ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

サプライヤーマネジメント原論 7~関係断絶理論

今回も前回の続きです。

前回は、パレートの法則により分類した取引額の8割、取引社数の2割を占める一般的に重要といわれるサプライヤーについてのお話でした。倒産とよばれる事業継続が困難となった状況5つのケースにたいして、その対応を説明しました。今回は、取引額の2割、取引社数の8割を占める、バイヤーにとってはある意味で悩ましいサプライヤーへの対応です。

ここで、19号でお話したサプライヤーマネジメントに活用する自社製品・サービスのライフサイクルの話を再び登場させます。(有料購読の方は、バックナンバーをご参照ください。無料購読の方は、少しお待ちください)

以下は、同じ「10」という取引額を持つサプライヤー3社を、ライフサイクルのステージ毎に取引額を分けた結果です。

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上記表のA~C社のサプライヤーからは、まったく同じ額の「10」を購入しています。したがい、取引額では3社とも同じ位置づけになります。しかし、自社製品のライフサイクルに合わせた取引額の分類をおこなうことによって、各社の特徴が浮き彫りにすることが可能です。

ここで、A~C社の現状を踏まえ、今後どのように対応するかを考えます。

まずA社ですが、従来のサプライヤーマネジメントでは、いちばん重要視されます。理由は、取引額は少ないながらも、今もっとも売れ筋である製品への納入を行っているためです。そして、A社からの購入によって、自社にもたらされる利益も、このA~C社の中では最大であるはずです。

しかし、A社は今、まさにビジネスとしては岐路に立たされています。理由は、導入期に対しての納入がゼロであること、そして比較的・相対的にサプライヤー全体の中での取引額も少ないことによってです。A社は盛況期の製品・サービスへの納入ですから、バイヤーのみならず、他の関係者との接点は多いはずです。にも関わらず、導入期の納入がゼロである事実。これは、将来的にこのサプライヤーが必要ではなくなることを暗示している、と考えることができます。

そしてB社。これは、B社の持つリソースが自社の近い将来のビジネスに有効であることを示しています。将来的な利益の源泉となる技術・サービスを持っている訳です。サプライヤーとの関係を断絶するとの観点では、もっとも遠いポジションに位置するサプライヤーであると判断できます。

しかし、ちょっと待ってください!将来の利益への貢献が期待されるから、関係を断絶しなくて良い、で終わることはできません。自社の製品・サービスの開発段階で、一番サプライヤーとの接点を持つのは、自社の関係者の中で誰でしょうか。設計・技術や、製品企画の担当者であるはずです。ここで、この有料マガジンをご購読頂いている皆様であれば、バイヤーとしても接点を持っている、と自負を持たれているかもしれません。ポイントは、この段階におけるバイヤーとしてサプライヤーを見る視点であり、近い将来の関わり方です。

B社は、時間の経過とともに納入量の増加が予想されます。開発段階においては、自社内の関係者から、サプライヤーの持つ技術力に象徴されるリソースに注目が集まっているはずです。将来的に、盛況期、成熟期と、ライフサイクルの移行とともに、バイヤーとしてはB社との取引から、利益の最大化への貢献が求められます。利益の最大化への貢献とは、コスト削減はもちろんのこと、納入量増加について可否の確認が不可欠です。バイヤーとしては、将来を見据えて、他の社内関係者とは異なった視点を持ち、サプライヤーと接することが必要になるわけです。

最後にC社です。これまでの話の延長線上であれば、C社は関係断絶候補の最右翼に位置します。以下の図の通り、自社製品・サービスのライフサイクルの観点でも、そういった判断は間違いではありません。しかし、C社のケースでは、バイヤーのみならず、関連部門を含めた全社的な関係も薄くなっています。ここで重要な点は、自社との関係が薄くなっていることが、イコールそのサプライヤーの持つ将来的価値が減少して はいないことです。事業を継続するためにサプライヤー側が行っている試行錯誤を掌握する。そして進む道が異なるとの理由で関係を断ち切るのであればやむを得ません。しかし、自社との取引額に減少傾向が見いだせるという理由だけで、関係断絶を判断するのは時期尚早なのです。


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例えば、発注側(バイヤー)と受注側(サプライヤー)の取引方法全般についての相互理解との点を考えてみます。この場合、C社がもっとも発注側のやり方を理解している可能性があります。日常的なコミュニケーションが少なくなっているのは、深く理解をしているが故であるかもしれない。サプライヤーが発注側に深い理解をしているのは、取引を行う上では大きなメリットです。深い理解によって、コミュニケーションが減少し、そのことで将来的な取引を失ってしまうのは、サプライヤーにはもちろん、バイヤーにも大きなデメリットです。

深い相互理解とは、これまでの取引関係によって生み出された価値ある資産です。それを活かすのか、そのまま捨て置いてしまうのか、最終的な判断を行う段階にあるのが、C社の置かれた状況であるといえます。今、C社がどんなことに力を入れているか。C社が注力している事業が、自社にとって魅力的であるかどうか。もし、目からウロコ的に魅力的なリソースを見いだすことができたら、新規サプライヤー開拓と同じ効果です。そしてバイヤーとして、発注企業側として費やす労力は、実際の新規サプライヤー開拓よりも遙かに小さい。時の経過とともに、取引関係の自然消滅を待つと判断する前の、最後の意思決定をおこなうことが必要なのです。

今回のお話では、

1.サプライヤーとの取引額
2.対象サプライヤーからの購入額を、自社の製品・サービスのライフサイクルによる分類

という視点に加え、それぞれの状況に応じて想定されるコミュニケーションの頻度と、最新の相互理解の度合いを想定して、それぞれ異なる対応策を導き出しました。繰り返し申し上げますが、従来のサプライヤーマネジメントでは、直近の取引額をベースにしてその重要度を見いだして、重要性の高いサプライヤーへどのように対応するかというものでした。しかし、直近とはいえ、それは紛れもなく過去の姿です。サプライヤーマネジメントは、将来どうあるべきか、という観点で行われるべきです。将来を見据える際に、今の状況を正しく掌握することは不可欠です。しかし、今の取引状態のみを、そのままイコールでサプライヤーマネジメントのベースとすることには大きな問題があります。それは、今日の友が、明日も友で有り続けるとは限らない為です。サプライヤーマネジメントとは、今日の友が、近い将来も、そして中長期的な将来も友であり続けられるかどうかを現時点で判断すること、その判断に基づいて、具体的な行動を起こすことです。サプライヤーマネジメントを行う上での目的は、この点に尽きます。この目的に達するために、たとえ取引額は同じであっても、そのサプライヤーの置かれた状況から、異なるアプローチを行う必要があるのです。

次回は、どのようにサプライヤーとの関係を継続してゆくかについてです。

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