内容」以外は、交渉前であっても書けますよね。

日時や実施場所、出席者は、予定をそのまま明記。合意内容は、自社(バイヤー企業)にとって有利なゴール。サプライヤ主張の論点は、自社(バイヤー企業)に有利なゴールを実現する場合に生じるサプライヤーのデメリットとなる部分。今後のスケジュールは、交渉に合意した場合の実行スケジュールです。

では、残された「討議内容」では、どのような準備が必要でしょうか。

④効果的な「質問法」

討議内容を考える中で重要なポイントは、サプライヤーの主張に対して、どのように反応するのかの事前検討です。より多くの質問を準備して、サプライヤーの出席者により多く話をさせ、十分な情報入手をおこないます。実際「討議内容」を考え、想定問答をおこなうと、交渉に至る前に十分な情報収集しているつもりでも、さまざまな疑問が浮かびます。そういった内容は、交渉の中で質問します。

質問をする際の注意点は、次の四点です。

・最終的なゴールを忘れない
・目的はサプライヤから多くの情報を引き出す
・話をさせてサプライヤに「満足感」を与える
・多くの情報から「矛盾点」の発見し交渉を有利に運ぶための「切り口」にする

バイヤーのおこなう質問は、次のプロセスで「型」を作ると、たくさんの質問ができます。たくさんの質問の中から、その場に最適な質問内容を取捨選択します。

(1)質問の5W1H

Why:理由をたずねる
What:問題点をクリアにし、相手に考えさせる
Who:人についてたずねる
Where:場所(生産地、国)についてたずねる
When:時間の前後関係についてたずねる
How:方法や感じ方、感想を訪ねる

(2)オープン質問/クローズ質問を使い分ける

オープン質問は、答えは相手に委ね、会話を広げ、サプライヤ主導で回答を導く
クローズ質問は、Yes/No、もしくは二者択一で、バイヤー主導ポイントを絞る、決断を迫る

(3)質問はシンプル/的確/1回に1つ

できるだけシンプルに答えられる質問を選び、オープンクエスチョンは「度合い」こそ重要です。回答する側(がわ)の選択肢が多すぎても回答に窮し、質問する側(がわ)も、想定問答が難しくなります。

最後に、質問した後、サプライヤーが質問に答えてる場面の対処方法です。

相づちや、回答内容をメモします。回答内容は、とても重要な内容で、真剣に聞いていますとのアピールです。回答によっては、質問の主旨と違っていたり、回答としては不十分であったりもするでしょう。バイヤーにとって、不満と感じるポイントです。しかし、その不満を態度で示してはなりません。質問の主旨を再度伝えたり、違った角度から質問したりして、言葉で、問題点としてサプライヤーに伝えます。具体的な対応によって、交渉を自社に有利に進めるのです。

(つづく)

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