不思議な買い物(坂口孝則)

みなさんは高田純次さんをご存知でしょうか? ご存知ですよね。あのタレントです。では、「適当日記」という著作はご存知でしょうか? このメルマガの多くの読者は未読ではないかと思います。

この本、ほんとうに適当で、くだらなくて面白いのですよ。しかし、別にこの本を勧めたいと思っているわけではありません。実は、この「適当日記」はiPhoneの電子書籍アプリが出ています。「実は」と書いたのは、多くの人がやっぱり知らないからです。

しかし、このiPhoneのアプリ、なんと4万ダウンロードを記録しました。実際の書籍として購入すれば1,000円です。それに対して、アプリならば350円。もちろん、実際の書籍に比べて安いとはいえ、4万部です。実際の書籍であれば1万部を超える本はほとんどありません。ものすごいダウンロード数なわけです。

ちなみに、この4万ダウンロードということがいかに凄いかというと、某電子書籍と比べましょう。その電子書籍の著者はある有名人です。すみません、固有名詞は申し上げられません。私と「がっちりアカデミー」で共演している人と言えばよいでしょうか。その電子書籍のダウンロード数は200~300にすぎません。あれだけ騒がれた「電子書籍の衝撃」といっても、この程度のものなのですよね。

その意味でも適当日記」の驚異的なダウンロード数がわかります。しかし、これまでiPhoneのアプリや電子書籍というものは、本の代替となるといわれていましたが、ほんとうなのでしょうか。私は、iPhoneなどのアプリ向けとしてふさわしい特徴をいくつか発見します。

1.有意義な暇つぶしができるもの:「適当日記」はくだらない。でも、くだらなくても、笑ってしまって、暇つぶしにはなります。移動時間にはちょうどいいコンテンツですよね。

2.短時間で区切りがつくもの:勉強の本とは異なり、適当日記」はいつ読み始めても、いつ終わっても良いものです。細切れ時間を使えるという意味です。これは、時間に追われている現代人にふさわしいものだといえます。

3.電子版でしかありえない工夫:「適当日記」では高田純次さんがコマ送りで服を脱ぎだしたり、電子書籍のなかからリンクでさまざまなところに飛べたりするなど、電子版でしかできない工夫にあふれています。紙の媒体ではできないことに挑戦しています。これがかなり価値を持っているわけです。

さらに売り手にとって、電子書籍の在庫問題はありません。日本の書籍市場は、返品率が4割と言われています。恐ろしいですよね。1万部刷ったら、4000部も書店から返品されてくるのですよ。これでは多くの出版社が潰れていくのもわかります。あるいは、返品を恐れて、次々と駄本を出し続けるわけです。まさに麻薬患者の末期症状のようなものですよね。それに対して、電子書籍はこの悩みとは無縁です。

また、買い手にとって不思議なのは「何を買ったのか」ということです。実際の本であれば、モノを「買った」という感覚は残ります。しかし、電子書籍はデータを買うので、何かを「買った」という感覚とは別の、不思議な思いが巡ります。

しかし、おそらくこの不思議な思いとは、過渡期の一時的なものであろう、とも思うのです。実際のモノがあふれ、もはや「ほしいモノ」など無い時代には、「有意義な暇つぶし」を満たしてくれる商品にお金を使うことになるでしょう。しかも、それは実体のあるものではなく、データという形を取るはずです。

適当日記」の(隠れた)爆発的なヒットを前に、そんなことを私は考えています。

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