決定版!調達購買視点での交渉論(牧野直哉)
<調達購買部門における交渉の基本>
3.交渉実践
③交渉TPOの設定
TPOとは、Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)の頭文字をとって、「時と場所、場合に応じた方法・態度・服装等の使い分け」との意味です。交渉におけるTPOには3つのポイントがあります。
(1)交渉する場所はどこか?
調達・購買部門における交渉の場合、多くは自社でおこなわれるはずです。サッカーで言えばホームゲーム。ホームゲームは一般的にホーム側に有利とされています。しかし、サプライヤは常にバイヤー企業での交渉を強いられており、調達・購買の交渉では、自社(バイヤー企業)で交渉といっても、場所による優位性はありません。逆に、自社(バイヤー企業)でおこなう交渉で、形勢不利では、事態は深刻だと受け止めなければなりません。
問題はアウェイ=サプライヤーでの交渉です。サプライヤーを訪問して交渉をおこなう事態も想定しなければなりません。しかし、交渉場所が、自社(バイヤー企業)かサプライヤーかで、交渉準備や交渉実践に違いはありません。同じように=平常心での交渉を心掛けます。
バイヤーがサプライヤーを訪問して交渉する場合、重要なのは「タイミング」設定です。自社(バイヤー企業)で、再三交渉をおこなったとの前提条件を踏まえ、最終的な交渉妥結するための訪問交渉。この場合は、交渉の総仕上げであり、最後のひと押しのタイミングになります。自社(バイヤー企業)でおこなう交渉よりも、より確実な見通しを持って交渉をおこないます。
(2)交渉出席者は誰か?
交渉前は、自社(バイヤー企業)とサプライヤーの双方で、出席者の確認をおこないます。サプライヤーの出席者は、次のポイントは必ず確認します。
・いつもと同じか、違うか
日常的にやりとりしている担当者以外に出席者がいるかどうかで、対応を検討します。例えば、サプライヤーの上位役職者の出席すると、事前に連絡を受けた場合は、目的を確認します。たんなる表敬なのか、それとも別の目的か。「当日、部長から説明します」といった場合で、バイヤーに状況が想定できない場合は、自社(バイヤー企業)には悪い方向性での準備をするべきです。
・サプライヤ出席者に「意志決定者」が含まれるか
ここで「意志決定者」について、少し考えます。
一つ目は社内ルール視点です。近年では、内部統制の厳格化の流れを受け、株式上場企業の場合、決裁者ごとに、決定できる金額が設定されています。10万円以下だったら、主任・係長クラス、100万円以上なら課長、1000以上は部長、2000万円以上は調達・購買担当役員といった形です。交渉相手であるサプライヤのこういった基準を理解するのも、意志決定者の見極めに役立ちます。
もう一つは、社内への影響力視点です。サプライヤの中には、実務的な交渉をすべて担当者がおこなう場合があります。これは取引金額が少ない場合がある一方で、サプライヤの担当者が、上司や社内の信頼があって、仕事をまかされている場合もあります。一つ目のサプライヤの社内ルールの中で、担当者が調整力や影響力を持っているケースです。この場合、自社(バイヤー企業)にとってのサプライヤーの意志決定者が、イコール担当者であると考えます。
・双方の出席者のバランスはとれているか
これは、出席者の職位です。出席者の役職レベルを気にする人も、自社(バイヤー企業)、サプライヤーの双方に存在します。サプライヤーの部長が出席しているのに、自社(バイヤー企業)側から、役職なしの担当者だけの出席だと、サプライヤーの部長が気分を害してしまう場合などを想定した対処です。こういった部分は、次に述べる「配慮」との側面もあります。サプライヤの上位者が来訪する場合は、事前に出席者の摺り合わせをしておきます。
(3)交渉相手への配慮
例えば、夏場にサプライヤと自社(バイヤー企業)で交渉する場合、どのような配慮が必要でしょうか。
著者がもっとも気にするのは、交渉する場所の温度設定です。自分が使用する直前まで誰かが使用していたのであれば、空調もコントロールされているでしょう。しかし、誰も使用しておらず空調の電源が切られている場合は、あらかじめエアコンのスイッチを入れておきます。特に交渉内容がサプライヤにとって不快な内容の場合、すこしでも不快となる要素の排除が狙いです。
(つづく)