ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●4-5 買うものの品質を知る ~品質保証部門と保つ対峙(たいじ)と協力のバランス~

QCD(品質の向上:Quality、低コストの実現:Cost performance、必要な時期に届ける:Delivery Date)の一角を担い、最初に表現される品質。品質管理部門は、自社製品の品質を確保し維持する重要な役割を担っています。コストに注目する調達購買部門とは、品質とコストを両立する重要な課題を共同で解決しなければなりません。

品質とコストは、トレードオフの関係が成立します。したがって、調達購買部門と品質保証部門が、コストと品質で対峙(たいじ)する部分が存在します。しかし、同じ企業内で、最終的な目標は同じであるとの前提に立って、コストや品質に関係する問題解決を、足並みそろえておこないます。対峙(たいじ)してばかりでなく、共同する部分も合わせ持つ。そういったバランス感覚がもっとも必要となってくる部門間関係です。

☆購入品の品質管理

購入品の品質管理は、受入検査を行って自社への流入を防ぐ管理から、サプライヤーの生産工程で不具合品を後工程に流さない、さらに、不具合発生の可能性をあらかじめサプライヤーの設計企画段階で抑止する源流管理が主流です。サプライヤーの源流段階での品質管理をおこなうために、サプライヤーの新規採用審査、継続審査の際に、品質管理体制を確認し実施状況を評価ます。サプライヤの持つ品質管理システムが、機能しているかどうかの事前対策が重要です。

取引を行っているサプライヤーは、品質保証部門と共同でサプライヤーを監査します。場当たりでおこなわずに、スケジュールを設定して、サプライヤーを巡回する体制を構築しなければなりません。品質管理上の問題点を監査によって明確にし、改善活動を推進します。

☆受入検査の意義

源流管理の実践は、バイヤー企業側で行う受入検査の意義と、実施方法にも大きな影響を与えています。サプライヤーの品質管理内容及び体制の確認に労力を費やしているために、受入検査は簡素化もしくは、省略するケースも多くなっています。品質とは、顧客の要求水準を確保する、そして確保した水準を維持が必要です。受入検査は、源流管理を徹底しているなかでも、サプライヤーの品質が維持されているかどうかを確認する重要な意義をもっています。源流管理が機能しているかどうかは、受入管理をあわせて実施して確認できるのです。

受け入れ検査といっても、さまざまな方法があります。受け入れした製品すべてを検査するのでなく、一部を検査して、全体の健全性を判断する抜取り検査。また、サプライヤの出荷検査時の記録をチェックして、健全性を確認する書類審査。ポイントは、どこまでを網羅すれば、全体の健全性が担保されるかとの検査対象の見極めです。また、検査結果によって、確認内容や範囲の変更も検討します。なんでもかんでも、あれもこれも検査するのでは、それこそ費用が増大してしまいます。調達購買部門では、見積金額を評価する際に、サプライヤの品質管理状況を必ず考慮します。いくら見積金額が安くても、不具合を頻発させるサプライヤを採用しては、自社内だけでなく、顧客の信頼を失う事態になります。そういった事態を防止するため、最低限の受け入れ検査内容を設定するためにも、サプライヤの管理状況の掌握は、非常に重要なのです。

☆トラブル対応時に発揮するバイヤーのバランス感覚

調達購買部門では、コスト削減が重要視されます。今、品質管理の主流となっている源流管理は、サプライヤー側で管理に必要な時間を増大させ、結果的に購入コストへ跳ね返るケースが多くなっています。購入時のコスト面だけを考えれば、マイナス要因となってしまいます。ここで改めて考えてみます。はたして、源流管理による管理時間の増大は、ほんとうにマイナス要因でしょうか。

品質面での大きなトラブルは、規模によって会社の経営を揺るがす可能性もあります。品質問題を起こさないために、コストの発生はやむを得ません。一方、源流管理の実践による管理時間の増大は、コスト面での競争力を減退させる可能性を持っています。高い品質の確保・維持と、適正なコストは両立させるべきものです。しかし、同時に二律背反な要素を含んでいます。

品質とコストとは、同時に追求し成立させなければなりません。調達購買部門では、QCDすべてを兼ね備えたサプライヤーからの納入を目指します。もし、コストと品質に迷ったとき、バイヤーが発揮すべきはバランス感覚です。品質もコストも、双方適切に実現を模索できるのは、調達購買部門だけです。品質とコストのバランスは、調達購買部門が中心になって、関係部門に問題意識を投げかけて解決へと導く主導権を発揮しなければならないのです。

主導権の発揮には、品質保証部門との協力関係が重要です。問題解決へ向けた協議を、品質保証部門と円滑に進める協力関係の構築も、調達購買部門の大きな課題です。まず、取り組むべきはトラブルの未然防止対策です。その上で、万が一トラブル発生の事態となれば、調達購買部門/品質保証部門の協業によって、一刻も早く危機を乗り越えます。

(つづく)

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