今どきのサプライヤー訪問を考える(牧野直哉)
実際にサプライヤーの工場を見学する際、生産現場をどのようにチェックするかは、バイヤーにとって非常に重要な仕事です。現場のチェックは、バイヤーの決定が正しかったのかどうかを改めて判断します。しかし多くのバイヤーにとって、正しく生産されているかどうかの見極めは非常に困難です。
バイヤーは購入製品に対して技術的な知見も学ぶべきです。しかしその深さはサプライヤーの現場担当者、バイヤー企業の品質管理担当者や生産技術担当者と比較すれば不足しているのが実情でしょう。そういったモノが理解できる担当者を引っ張り出すばかりではなく、技術的なバックグラウンドがなくてもサプライヤーの現場で迷うことがない確認方法について述べます。
基本的には、サプライヤーの生産状況確認し、その内容について良しあしを判断し、必要に応じて指摘や指導するのが理想です。しかし購入品にはあらゆる面でサプライヤーにノウハウの優位性があり、たまに訪問するバイヤーが簡単にいいか悪いかについて判断できないのが実態でしょう。
したがってサプライヤー訪問時のさまざまな場面では、まずサプライヤー自身が管理基準やルールを持っているかどうかを確認します。これは自ら正しい方法を設定している証です。管理基準やルールが確認できたら、それが現場で実行できているかどうかを自分の目でチェックします。実際に現場でおこなわれている作業について質問してもいいでしょう。その上で、サプライヤー社内で正しく実行できているかどうかを複数の人間が、明確な基準によって確認しているかどうか。確認を行った記録があるかどうかをチェックします。どんな工程であったとしても、この流れは変わりません。この方法であれば、どんな購入品であったとしても、サプライヤーの生産活動に対して良しあしの判断は可能です。
●作業内容確認方法
①生産
まず具体的な生産です。生産方法として生産ラインが敷かれているのか、それともセル生産と呼ばれる1人の作業者がすべての工程を担当する方式なのか。こういった生産方式の違いは、サプライヤーの企業としての考えや経験に基づいた最適・最良の方法が採用されているはずです。私個人の意見ですが、生産方式について深くその妥当性を言及するのは難しいと感じています。ライン生産であってもセル生産であっても、双方の方式に一長一短があります。どちらの長所に着目しているかが生産方式に現れていると考えるべきです。
したがってサプライヤーが採用している生産方法に基づいて、次の内容を確認します。
「この現場では、どのような作業を行っているのですか」
実際に現場を歩いていれば、さまざまな作業が目に入ってくるはずです。どんな現場であったとしても、作業内容をまず確認します。ここで注目すべきは、作業内容がどのように規定されているかです。
実際に加工なのか組立なのか検査なのか、さまざまな作業内容があります。またそれぞれの作業内容について、どのくらいの数量をどの程度の時間でおこなうかといったポイントもあります。そう言った内容を明確に作業員またはラインの管理者が理解をしているかどうか。理解するための作業指示書が存在するかどうかを確認します。
「作業の完了をどのように確認するのですか」
現代の品質管理の考え方は、不適合品を後工程に送らないことで良品のみを顧客に供給する考え方が主流です。どんな品質のものであっても出荷前の検査で全てを判断しようとすれば、それだけ検査にも工数が発生しますし、ある工程で発生した不適合品に対して後工程で無駄な作業を発生させてしまう原因にもなります。したがってこの工程を完了したと判断する基準は何かを確認します。
基準とは、その良しあしではありません。具体的な数値による基準値があり、その基準値を満たしていると複数の人間が確認して、かつ記録に残っているのが理想です。外観寸法や性能といった数値で表現できる基準値と、実際の測定値があるかどうかを最低限確認します。
ここで、モノに関して「傷汚れなきこと」といった表記が図面や仕様書に明記されている場合があります。理想的にはまったく傷や汚れがない製品が理想です。しかし傷や汚れは、企業によってそして個人によっても判断基準が異なります。したがって新たなサプライヤーを採用した当初の納入では、傷や汚れに関する判断基準を一致させる作業が欠かせません。
これまでに述べた内容が全て明文化されているかどうか。作業指示書として作業者にも管理者にも理解しやすい内容になっているかどうか。これは見学しているバイヤーにも分かりやすいかどうかで判断できます。製造現場の「見える化」といった活動が行われ、現場の作業に必要なツールや書類が規定されていれば、規定通りに現場で作業が行われているかどうかがポイントです。あらかじめ設定されたルールを順守しているかどうかが、技術的なバックグラウンドに乏しいバイヤーでも確認可能かどうかは、すべての関係者にとって分かりやすいかどうかの1つの判断基準になるはずです。
②運搬
サプライヤーの工場内で行われる「運搬」は、基本的にはできる限り運搬する距離を短くすれば、運搬にまつわるコストも発生せず、運搬時に製品の品質が劣化するリスクも防げます。
しかし全く工場内で運搬しないのも、少し非現実的です。ここで、工場を見学するルートについて、事前に「購入品のサプライチェーンに沿って見学させてほしい」との依頼が効果を発揮します。
ただ工場を効率的に見学するだけであれば、工場見学の出発点から終了点まで工場見学にとって効率的なルートを示すでしょう。しかし私たちバイヤーが確認したいのは、生産面で効率的かどうかです。もしサプライチェーンに沿って見学し、工場の大きさに比較して歩く距離が長い場合は、それだけ原材料や完成前の製品の状態での運搬が発生する可能性も高くなります。
この運搬に関しても、まず社内でルールが設定されているかどうかを確認します。設定されていれば、ルールの内容を確認しましょう。例えば重量によって手持ちできるかどうかが決定している場合、手持ちできるかどうかの判断を現場でどのように行っているかを確認してみます。また構内運搬時の品質保持方法について、何らかの保護剤や保護シートといったツールが使われているかどうかでも、品質保持に対するサプライヤーの姿勢が確認可能です。
(つづく)