「断らない力」は人生を変えるのか(坂口孝則)

自慢ではありませんけれど、私は「断らない」男です。仕事を断ったことはほとんどありません。講演や執筆関係は、頼まれたら「やります」と即答することがほとんどです。

ただ、その「断らない」性格を、あまり誇らしく思ったことはありませんでした。どちらかといえば、その性格は自己を多忙にするだけですよね。

私のような「断らない」男は意外に多いのではないか。だから、勝間さんの「断る力」はヒットしたのでしょうし、心のどこかでは他者からの依頼をすぱっと拒絶してみたい願望があるのでしょうね。

私は2010年に本を3冊出しました。「調達・購買戦略決定入門」「会社が黒字になるしくみ」「会社のお金を学べ!!」。これらは類書に見えながら、それぞれ切り口を変えています。すべて自分で書いていますので、そのへんの調整は可能です。

みなさんから見たら「同じような内容が書かれているのではないか」と思われるかもしれません。ただ、相当な売れっ子を除けば、他の本と類似内容を書くことは許されません。どの出版社も筆者に唯一無二な内容を求めます。「なんでも良いから書いてくれ」と頼まれることは、通常レベルの著者の場合、ありえません(すなわち私ようなレベルの著者の場合のことです)。

ちなみに私は、11月に幻冬舎から経済と商売の新たな潮流を描いた自信作を発表します。おそらく自分で書いたなかで一番面白い作品になっているのではないか。加えて、12月には朝日新書から、個人がいかに節約生活を実践すればよいのかについての本を出します。これまでの節約本って、なんだかケチ臭かったでしょ。ラクに優雅に、かつ自己成長を図りながら節約しましょうという本です。これもなかなか面白い。と自分でいうのもヘンですけれど。

さらに、12月か2011年の1月には、某有名経済学者の方と対談本を刊行します。これまでの経済本ではありえなかった工夫が満載です。

ほら、書きすぎですよね。やりすぎかもしれません。働きすぎでしょう、明らかに。「断らない力」を発揮するのはよいけれど、これほど仕事を引き受ける必要があるのか。

と思っておりましたところ、最近話題になっている「断らない人は、なぜか仕事がうまくい」を読みました。出版社から送ってもらったのですが、期待せずに読んでみたところ(失礼!)、これがなかなか面白いのですよ。すると、私が改善しようとしていた「断らない力」も、見直す必要が無いのではないかと思うに至りました。

著者はなんと仕事の半分くらいはお金をもらっていない(!)と断言し、そんなボランティアのような仕事から金の人脈を築いてきたようです。正直にいえば、私は仕事でお金をもらわないとダメだと思っていますし、人脈をあまりに重視する風潮はいかがなものか、と思います。ただ、そのような著者の極端な「断らなさ」も含めてなかなか読ませる本です。

思い出してみるに、私の師匠にあたる柴田英寿さんも「仕事を絶対に断らない」とおっしゃっていました。仕事を断るほど、チャンスが逃げていく。もっといえば、仕事を断らなければならないほど多忙なビジネスマンなどいるのか、と。効率的にやれば、どんなに多い仕事量であっても、こなせるはずだと。

そこで考えたのですが、「断らない」人には次の共通点があるようです。

1.断らないでも次々仕事をこなせる自信と実力がある
2.仕事と遊びの境界線が曖昧になっている
3.仕事のスピードが速く、それだけで周囲がその人に頼むじゅうぶんな理由になっている

こんなもんでしょうか。「断らない」人は、断らなくても仕事がまわる程度には能力が高いはずであり、かつ、その実力を周囲が認めている必要があります。

断らない人は、なぜか仕事がうまくい」で面白いのは、著者が映画「バトル・ロワイアル」に携わることになる箇所です。人生の偶然がめぐって、著者に僥倖をもたらすキッカケは、そもそも著者が「断らない男」であるからでした。

もちろん、「断らない」人が次々に仕事を引き受けて、それらをすべて頓挫させてしまえば単なる無能な人にすぎません。ただ、そこには広いビジネス経験と、深い見識に基づく論理が必要です。

しかしーー。私はこの「断らない人は、なぜか仕事がうまくい」を読んで思いました。「断らない」人という生き方も悪くない。もし仕事に行き詰まりをお感じの方がいらっしゃったらご一読を。そんな生き方がきっとあなたの人生を好転させてくれるはずです。

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