ケーススタディ公開 解説編(牧野直哉)
1. ケース詳細解説
(1) 調達購買戦略は、機能戦略であり下位戦略
【ケース本文】堀江:「はい……わかりました。やってみます。少し気になるのは、社長の「抜本的」な指示は、我々だけにではないのですよね?例えば、経営企画や、営業、技術には、どんな指示が出ているのでしょうか。他部門が検討した結果によっても、このサプライヤー群をどんな形で維持・発展させてゆくかは、大きく影響を受けると思うのですけどね」
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要求元が欲していない購入を調達購買部門は実行できません。したがって営業戦略や技術戦略によって調達購買戦略、サプライヤー戦略は大きな影響を受けます。具体例を挙げれば、激烈な価格競争の下で社内的にもコスト削減対応への優先度合いが高い場合と、確固たる品質を企業として確立する局面では、発注するサプライヤーや、発注戦略には影響します。コストに優先度合いが高い場合は、サプライヤーの評価でのコスト面での評価を抽出し、現状と比較してコストに優位性のあるサプライヤーへの傾斜発注を新たな戦略とするといった対応が必要で、企業戦略との整合性を確保しなければなりません。
(2) 予算獲得スキルの重要性~コスト削減にも費用が発生する
【ケース本文】半沢:「そうだな、その辺は俺が情報を集めてみるよ。今日明日待ってくれ。各部門にでた「抜本的」な指示をヒアリングしてみる。あと、最後の指示は、俺が対応するけど、もしなにか提案があれば、俺に言ってくれ。充足しているリソースなんかないけど、こんな機会だから、IPOの設立予算と、バイヤー教育の予算を言ってみようと思っている。せっかくの機会だから、いろいろ提案しようと思っているから、なにかアイデアがあったら教えて欲しい」
企業内で自由に仕事をするために予算は必要です。例えば、グローバル調達の実践に際しても、海外のサプライヤーとの取引に際してサプライヤー監査をおこなうためにも、渡航費や現地滞在費用、サプライヤーへの試作費用は必要になります。なにかを起こそうとするとき、できない理由に「予算がない」というのは、これから淘汰されるバイヤーである可能性がもっとも高くなります。予算獲得能力スキルの欠如です。自分の責任となる業務をおこなう上で必要となるリソースを考えるときに、最低限必要な「予算」を確固たる根拠で要求し、かつ確保する能力が必要なのです。
(3) 調達購買部門も市場に接している~技術部門へのサポート
【ケース本文】① Jungle.com社の国内物流センターの商談では、当社の抱える問題点が明らかになった。いつまでも「モノ」だけを作れば良いとの考え方から、脱却する最後のチャンスだ。
③ 従来から言われ続けているシステム構築力の弱さをどう克服するか。もし、技術部 門だけで改善策が描けないのなら、社内に協力を仰いだり、外部のコンサルタントを活用したりしても良いから具体的なアクションプランまで描け
⑤「良いモノ」でなく、「売れるモノ」はなにかを突き詰めろ。どこかオフサイトで、技術のメンバーだけで缶詰合宿をしてもいいから、突き詰めて、共通認識を構築し、対策を講じろ。
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調達購買部門も、モノやサービスを購入する市場に接しています。ケースに記載されたような状況は今、日本の多くの企業で直面している状況です。このような場合、他社はいったいどのようなサプライヤーを活用して、自社と異なる受注を勝ち取っているのかとの疑問を持ちませんか。そのような疑問を持った場合に、自社の置かれた対競合企業に対するポジショニングを確認するため、競合メーカーのサプライヤーへの発注内容(範囲)についてサプライヤーに確認するのも一つの手段です。調達購買部門として、競合企業の調達購買部門とはなかなかコンタクトを持てません。しかし、サプライヤーの営業パーソンは、大手を振って堂々とコンタクトしています。サプライヤーと競合企業の間では機密保持契約を締結しているでしょうから、事細かな詳細を聞き出せませんし、そういった内容を話せという要求も慎むべきです。質問内容は工夫すべきですが、競合企業の状況掌握は、調達購買部門からでも可能なのです。
<つづく>