ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●4-2 コストをまとめ、コスト削減目標の基準を明確化する ~経理・財務部門との連携~

バイヤーは、いろいろな数字を扱いながら仕事を進めます。もっとも期待されるコスト削減も、その成果は経理部門から数字で示されます。調達購買業務に関連する数字を扱う経理部門の関係はとても重要です。特に、社内で発生する費用の多くを扱う調達購買部門は、積極的に経理・財務部門と連携して仕事を進めます。また、サプライヤ評価でおこなう財務分析にも活用できる経理・財務的な知識は、バイヤーには不可欠です。

☆正確性確保への取り組み

製品やサービスには、それぞれ「価格」「購入量」「支払日」など、数値で表現される条件が設定されます。これらの数値は、予定と結果との整合を目指さなければなりません。正しく整合しているかどうかを判断するために、まず書類に記載したり、システムに入力したりする数値は正確でなければなりません。

一方、人間はミスをします。ミスは起こさないだけでなく、やむを得ず起こしてしまった場合の対処が重要です。調達購買部門のメンバーは、「ミスを起こさない」精神論に留まらず、仮にミスをおこなっても部門内で解消し、関連部門へ影響をおよぼさない仕組みの構築、そして、ミスを発生させた場合は、最優先で修正をおこないます。あらかじめ経理財務部門からアドバイスを受けつつ、ミスを起こさない仕組みを構築します。

☆予算実行管理と調達購買業務

どれだけ売上たか、利益を稼げたかといった、一定期間の経営活動の成果は数値で示されます。調達購買部門では、財務諸表を構成する「原材料費」「購入部品費」といった、主に企業活動によって発生する原価・コストを扱っています。先に述べた数値の正確性確保はもちろん、設定された決算日程を順守するために、経理財務部門の設定したスケジュールの遵守が必要です。

企業活動では、各部門、従業員の活動が計画され、予算化されます。原材料費や購入部品も、購入予定価格が予算として設定されます。調達購買部門で予算を超える価格で購入した場合、最終的に利益が減少します。最終的に利益を確保するために売価を上げれば、販売の減少にもつながる可能性があります。調達購買部門では、予算を遵守はもちろん、購入価格に変動をおよぼす変化の可能性をあらかじめつかみ、購買予定価格へ展開して経理・財務部門にも伝えます。

☆コストダウンの基準は、どのように設定されるか

企業によって採用する原価計算方式の下で、財務・経理部門によって「予算」として決定され、経営計画に反映されます。「予算」となる購入予定金額は、調達購買部門で独善的に設定できません。この「予算」に対して、少しでも安価に購入するために、調達購買部門ではコスト削減活動をおこないます。「予算」設定上の注意点は2つあります。

まず「予算」を決定するプロセスに、調達購買部門も必ず参画します。過去の購入実績金額を踏まえて、経済環境変動による影響を加味した「購入見通し金額」を経理部門へ提示します。多くの調達購買部門では、この取り組みがないがしろにされています。

「購入見通し金額」の提示には、大きな負荷が伴います。提示した数値には、根拠が必要です。例えば、最近「値上げ」の影響が広がっています。このような環境下で、予算はどのように設定すべきでしょうか。社内的に購入価格上昇は許容できないとの意見が大勢であっても、あらかじめリサーチをした結果であれば、調達購買部門としては予算アップすべきと主張すべきです。逆のケースもあり得ます。なかなか想像できませんが、原油価格が下落のトレンドにある場合、長期的な見通しでも下落と判断できる場合は、前回の予算設定より低い数値で予算設定を主張する場合もあり得ます。

このような対応こそ、調達購買部門の経営参加です。もし、調達購買部門の地位が低いなと感じる場合は、予算を決定するプロセスに調達購買部門として実質的に参加できているかどうかを確認します。こういった取り組みは、実現性のない予算設定の防止にもつながります。予算は自分たちで独善的に設定するものでなく、他部門から一方的に押しつけられるものでもありません。

調達購買部門が正しく機能している企業では、予算設定段階で社内討議を十分におこなっています。討議の過程では、コスト削減の見通しだけでなく、原材料費の市況変動によって、ときには値上げも想定します。購入金額を下げる、あるいは値上げを抑制する、いずれも調達購買部門が取り組む具体的な活動は同じです。市況動向によっては、コスト削減だけでなく、値上げを抑止する取り組みも、十分に価値のある取り組みなのです。

(つづく)

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい