バイヤー現場論(牧野直哉)

5.製造部門との関係

製造部門は、サプライヤから納入された材料や購入品を使用して、自社製品を完成させる役割を担います。自社内の加工や組立工程で、実際納入に品を扱い、調達・購買部門にとっては、サプライヤの先に存在する「顧客」です。同じ社内で、顧客として扱う必要はないかもしれません。しかし、調達・購買部門が購入したモノを最初に取り扱う部門ですから、取扱いに際してさまざまな印象、感想を持ちます。最終的な顧客であるユーザーがもつ使用感とは異なりますが、作りやすさは自社の工数に影響します。調達・購買部門は作りやすいか作りにくいかといった情報も、サプライヤとの交渉に活用可能です。

①改善ネタの源泉

製造部門は、業務を通じて、購入品に関するいろいろな問題意識やアイデアを持つ可能性は高くなります。しかし、多くの企業で、製造部門の購入品評価をくみ取る仕組みを持っている企業は少ないのが実情です。

こういった取り組みは、バイヤーの個人的な取り組みによって実践しているケースもあります。多くの企業で、製造部門出身のバイヤーが多く、かつての同僚達と個人的なネットワークで情報を入手し、サプライヤとおこなう改善活動に役立てていました。

改善項目は、購入品の仕様や、機能だけでなく、納入形態や扱い方法といった、副次的な内容も含まれていました。製造の現場では、購入品本来の目的な機能と同じく、付き従う点の改善が、効率に大きな影響を及ぼす場合があります。例えば輸送中の品質維持を目的にして、強固なこん包で搬入される場合、開こん作業には手間がかかります。開こんする時間と、輸送中の品質維持に必要なこん包内容のバランスは、バイヤーだったら問題提起が可能です。もし、こん包を簡易的な仕様にすれば、コストメリットが発生します。

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②現場の声に耳を傾ける

①で示した事例は、現場の「不満」を起点にしています。他人の不満を聞くのは、心穏やかではありません。しかし、耳に入った「不満」が解消され、不満を漏らした人には、作業性が向上するメリットが生まれ、調達・購買部門には購入費が削減されるとしたら、これは立派な業務になります。

これまで現場部門と関係をもっていなかったバイヤーが、いきなり「話を聞かせてくれ」と言っても、現場部門から賛同を得られる可能性は少ないでしょう。どの企業でも現場部門の「内と外」の間には大きな壁が存在します。元製造部門バイヤーは、そういった壁を越えやすい条件を兼ねそなえていました。そういった環境は調達・購買部門内で共有化し、現場の声を聞く機会を他のバイヤーに広めます。もし、調達・購買部門内にそういった製造部門の間にある壁を越えやすい背景を持った人がいなければ、組織的な活動として、定例の情報交換を製造部門に申し入れて、現場の声に耳をかたむける機会を設定します。

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こういった取り組みは、サプライヤでも非常に効果的です。バイヤーがサプライヤを訪問し、製造現場を見学する場合を想像します。案内してくれるのは、製造部門の責任者や、営業担当者でしょう。そういった場合に、現場の担当者に少しだけ話をする時間をつくってもらいます。

「(自社の製品名)を作る上で、なにか問題はありませんか?」

この質問だけをぶつけます。特に問題がなければ、回答もないでしょう。しかし、大きな問題意識を持っている場合は、ここぞ!とばかりに話をしてくれる場合があります。もし、なにか具体的な指摘がある場合は、大きなチャンスです。その場でヒアリングの継続は避け、詳細の確認はサプライヤに委ねます。話してくれたお礼と、解決へむけ話しあう旨を伝えます。

③改善活動で協力

サプライヤから購入する製品は、どんな生産要素が含まれているでしょうか。自社と同じ、もしくは類似した生産要素を活用している場合もあるでしょう。そういった場合、自社とサプライヤの双方の製造部門で、改善成果の報告会を開催します。明らかに、自社側にノウハウがある場合には、改善指導をおこないましょう。ユニークな改善事例がサプライヤにあれば、自社の改善に役立ちます。逆のケースでは、サプライヤの現場改善によって、生産効率やキャパシティが向上し、自社に大きなメリットをもたらす可能性もあります。

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こういった取り組みの実現に自社とサプライヤ双方の説得には多大な労力が必要です。こういった取り組みに発展させるためには、まずバイヤーがサプライヤの現場を理解し、問題点のヒアリングを「きっかけ」にします。

(つづく)

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