「ダイエット産業の分析」(坂口孝則)

痩せ過ぎのファッションモデルは、あきらかに栄養不足であり、ファンの女性たちに悪影響を与えると論じられました。また、オールドネイビーが、体型のよい女性向けにビッグサイズを高めの価格で販売したとして、抗議署名が集まりました。差別的だというわけです。とはいえ、いっぽうで、ダイエットはずっとブームです。昭和初期からダイエットを促す広告は新聞に掲載されており、ずっと私たちは痩せたい願望を抱いてきました。

体重の推移を見てみましょう。「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると、読者層と思われる30代男性は、1975年に平均体重が61kgだったところ、2014年には69kgまで増えています。おなじく30代女性を同期間で見ても、52kgが55kgとあがっています。「食料需給表」(農林水産省)で見ると、75年当時に肉類は、一人あたりたった18kgにすぎなかったものが、近年では30kgと増加しており、肉食を中心とした食生活になっているとわかります。

ダイエット産業は、その定義が難しいため、統計の幅があまりに大きく、3兆円から30兆円までその市場規模を試算されています。国民ひとりあたりで割ると、3万円から30万円です。岡田斗司夫さんは、「1kg=1万部の法則」を提唱しています。著者が10kg痩せた経験から書籍を出すと10万部、50kgなら50万部というわけです。

では、痩せる経済効果はどれほどでしょうか。正確に計算できません。ただ、ダニエル・S・ハマーメッシュは『美貌格差』のなかで美人は8%トクし(収入があがりやすく)、ブスは4%のソン(収入が減りやすい)と収入差を説明しています。痩せると美人になるわけでなく、太るとブスになるわけではありません。ただ、最大効果として紹介します。

年収250万円の女性が10年ほど働き、専業主婦になるとします。すると、2500万円の8%で200万円、4%で100万円ですから、その差は300万円となります。これを高いと見るか、安いと見るかはひとそれぞれでしょう。なお、日本の場合は、同一会社で収入差がさほどあるとは思えませんから、そもそも、入社面接などで差をつけられるかもしれません。とはいえ、どこかの会社に入社すれば大きな差はありません。

しかし、これは周囲からチヤホヤされたり、おごってもらえたりする回数が増えるなどの効果は計算していません。経済的効果よりもむしろ精神的な効果が大きいでしょう。

いっぽうで男性は、定年まで働き続けるケースが多いでしょうから、差は大きくなります。ですから、ダイエットすべきは、女性ではなく、むしろ男性の側なのです。米国では上流層はダイエットに励み身体をスリム化し、そして、下流層はファストフードとジュースで肥満化し、格差が拡大するさまが報じられています。

ただ、さほど悲観することはありません。大金を払わずとも、節制によりダイエットは可能だからです。基本的に食わなければ大丈夫です。ダイエット産業のみなさん、怒らないでください。イカサマといっているわけではありません。『ダイエット産業』を入れ替えると『詐欺だとよう言えん』となるくらいですから。

<了>

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