調達・購買担当者としてこれだけは知っておくべき契約書の基本~その2(坂口孝則)

調達・購買担当者として、最低限、知らねばならない内容についてお話していきます。これを話そうと思ったのは、某社から契約に関する研修の打診があったからです。とはいえ、研修というほどの大げさなものにする必要はありません。

調達・購買担当者の仕事として、サプライヤと契約書を締結します。ただし、契約書の雛形を利用するがゆえに、その意味をさほど把握していないのが実情でした。違うでしょうか。ただし、私たちは調達・購買担当者であって、法務担当者ではありません。したがって、あまりにマニアックな細かな項目の学習は不要でしょう。ただ、勘所と肝要点のみは把握しておく価値があります。だから、研修会にわざわざ参加しなくとも、契約について「だいたいわかる」必要があるのです。

ということで続きです。

今回のポイント①:支給材に関する項目

よくサプライヤへ支給したものについて、サプライヤと解釈がわかれるケースがあります。たとえば、支給品の所有権はどうだとか、あるいは無償支給がよいとか、有償支給がよいとか議論する場合があります。そのような支給で気をつけておくべきことは何でしょうか。よくあるのは、次のような条項です。

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【ここでの注意書き】
・下請事業者は支給材を遅延なく受入検査を実施し、不良や数量不足については、親事業者に通知することとされている。この義務違反時は補修等の請求は認められない
・ただし、通常解釈では外観検査を主体とし、そのていどで良いとされていることに注意
・無償支給の場合は原則として親事業者に所有権がある
・有償支給の場合は支給時点か代金完済時点に移転させることを契約で定める必要がある

あまり知られていませんが、とくに断りがない場合は、支給品に関しては「外観検査」くらいでよいとされています。よく、調達・購買担当者が、支給品で不良品がのちのち見つかった際に「受け入れ検査をやっているんだから、あなた(サプライヤ)側で不良品を見つけておくべきだった」とボヤきます。しかし、サプライヤに求めるのは酷です。というのも、支給品は良いものが前提であり、数量をかぞえるのがせいぜいだからです。繰り返すと、検収について特別な検査を取り決めている場合は別です。

そして、無償支給と有償支給では、所有権が異なると認識しておきましょう。一般的には、有償支給のほうがサプライヤの無駄遣いを抑制できるとされています。

ところで追記しておくのであれば、有償支給材の場合に、サプライヤが倒産危機に陥ったとします。その際に「いまのうちに支給材を引き上げよう」という調達・購買担当者がいます。ただ、その場合、支給時点で所有権が移転するのであれば、勝手に引き上げることはできません。

今回のポイント②:金型の譲渡/貸与

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【ここでの注意書き】
・金型の譲渡とは、金型の所有権を移転し、下請事業者の所有物となった金型を使用する
・価格の上限は合理的に市場価格と比して決めるとされている
・金型の貸与とは、金型の所有権を留保したまま、金型の利用を許すもので、下請事業者に保管義務がある

なお、サプライヤの保管義務とは、”善意的に”要求されます。では、その善意的とは、「自らの所有する金型に施すていど」の保管を要求します。ですから、必要以上の要求はこれまた酷な話です。たとえば自社が特別な金型保管義務を課すのであれば、その旨、別途、保管の覚書を締結する必要があります。

今回のポイント③:商品の受領

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【ここでの注意書き】
・商法第526条は受領側は、商品を受け取ったときに、遅延なく検査し瑕疵や数量不足を連絡するべきとしている
・直ちに連絡しなければ、売り手の責任を追求できない、ともしている
・検査期間は一般的には一週間程度と解されている。ただ、これは下請法の代金支払い日数には影響を与えない。また、下請法では検査完了日の明記を求めている
・下請事業者に検査を委託している場合、”納入後6ヶ月~例外時でも1年以内”を超えて返品することは不当な返品として運用している

サプライヤから商品が納品されるとします。その際に、「遅延なく」検査し瑕疵や数量不足を連絡するべき、としており、それは”一週間ていど”なわけです。意外に短いと思いませんか。

また、検査うんぬん、というのは、下請法の支払いとは無関係です。つまり、検査がどれくらいかかろうが、あくまで下請法上では受領後60日以内での対価支払を要求しています。検収と受領とは異なるため、あくまで受領日から60日を起算すると注意してください。

調達・購買担当者として、契約書のなかでここくらいは注意しましょう、というポイントを説明しました。次回で最後です。

(つづく)

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