調達・購買担当者の意識改革~パート12「見積り書比較の方法」(坂口孝則)

・正しい見積り書比較

解説:見積り書比較とは、文字通り見積り書同士の比較です。案件を競合し、相見積もりを入手するとき、この見積り書比較は欠かせません。しかし、単に比較するだけでは意味がありません。見積り書比較の際には、サプライヤ間の相対的な比較だけではなく、最安価サプライヤが絶対値としての「目標コスト」(コストテーブル値など)を達成しているかも重要な観点です。ただし、それでも見積り書と「目標コスト」とを並べるだけでは、付加価値を生みません。それに加えて、最安価サプライヤの次なる改良点の明確化と、敗者サプライヤの改善ポイントを明確化せねばなりません。そこまでやると、一過性の資料ではなく、将来につながる攻めの「見積り書比較」となります

意識改革のために:これまでいくつか聞いた上司からの怒号で、強烈ながら、「その通りだ」と思うものがありました。それは見積り書比較に関わることです。相見積もりを入手する。そして、見積り書を比較した資料を提示する。「最安価サプライヤから調達したい」と書いて提出する。上司は、私に怒って「単純に並べるだけならアルバイトやパートでもできる!」と言うのです。

いま、「競合して相見積もりを入手して、価格を争わせて、はいおしまい」とする調達・購買担当者が多いように思います。もちろん、競合も相見積もりも、コスト削減のためには何ら避難される手法ではありません。ただ、それだけでは、たしかに「単純に並べるだけならアルバイトやパートでもできる!」と怒られても仕方がないでしょう。それでは調達・購買担当者の付加価値がありません。

私が考えるに、いまの見積り比較は機械的に作成されているだけで、

・単に見積価格を羅列しただけ
・一過性の資料になってしまう

ケースが多いようです。そうではなく、攻めの見積り比較のためにどうすれば良いか。調達・購買担当者しかできない価値を創造するのがポイントです。

・見積り書比較とは何のためにあって、何を考えるべきか

そこで考慮してみますと、そもそも見積り書比較が何のためにあるのかと考えざるをえません。私の出した結論は次の通りです。

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冒頭の繰り返しになりますが、それは「設計目標コスト(コストテーブル値)以下の証明」「最安価(採用)サプライヤの次なる改良点の明確化」「敗者サプライヤの改善ポイントの明確化」です。つまり、目標をクリアしているのは当然として、それでも勝者サプライヤ(最安価サプライヤ)であってもさらに競争力を改善していくポイントを見つける、また敗者サプライヤであっても今後の競合を活性化するために弱点を改善につなげていく。こういう役割が見積り書比較に求められていると思うのです。

やや概念的に表現しますが、

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こう図示してみました。この前提で、私の考える見積り書比較をフォーマットで提示します。

http://www.future-procurement.com/quotationcomparison.pdf

まずご注意いただきたいのが、柱が四つになっていることです。順に「設計目標(コストテーブル)」「サプライヤA社」「サプライヤB社」「サプライヤC社」となっています。これは3社競合の場合です。このときに、「サプライヤA社」→「サプライヤB社」→「サプライヤC社」の順で安価なことに注意してください。

絶対的な理由はありませんが、人間の脳は「左から右」に流れます。正しいのが左で、そこから整列させるのです。そうすれば、今後一発で、どのサプライヤが安価かがわかります。これは資料作成者以外でも把握可能です。くだらないようですが、このようなルール化が重要です。

そして、見積り詳細を比較します。pdfではそうなっていませんが、要素ごとにもっとも競争力があるサプライヤを色塗りするなどの工夫もありえます。ここでは、見積り詳細のフォーマットはあまり気にしないでください。これは製造業を想定しています。ただ、主旨は、そこではなくどんな調達品であっても、要素を比較する大切さを述べているつもりです。

さて、pdfの下には「【競合詳細比較分析結果】」とあり、こう掲載しています。

<ここに書くべきこと。
1.設計目標(コストテーブル)に対して、最安値サプライヤは、それ以下になっているか。あまりにコストテーブル以下の場合は、その端的な理由
2.最安価サプライヤについて
(1)他サプライヤよりも競争力を発揮できる項目の理由
(2)他サプライヤよりも比較劣位な点の説明
(3)次なる改善の方向性
3.敗者サプライヤについては、今後なにを改善させていくか>

です。異論があるかもしれませんが、1.で私は「あまりにコストテーブル以下の場合は、その端的な理由」とあげました。これは、間違い見積りを入手していないかチェックするとともに、「なぜ安価なのか」を調査するのが大切な仕事だと思っているゆえです。なぜなら、安価な理由がわかれば、それを他サプライヤに水平展開できうるからです。これは内容によって2.(1)とも同一になります。

そして、2.(2)と2.(3)で、「最安価(採用)サプライヤの次なる改良点の明確化」につなげていきます。

・敗者サプライヤはなぜ敗者なのか

最後に3.です。ここでは敗者が敗者たる理由を述べていきます。たとえば、3社で競合すると、かならずA社が勝つとします。さらにその傾向は、どんな競合案件でも同じだとします。そのようなとき、いくら競合しても意味がありません。勝者はA社に決まっています。そのうち、他社はやる気をなくし、無意味競合となるはずです。

ここには、敗者に敗者たるゆえんを伝達するプロセスが欠けています。もちろん、具体的に「この価格要素はA社はいくらで、オタクはいくらだった」と伝えることはご法度です。他社情報の漏洩ですからね。でも、まずは調達・購買担当者が把握すべきです。そのうえで、敗者サプライヤの弱点を理解し、改善ポイントを明確化すべきなのです。

繰り返し、敗者サプライヤに弱点を他社と比較しズバリ教えてあげるのはご法度かもしれません。でも、少なくとも、「どの価格要素が弱いゆえに競合に負けた」かどうかぐらいは伝達できるはずです。そして、競合ごとに、その進歩を管理できるはずです。私は、見積り書比較での肝要は、ここにあるのではないかと思うほどです。

もし、調達・購買業務が単なる事務作業ではなく、将来の種をまき、自社のサプライチェーン強化を成す高貴な仕事だとしたら--。私は、このような地道な行為によってしか、それを信じることができません。

 <了>

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