サプライヤ分析 7(牧野直哉)
☆情報サイクルの「回転速度」と活用の方向性
今回から、情報分析全般について必要な情報サイクルの「回転速度」と活用の方向性を、具体的なシチュエーションを例に説明します。全体像は次の図を御参照ください。
情報サイクルとは、収集→共有→分析→活用で1サイクルと考えるとお伝えしました。活用の後は再び収集をおこなって、情報サイクルを繰り返します。それでは、1回の情報サイクルは、果たしてどれくらいの時間を費やして回転させるのでしょうか。最終的に情報の活用するシチュエーションに応じて、回転速度が異なります。これは情報をどのように活用するのかから逆算して考えると理解できます。
上図は、図の上部が短時間、下部ほど長時間とします。まず短時間、典型的な例としては、何か大きなトラブルが発生したときです。大きな災害や、自社あるいはサプライヤで、事業継続に大きな影響をおよぼす可能性の高い問題が発生したときには、できるだけ早い情報サイクルの回転をおこない、矢継ぎ早にアウトプットします。変化する状況への適合が大きな目的です。
大きな災害、大震災のような災害に遭遇した場合、正しい事態の掌握が難しくなります。被災地では、情報伝達手段が遮断されているかもしれません。一方、一刻も早い対応が必要です。この段階で対応を難しくする原因は、入手した情報の精度や確度です。入手できた情報は真実なのか、正しいかどうかわかりません。入手できる情報も刻々と変化します。少し前に入手した情報を否定する情報を入手するケースもあるでしょう。したがって、できるだけ短いサイクルで、断片的な情報に対して1つ1つ共有し、分析して、的確な対処方法で活用しなければなりません。
こういった段階で重要なポイントは「間違いを恐れない、攻めない」です。間違いや誤った情報によって活用され実行された行動は、すぐに軌道修正を行います。間違っても「正しい情報を報告しろ」といった形で、結果的に誤った情報を報告した担当者にプレッシャーをかけてはいけません。それは情報共有化の遅延につながります。大きな災害やトラブルに見舞われた直後は誰しも混乱します。そういった場合はまず策を講じ、間違っていたら適切な新しい策を講じる、そのために情報サイクルを早く回転させる対処が必要なのです。東日本大震災のような大きな災害の場合、発生直後は入手できた情報に都度対応する、極めて短時間の情報サイクル回転が必要です。短時間の回転には、情報インフラや情報サイクル回転方法の統一といった方法の事前確認を、どこまで平時に準備できるかがキーになります。
東日本大震災の直後、サプライヤ情報の取り扱いに大きな違いを生んだ2つの事例を御紹介します。
A社は、自動車に搭載される製品を製造する企業です。事前にサプライヤへ事業継続に影響する問題が発生した場合、速やかな状況報告を課していました。かつ、大きな災害が発生した場合、サプライヤへ報告をうながすメールを自動的に発信する仕組みが整っていました。サプライヤから返信されたメールは一元化され、全バイヤーを含め社内関係者に転送されました。また各バイヤーは、担当サプライヤからの返信を元に返信のないサプライヤを特定し個別でフォローをおこなっていました。震災発生の3日後から、各部門の代表者が会社の正面入り口に集合して、10分程度の重要事項のみを報告し討議する打ち合わせを断続的に10日間継続しました。
B社は、自動車部品や産業機械を製造する企業です。震災発生の直後に、メールや電話で、各バイヤーが自分の担当サプライヤを個別にフォローしていました。震災発生当日は、すぐに帰宅命令が出されたため、震災発生の3日後からのスタートです。また各バイヤーが入手した情報は、毎日夜19:00から関係者が一堂に会して、自分の担当分を発表する形で共有化を図っていました。その場の報告を持って、管理者は会社全体の報告会へ出席し、翌日の朝にフィードバックされ、新たなアクションへとつなげてゆきました。
A社は、情報の「収集」と「共有」までが自動的に行われ、また重要な問題には関係者があつまって短時間で検討するサイクルができていました。正に情報サイクルを短時間で回せていたのに加えて、優先度の高い内容は、直接関係者で共有、合意を計る仕組みができています。この場合、誤った情報にもとづいた活用が行われても、1時間で軌道修正できる可能性があります。
一方B社は、この方法だと1回のサイクルにまる一日を費やしてしまいます。問題点は、新たな情報の入手と、過去に入手した情報の、更新の頻度と、対応する側の共有、分析、活用の頻度のギャップが大きすぎる点です。都度刻々と新たな情報が入手され、更新される情報の中、組織的には1日1回しかサイクルを回しません。この方式の問題点は、情報収集活動によってもたらされる情報の対処が、組織的なサイクルとは別に行われてしまう点です。そういった活動も含めて1日1回報告されているのが実情でしょうが、複数の担当者が同じ情報、あるいは同じサプライヤについて異なる動きをしてしまっているケースが生まれてしまう、極めて非効率な方法です。また誤った情報による取り組みの修正が、1日に1回しかできない可能性もあります。
この短いサイクルで必要な仕組みは、より長い時間でサイクルを回す場合にも同じように活用できます。情報サイクルの「収集」と「共有」は、できるだけ手間をかけない仕組みが、短い情報サイクルの回転と、情報を活用するポイントなのです。
<つづく>