調達・購買担当者の意識改革~特別編パート1「コスト目標を達成し、トップバイヤーになる2条件」(坂口孝則)
・調達・購買担当者は「要するに」何を確認すべきか
みなさま、お集まりいただきましてありがとうございます。これから「コスト目標を達成し、トップバイヤーになる2条件」について話します。私が入社したころは、放送禁止用語みたいですけれど「市農工商イヌネコ購買」なんていわれました。購買の位置づけはイヌやネコ以下というのですね。そこから私は調達・購買の地位向上の活動を続けてきました。
調達・購買の世界を変えるためには、まず調達・購買担当者がしっかりしなければいけない。「赤えんぴつバイヤーと黒えんぴつバイヤー」なる言葉を創ったのもそのころです。赤えんぴつバイヤーは、サプライヤの見積りを赤ペンで添削したり悪口をいったりするだけ。でも、白紙を出されたら何も言えないし書けない。自分なりの考えを述べ、道を切り開く黒えんぴつバイヤーにならねばならない。そういってきたんです。
今回は、「要するに」という話です。では、トップバイヤーとして「要するに」何をすればいいのか。これまで私塾では50回、一般セミナーでは何百回も教えてきましたけれど、この「要するに」をお話ししたい。
そこであげたのがこの二つです。午前中よりも偏差値は20ほど下がりますので(注・当日の午前中は別講師が講義を実施)安心してください。
つまり、工場と見積りをしっかり見たら「要するに」大丈夫ってことなんですね。QCD、そして労務・設備・管理費のことです。
あとでも話しますが、ここで工場、見積書についてそれぞれいっておくと、大事な順に並んでいます。やはり工場では品質、見積書では労務単価が一番大事。とくに見積書では労務単価=作業者のコストを査定できることが大切です。なぜならば、すべてのコストは最終的に労務費に行き着くからです。そのポイントだけ覚えておいてください。
・工場を見る力
では、さっそく工場のQ(品質)から行きましょう。みのもんたさんみたいで恐縮ですけれど、穴埋め問題です。
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「要するに」これだけ見ろということです。答えを出します。
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まず、床なんです。すぐれた工場は床がキレイ。この会場には日経BPの記者さんもお越しになっていますが、やはり取材でもすぐれた会社は床がキレイだとおっしゃっています。そうであるべきところに、ボルトが落ちていたら最悪です。ボルトが落ちるとは、「設備から外れた」「製品から外れた」「作業者が落とした」などの可能性があります。どれも大問題です。食品工場などで金属粉末が飛散しただけでも社会的問題なのですから。
次に、品質チェックを二重でやっているかです。たとえば、製品数をかぞえるとき、誰かが10個と確認して、違う誰かも10個と確認する……ではダメなんです。誰かはかぞえる。違う誰かは重さを測る、などせねばヒューマンエラー防止になりません。
そして生産速度をあげるだけが自己目的化していないかも確認すべきでしょう。
次はコスト側面から。
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これまた答えを出しますね。
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注目すべきは一番上だと思います。ライン長を測ることです。たとえば、類似製品なのに、サプライヤAとサプライヤBで違う工程のケースってありますよね。そんなとき、どう比較してよいかわからない。優劣がわからない。それならラインの長さを比較すればいいんです。明確な尺度でしょ?
良くないラインは、長いです。あるいは蛇行したり、一階から二階にモノを流したりしている。ラインの長さというのは、コストの象徴なのです。そういえば、日経ものづくりでは「コンパクトライン革命」という特集をやっていましたね。ラインが短くなるとコストも低下する……といったお話しです。本田技研工業や川崎重工業が取り上げられており、一読の価値があります。
そして私がよく言っているとおり、作業者が1秒うごけば1円です。1m動いても1円と考えておけば、どれだけ工場でムダが生じているかわかるでしょう。そもそも、工場というのは、「設備か人の手が製品に触れている瞬間以外は、すべてムダ」と思ったほうがいい。工場とは、見えない固定費の雨が振り続ける場所なのです。
最後にD(納期)観点から。
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これまた答えを出しますね。
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D(納期)だけを取り上げるのはやや困難を伴います。なぜならば、品質やコストとも密接だからです。だって、早く作ればD(納期)だけではなくコストも安くなるのは当然ですよね? だから、完全なD(納期)項目ではないのですが、これらをあげました。
とはいえ、ムダ作業は、リードタイム・サイクルタイムの遅延に結びつきます。工場作業者の「視線」よりも高めにモノが置かれていれば、作業域外ですから当然ながらロスです。また、一番よいのは、朝に工場作業者が職場に行って、動くのはランチのときだけ。食堂に移動するとき以外は動かない。これが最高です。足を動かしてはいけません。
5Sもそうだと思うんです。難しく考えないこと。整理・整頓・清潔・清掃・躾といったものをどうとらえるかですが、工場現場では割りきって「作業者が一動作で必要なものを取り出しているか」見れば良い。そう考えればだいぶスッキリします。
もちろん、これは「要するに」ですから、異論をお持ちのかたもいらっしゃいますよね。でも、繰り返すと、私なりの「要するに」なのです。「要するに」トップバイヤーの視点は何なのか。まあ、俺がトップバイヤーかよっていう疑問もあるでしょうけれど、まずは工場編の「要するに」を終えます。
次回は、見積書を眺める力の「要するに」です。