読者からのQ&Aコーナー(坂口孝則)

読者からの質問:多くの本を先生方が出されていますが、読む順番でいつも迷います。おすすめの順番があれば教えてもらえるとありがたいです。

坂口答え:ご質問ありがとうございます。答えは「全部買ったほうが良く、順番はランダムでかまいません」となります。が、それだけでは短すぎますよね。それで、この機会に、先日、私が某所で実施した講演会の書き起こしを載せておきます。タイトルは「いつか本を書きたいあなたへ」というもの。これは文字通り、「いつか本を書きたい」ひとたち以外にも面白いと思いますので、お楽しみください。

<書き起こし、ここから>

・本を書くための基本的戦略

お招きいただきありがとうございます。今回は「ビジネスマンが本を出すために」ということでして、私が23冊も本を出しているから、なんか話せと依頼されました。

出版社へのアプローチだとか具体的な企画書の書き方については、これまでも述べてきましたので、繰り返しません。それに、その専門家の方もいらっしゃいますし。ここでは、やや抽象的かもしれませんけれど、私が重要だと思うことを述べます。

この講演で言いたいことは一つ。「読者一人の即物的な利益につながるような書籍でなければ、デビューは難しい」ってことなんですね。現世利益といってもいい。すぐさま役立つかどうか。それも、姿勢とか思想とかではなく、具体的な知識だったりツールだったりアクションだったり。そういうものでなければいけません。

私は、知識には三つ分類があるといっています。「思想」「マニュアル」「ツール」です。「思想」というのは、<仕事に対する想いや考え、哲学を述べたもの。原理原則を述べるもの。大学の授業やMBAの講義のようなもの>です。
「マニュアル」というのは、<業務の手順を述べたもの。改革ステップを述べたもの。実践的、実務的。頑張れば誰でもできるもの>です。
最後の「ツール」というのは、<業務で使える表や道具。PCファイルなど。より実践的、より実務的。そのまま使えば、そのままやれば誰でもできるもの>です。

この三つのうち、役立つのは「ツール」「マニュアル」「思想」の順です。たとえば、「これから社会に出る君へ」とかの本を企画したとします。おそらく通らないでしょう。大御所ならばともかく、処女作としてはいけない。まずは「ツール」できれば「マニュアル」を目指すべきです。私の処女作は「調達力・購買力の基礎を身につける本」というものでしたが、これは「ツール」よりの「マニュアル」本です。それが売れてから「思想」を書けばいい。

だから、はじめて本を書こうとするひとは、迷わずに、自分のなかから「ツール」「マニュアル」を絞り出して企画書を書きましょう。

調達・購買でいえば、どうやったら仕事ができるようになるのか、手順を書いてあげる。あるいは具体的な表だとかエクセル表とかを提示する。逆にいえば、そこまで落とし込まなければダメなんですね。

・私たち調達・購買担当者の関心事

そこで重要なことを話します。私の処女作は「調達力・購買力の基礎を身につける本」は、徹底して個人の立場から書いたものです。一人のバイヤーとしてどううまくやっていくか、卓越した能力を発揮していくか。もちろん、会社全体のことを考えるように、とも書きました。しかし主題ではない。徹底した個人主義をベースとしたものです。そのあとに「だったら、世界一の購買部を作ってみろ!」という本を書きました。これはお読みいただいたかたはわかるとおり、「購買部を作」るものであるのに

かつては、違うトーンもありえました。「会社をどうにかしよう。そのために、がんばるんだ」というもの。会社という大義名分があって、そのためにがんばるんだ、と。植木等さんの無責任男シリーズがありましたけれど、あれがギャグとして成り立つのは逆説的には、みんなが無責任じゃなかったということ。会社のためにとにかく必死だったんです。

最近はドラマ「半沢直樹」が人気ですけれど、あれも、会社全体のことを考えた行動というより、半沢直樹個人のトラウマが基になっている。復讐劇です。

こういうことをいうと、「いや、会社主義の崩壊なんて、いまにはじまったことではない」と反論されるかもしれない。たしかにそうです。ただ、その崩壊が徹底してきた。会社主義の終焉といっても、ほとんどのひとは「たいしたことがない」と思うでしょう。しかし、これは決定的な意味を持ちます。

なぜなら、会社主義とは、計画された戦略や練られた思想をもって全社一丸となれば、会社も個人も幸せになれるんだ、というものだからです。全体がコントロールされ、社会全体が一つの夢に向かって進む、という幻想が完全に崩壊してしまったのです。そうなると、会社員は一人ひとりが、「個人としてどうすべきか」を考えざるを得ない。全員がタコツボ化して、自分の好きなことしかやらないし、自分の好きな仕事にしかつかない。「全員オタク化現象」とも呼ばれますし、「自分探し」なんてバカげた流行も、この文脈で読み取るべきです。

私の「調達力・購買力の基礎を身につける本」も、その文脈で受け入れられました。徹底した個人主義とはそういうことです。会社や社会や世間がどうなるかはわからない。でも、いまのうちに俺たちは、スキルや知識という武器を準備しておこうと。

いくつかの感想で、「この著者は頭がいい人かもしれないが、まわりはそうではない。もっと会社全体や部門全体を考えた方がいい」という感想もありました。予想できた感想です。「そうじゃないんだよ、そんなことは、少なくとも多数のひとを動かす力にはなりえない」と思っていました。

だから、繰り返しますが、調達・購買担当者個人として、役立つ情報を発信せねばなりません。私は一貫してマネジメントを書きませんでした。興味がなくはない。ただ、そのマニュアルやツールは調達・購買に特化したものではなくなってしまうでしょう。それに、マネジメントを書くのであれば、いかに部門を管理していくか、部下を指導していくか、に加えて、マネージャー本人になんらかの力を与えるものでなければならないでしょうね。マネージャー個人の力を組織のために使うのではなく、組織を籠絡する経験をマネージャー個人の力につなげていく。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、主旨は「組織のための個人」ではなく「個人のための組織」であるべきなのです。

ユーミンは彼とのデートにおけるドライブを歌いました。そのときクルマは固有名詞で描かれています。「いつかはクラウン」という言葉もあったとおり、この時代はまだ大きな物語が信じられていました。大きな物語というのは、社会全体が発展し続け、そのために会社や個人が一丸となればいい、といったものです。その後、ドリカムでは、彼との関係だけが描かれ、フォークユニットゆずが歌う世界では恋人たちが乗るのは自転車です。そして渋谷歌姫の歌う世界では、恋人たちは部屋のなかで閉じこもり、自分たちの内面を見つめる。見事なほど、大から小、右肩上がりから左肩上がりへ(笑)の移行です。

・私たち調達・購買の世界はどう変わっているのか

しかし、これは調達・購買業務自体が変わっているわけではありません。考えるに当たり前ですが、仕事の基本はどんな時代もそんなに変わらないものです。あくまでも関心事が異なる。カテゴリマネジメントだとかグローバルソーシングとかの流行語はあります。でも、基本は変わらない。

そこで本を出すという観点に戻します。みなさんがリサーチするときに、できれば本をたくさん出しているひとのものを買って下さい。可能ならすべて買うことです。でも、30冊とか40冊とか買いたくなければ、そのひとの「処女作」と「最大ヒット作」を買って下さい。私の場合だと「調達力・購買力の基礎を身につける本」と「牛丼一杯の儲けは9円」「調達・購買の教科書」になるでしょうか。それに、そのひとのすべてが詰まっている可能性が高い。サザンオールスターズの桑田佳祐さんは、デビュー・アルバム「熱い胸さわぎ」が最高傑作とおっしゃっているようですが、わかります。すくなくとも作り手は、それまでの人生をすべて処女作にぶつけるのですから、つまらないはずがない。少なくとも、その後に活躍できている実力者の処女作は面白い。

でも、繰り返しますと、できれば気になったジャンルの本や、気になった著者の本はすべて買ったほうが良いですね。その見返りはたくさんあります。少なくとも、本を書きたいと思うみなさんだったら、ソンはしません。

これはちょっと話がそれるのですが、「ゆっくり勉強しよう」という気持ちが、私はほとんど理解できないのです。本でも教材でも学習CDでもなんでもいいのですが、1冊ずつとか、1枚ずつとか買うよりも、一気にまとめて買って、まとめて読んだり聴いたりするほうが全体を俯瞰でき、時間もショートカットできます。はるかに学習効率が高い。「お金が足りない」とおっしゃるひともいますけれど、これほど学習が大切な時代において、数万円の支出も捻出できないひとは、ちょっと違う問題があるんじゃないかと思います。私は月給20万円、もちろん手取りはもっと低かった時代からそうやっているんで。

話を戻します。

本を書くことで人生は激変しません。ただ、少しずつ変わります。テレビに出演できるかもしれないし、ラジオに出演できるかもしれないし、雑誌からインタビューされるかもしれない。みなさんがホンモノのプロフェッショナルだったら、本の出版によってどんどん可能性が広がります。ちょっと他者の営業妨害ですが、書籍企画書の書き方なんて、まあ、ほんとうはどうでもよいのです。自分なりに考えて、まずは編集者に見てもらう。これが一番大切。いまなら、やる気になればいくらでも出版社の住所を調べられるでしょ。切手代だけで、その先に夢が広がっているとしたらわくわくすると思うんです。

私が偉そうにいってきてなんですけれど、テーマの時代性ってものも、ほんとうは意識しすぎなくてよいかもしれません(笑)。まあ、私なりの方法論や思考法は、今日お話した通りです。

でも、まあ、とりあえず企画書でも書いてみませんか? 絶対、面白い世界が待っていますから。偉い人が本を書くんじゃありません。本を書くから偉くなるんです。これは絶対的な法則です。面白いから本を書くんじゃありません。本を書くから面白いネタを探すようになるんです。知識あるひとが本を書くんじゃありません。本を書くから知識を身につけざるをえないんです。

かつて野口悠紀雄さんは「わからないことがあれば、本を書いてみればいい」というような名言を残しました。いや、ほんとうに面白いですから、今日の話をきいて、私と著者仲間になっていただけるひとを希求しております。よろしくお願いします。

今日はありがとうございました。

<書き起こし、ここまで>

(了) 

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