今どきのサプライヤー訪問を考える(牧野直哉)
前回に引き続き、サプライヤー訪問シチュエーションごとに異なる訪問準備のポイントです。今回は、同行者の所属セクションに対応したサプライヤー訪問アレンジです。
ただ工場を「訪問する」「見学する」だけをサプライヤーに伝えても、購入品を生産する現場を直接確認すれば、様々な情報が入手できます。しかし一歩踏み込んで、バイヤー企業として行いたいこと、確認したいことを事前に連絡しておけば、サプライヤーのアレンジ期待できますし、当日に要する時間を短くできます。できるだけサプライヤー担当者の拘束時間を短くするために、事前の確認・調整は必ず行います。
②採用前、バイヤー+要求部門で訪問
設計・技術部門に代表される要求部門の担当者がサプライヤー訪問に同行する場合です。サプライヤーの営業パーソンの立場からすれば、発注先として選んでくれた張本人が工場を訪問します。バイヤー訪問よりも歓迎するかもしれません。ここで「歓迎」とは、様々な情報を獲得するためのハードルが下がっていると場面と想定して、せっかくの機会を生かします。
依頼元の担当者と同行するサプライヤー訪問は、購入品内容にまつわる打ち合わせがあったとしても、他のセクションの担当者と同行する場合との比較では、気持ちが軽い訪問です。「これからこうしてください!」を伝える場であり、実際にできるかどうかは後日改めての確認になるためです。この後に述べる品証部門と同行や、製品完成時の立会検査、サプライヤー監査と比較しても実行確認を要するポイントが少ないのです。しかし、せっかくの訪問機会ですから、より多くのサプライヤー情報を獲得する有意義な場にします。
1)訪問依頼/議題(アジェンダ)の作成
同行する購入依頼部門の担当者に確認し、当日の要望内容を確認します。打ち合わせをする場合は、テーマを聴取して自分でも理解し、サプライヤーへ伝えます。内容を踏まえて、所要時間を計算して訪問時間を設定し、サプライヤーに滞在できる時間を計算します。工場を見る時間がある場合は、工場見学も依頼内容に含めます。その際には「発注品のサプライチェーンの順番で見学させてください」を忘れずに。
2)現地までの移動手段確認
移動時間とサプライヤーの滞在時間を合わせ考えて、訪問の全体スケジュールを決めます。サプライヤーの所在地が遠方で、サプライヤーにおけるタスクが多い場合、宿泊の要否を含めて検討します。必要な切符や宿泊先の手配も、同行者分を含めて行います。
3)同行者と訪問内容の確認
上記1)2)を含め、サプライヤーでの実施内容を同行者と合意します。合意内容は、サプライヤーにも連絡して、当日の円滑な進行を計画します。
③採用前、バイヤー+品証部門で訪問
アレンジする内容は、基本的に②の内容と同じです。品質保証部門が同行する場合、サプライヤーの品質管理にまつわる確認が想定されます。こういったケースでは事前に、サプライヤーへ求める品質管理レベルが決定し、かつ文書として展開されているはずです。そういった文書は、事前にサプライヤーへ「確認内容」として送付しておきます。
また、過去に品質保証部門が訪問した実績があれば、過去の記録に目を通して、何か指摘や問題がなかったのかどうか、指摘や問題はその後、どうなったのかもチェックしておきます。今回の訪問では、そういった前回の記録を元に、取り組んでいる内容の継続性を確保します。あらかじめ「前回指摘事項の確認」と、サプライヤーに連絡しても良いでしょう。
品質確認ではバイヤー企業の訪問するときだけ「コンディション良」となっても意味がありません。サプライヤーが事業を継続する限り品質レベルを保たなければなりません。人間誰しも、来訪者へのおもてなしの心を込めて、自宅やオフィスを掃除したり、飾ったりします。そういった気持ちはやむを得ません。しかし、程度によります。節度を踏まえたメイクアップを超え、サプライヤーに踏み込んで本質部分の確認を行います。
④購入品の立ち会い検査
③は、サプライヤーの品質管理、品質マネジメントシステムの確認とすれば、この内容はサプライヤーの生産能力や品質管理能力のアウトプットである製品の機能や、要求内容が実現されているかどうかを確認します。こういった訪問は、次の通り計画されます。
1)サプライヤー社内検査と結果まとめ
納入予定の製品に関する仕様や機能をバイヤー企業と一緒に初めて確認します、といったケースはまずないでしょう。訪問すると、まず品質や機能の確認、事前に行われた社内検査の結果の報告を受けます。「問題なく、要求内容は実現されています」と確認した後、サプライヤーが確認した内容を「再現」してもらい実際に確認するのです。
2)立会検査
再現状況の確認です。内容によって、所要時間が決定されます。私たちが通常働くオフィスとは異なる環境で、場所によっては数時間立ちっ放しで確認するケースも想定されます。覚悟をもって、目的達成をおこないます。
3)立会検査結果のまとめと報告
ここでは、冒頭で説明された事前確認との対比、サプライヤーの社内規程やバイヤー企業の要求内容との対比を行って、要求レベルの達成度合を確認します。ポイントは、良しあしのみを判断するのではなく、よくも悪くもその「根拠」の明確化です。どうして「良」と判断したかがです。
数値データの場合は、細かな部分まで一致しないまでも、基準内であること、社内検査の数値と同じレベルにあると最低限確認します。少しでも疑念が生じた場合は、ちゅうちょなく質問しましょう。その場で明確な回答があれば、良しあしだけではなく、判断基準を記録します。
(つづく)