【連載】調達・購買の教科書~インフラ、非大量生産系(坂口孝則)
今回の連載は色塗りの箇所です。
<1.基礎>
売上高、工事原価、総利益(粗利益)
資材業務の役割
建設業法の基礎
技術者制度
下請契約の締結
<2.コスト分析>
調達・委託品分類とABC分析
取引先支出分析
注文件数とコスト削減寄与度分析
労務単価試算、適正経費試算
発注履歴使用の仕組みづくり
<3.コスト削減>
取引先検索、取引先調査
コスト削減施策
価格交渉
市中価格比較
VEの進め方
<4.取引先管理>
ベンダーリストの作成
施工品質評価、施工納期評価(取引先評価)、取引先利益率評価
優良表彰制度
協力会社の囲い込み、経営アンケートの作成
協力会社への上限設定
<5.仕組み・組織体制>
予算基準の明確化、コスト削減基準の設定
現業部門との連携
集中購買
業務時間分析
業務過多の調整
業務分析から、無駄な時間を見つけ、そして代替案を考え、浮いた時間を付加価値業務に振り向ける。そのためには、まず自分たちが何をやっているかを確認するところからはじめます。
よく使うのが、このような大分類、中分類、小分類にわけるものです。業務を洗い出して、自分たちの業務実態を探ります。
そして、さらに図のように、どれだけの時間を費やしているかを明らかにします。それを一日あたり、月あたり、年間あたりに計算してみましょう。
ただ、これだけでは十分ではありません。というのも、重大な仕事であれば、別にずっと費やしていてもかまわないからです。そこで、次に、この業務を評価する必要があります。それが、図でいうところの、「VA」「BVA」「NVA」分類です。
VA(Value Added):付加価値を生む業務。「見積依頼先選定」「過去類似品の発注実績の調査・入力」「折衝」等
BVA(Business Value Added):付加価値は生まないもののビジネス上、必要な業務。「見積依頼書印刷」「見積依頼書FAX」「検収原票印刷」「SAP入力処理」等
NVA(Non Value Added):付加価値を生まず本来は必要ない業務。「請求票の修正作業」「見積書・仕様書の差し戻し」等
と定義できます。これをそれぞれの業務について○をつけていきます。
問題は、それぞれの業務に○をつけようとすると、ほとんどが、VAに分類されることです。考えてみれば当然で、自分が現在やっている業務がムダであると誰も認めたがりません。それは自分の職業的人生がムダと定義するようなものです。どんなに高貴な社員でもその傾向が見られます。ですから、この○付けは上司がやったほうがいいでしょう。
そして、何が組織にとって「VA」「BVA」「NVA」になるか基準は必要です。しかし、厳密な定義などできるはずはありません。ですので、基準はあるていど、曖昧にならざるをえません。それは必然です。それをあれこれと検討しようとするのは無意味です。この段階で知りたいのは、おおまかな傾向です。したがって、最後は、「適当でもいいから決めろ」といっておきます。
そして、業務を、部員ごとの時間に割り振ります。
こういう一連の作業で、業務が「見える化」できます。
最後に円グラフなどで表現すれば、どれだけVA業務に従業できているかわかるでしょう。ここで不必要なのは、評論家の仕事です。「ああ、これは、他部署の問題だ」とか「これは、日ごろの指示が悪い」とか「部員のスキルの問題だ」とか、なぜか、すぐさま評論しようとするひとがいます。しかし、それは不要です。この時点では、ただただ噛みしめればいいのです。
私は「この時点では」といいました。いや、この見たくない現実を見ることができれば、あとは何も解説は不要でしょう。勝手に改善策が頭に浮かぶはずです。それをただただやるだけで、この章である「仕組み・組織体制」は改善するはずです。
基本方針は次の通りです。
BVA→効率向上を目指す
NVA→行為をやめる
それぞれの組織によって業務はさまざまですので、どこの組織にも効く処方箋はありません。ただ、実際にやってみると、いろいろな問題が浮かび上がってくるはずです。重要なのは「問い」です。「この問題はどう解決すればいいだろう」という問いです。問題がクリアになれば、おのずと正解は導かれます。もっとも難しいのは、その問いそのものを創出することです。そして、そのためには、見たくない現実を見ることです。
メールと会議は悪習か
とはいえ、業務改善の一例もお話しておきます。
以前、某社の調達・購買部門にコンサルタントとして入っていたころ、業務分析を依頼されました。驚いたのは、その業務分析を重ねると、ほとんどの時間がメール、会議に費やされていたことです。とするならば、業務改革は、このメールと会議をどうするかにかかっていると断言できます。
さらに見ていくと、メールは次のような特徴がありました。正直、返信してもしなくても、企業や組織の運営に関係がないものに時間が費やされていました。もちろん丁寧に返信することが人間関係構築に重要だとは思います。しかし、意外に返信をしなくても、あるいは丁寧に返信しなくても、結果は変わらない場合も多いはずです。
そして、もう一つは、苦情に対応するメールは、相当な時間がかかっていたことです。あるいは、クレームにたいし細部を述べながら書いていくと、膨大な時間が費やされていました。私は電話使用に反対の立場ですが、ときには、さっと事情を電話で説明したのちに、簡単にメールで確認をしておくほうがスムーズかもしれません。
次に会議は、少なからぬ場合、意見をまったく述べないひとや、あるいは主催者側もサイコロを振るようになんら意図をもっていない場合が多すぎるようです。この会議については、この節の最後に解決策とともに、ふたたび述べます。
しかし、私が面白かったのは、メールと会議が意外な結果かというと、そうではないかった点です。むしろ、「ああ、そうだよね」という反応なのです。つまり、誰も、時間を浪費していると思っているものの、それでも既存の業務をやり続けていました。まさに慣性の法則です。それに楔を打ち込むひとがいなければなりません。
現在、SNS、あるいはLINEでのメッセージがさかんです。それは、きっとメールでの堅苦しい挨拶を忌避している裏返しと思わなくはありません。ビジネスに礼儀は必要です。しかし、けっきょくは程度問題でしょう。
次のような対策を講じました。
●メールは挨拶文などを省略する
●メールは短文ほど良いとする
●報告メールは返事をしない
●期限の書かれていないメールは、勇気をもって無視する。フォローメールがきたら「期限が書かれていなかったので、何もやっていません」と堂々と書く(そうすると、直に、相手への優しさとして必ず具体的な期限を書くようになる)
●メールを開いた瞬間に「返信ボタン」を押し、読んだら「了解」「承知」などと書いて送付する
●メールのCCは読まれないと思って送付する
これだけですが、業務時間はかなり軽減します。なかには、自分の業務が少なく、やることがないために、長々とメールを書いてくるひともいます。そういうひとには、残念ながら上記の方針を説得させることができないかもしれません。ただ、基本は上記のようにすればよいでしょう。
さらに、これは特定のひとたちだけではなく、部門や、その部門にかかわるひとたちに一斉に通知しておく必要があります。「こういう方針ですからよろしく」と。働き方改革の昨今、ほぼ反対することはありえません。私は必ずしも、企業活動のすべてで効率向上を目指す必要はないと考えます。ある種の余裕が創造性につながると考えるからです。しかし、業務連絡のたぐいは、効率的であったほうが良いに決まっています。
調達購買改革は会議改革からはじまる
一つの笑い話があります。以前、某企業でグローバル会議を実施しました。日本人は時間通りに来るのですが、東南アジアの社員はまったく時間通りに集まりません。ただ、終了時には、東南アジアの社員は会議室を出ようとするのですが、日本人はダラダラとまったく終わる気配がありません。では、どちらが時間にルーズといえるでしょうか。会議が悪いのではなく、運営と事前準備が不足している会議が悪いのは間違いありません。会議関連の本を部員に読ませるだけでも効率が圧倒的に違います。
会議のたびに怒りたくなることがあります。それは、意地悪なひとたちの存在です。会議がまとまりそうになったら、いきなり口を開いて、意見を言い出します。それまでに誰も気づかなかった観点なものですから、発言者はしたり顔です。それで会議はフリダシに戻ってしまいます。このテのひとは、私の考えでは、凄そうに見えて害虫であるケースがほとんどです。なぜならば、「会議は議長が決めるのではなく、一人ひとりが決めるのだ」と当然の気持ちを持っていないからです。
会議は参加者と主催者がいるのではありません。全員が決定事項を導く場です。その気持を共有しておらず、「お客様」に徹する参加者などほとんど存在意義がありません。ところで、私がこれまで会議に参加してきて、有効だった施策を三つほどお話します。「調達購買改革は会議改革からはじまる」とは大袈裟かもしれません。でも、社内外との折衝機会の多い調達・購買部員ですから、会議効率化の手法を知っておく価値はあるでしょう。
一つ目は、さきほど書いたとおり、全員に主体的に参加してもらうことです。会議の冒頭で、こういうと有効です。「私たちが決めるのであって、一人ひとりに責任があると思って発言してください。会議の最後になって、ひっくり返す発言をして、何も決まらないのはそのひとの責任です。だから会議中には積極的、建設的に発言してください」と。これでだいぶ変わります。
二つ目は、会議終了時間をつねにホワイトボードに書くことです。10分おきでかまいません。60分の会議であれば、「残り60分」からスタートして「残り50分」、「残り40分」……としていくわけです。会議はどうしても前半部分に時間を使いすぎ、後半はまとまりなくなりがちです。それを残り時間カウントによって切迫感を醸成するわけです。これまた、残り時間が「見える化」するだけで、だいぶ会議が変わります。
三つ目は、会議室にできればホワイトボードを二つ用意します。そして、サブのホワイトボードに「PA」と書いておくのです。これは「パーキングエリア」の略で、脱線した意見を書いておきます。脱線した意見をイチイチ議論しては時間が足りません。しかし、脱線した意見を無視するわけにもいきません。無視されると参加者がイヤになりますからね。
なので、脱線した意見だと議長が判断すれば、それは漏らさず、PAエリアに書くのです。そうして、最後のまとめ時の際に、PAをまとめて議論します。そのときには、PA内容は解決している場合も多いですし、なによりも発言者がどうでもよくなっています(笑)。いや、「(笑)」とは書きましたが、これは立派な会議効率術だと私は思います。それが、ホワイトボードを一つ余計に用意するだけで実現します。
思うに、会議術は、日本人やアジア人よりも、さまざまな人種がるつぼとなっているアメリカで発展しているようです。古くて新しいテーマである「会議術」。私は多くの理由から、会議完全反対派ではありません。少ないにこしたことはないものの、会議はまだ存在するだろう、という立場です。ただ、どうせ存在するにしても、効率的にやるべきですよね。
ちょっと工夫で、これまでの業務が劇的に進化した……という経験はみなさんにあるはずです。それならば、その工夫をできるだけ摂取するに越したことはありません。
(つづく)