CSR調達とはなにか 3(牧野直哉)

前回は、調達購買/サプライチェーンにおいて、実際に大きな社会問題となったCSRに関わる事例をお伝えしました。ナイキやApple、いずれもグローバルに展開するスポーツ用品メーカーやIT機器メーカーです。ここで「いや、うちの会社はナイキやAppleまでCSR調達を意識する必要があるのか」との疑問を持たれたはずです。この点は、果たしてどのように判断すべきでしょうか。

建前では、どのような企業であってもCSR調達の実践を目指すべきです。ここは現実的に、真の必要性を考えてみます。まず、CSR調達が実践されなかった場合のリスクには、どんなものがあるでしょうか。前回の記事から考えてみます。

●ブランドイメージの維持

前回記事では、CSR調達がおこなわれなかった場合「ブランドイメージの失墜と売上減少」が発生したとしました。したがって、自社製品や顧客の製品、自社や顧客に、ブランドを持っている場合は、CSR調達の必要性があると判断します。「ブランド」とは、次の定義です。

製品をほかの製品から区別するために付与される文字、図形、記号、音声、色彩などを組み合わせたもの。他社の使用を法的に排除することが認められたブランドを商標(trademark)という。ブランドは顧客が製品を識別する目印となることが主要な役割だが、高級な商品のブランドの場合は他者にステータスを誇示する働きもある。[現代用語の基礎知識2014より]

CSR調達を実践しなければならない企業の条件の1つめは、商標(trademark)を持つブランドが、自社にある。あるいは、自社の顧客にあって、自社製品やサービスによって顧客のビジネスが成立する場合です。自社と顧客の関係で言えばどうか。前回記事で取り上げたナイキの例では、ティアⅡ(二次外注先)における児童労働が問題になりました。前回ご紹介した児童労働の実態を示す写真には、ナイキのスウッシュマークも写っていました。ナイキの事例から学ぶとすれば、ブランドを表すマークを扱う場合は、さらに深い階層まで(三次サプライヤ以降)をふくめたCSR調達の実践が必要です。

●自社調達購買活動によるデメリットへの対処

CSR調達実践の例に、次の様な企業の取り組みが挙げられます。

・スターバックス( http://www.starbucks.co.jp/csr/ethicalsourcing/ )
フェア・トレードのラベルが付いたコーヒーを販売し、コーヒー生産者から国際商品市場を上回る価格での購入を保証している

・ナイキ( http://help-en-us.nike.com/app/answers/detail/article/supply-chain/a_id/20878/p/3897 )
発展途上国にある仕入先工場の労働条件を監視

・イケア ( http://www.ikea.com/ms/ja_JP/pdf/sustainability_report/sustainability_report_2013.pdf )
インドの敷物納入業者に対して、児童の一雇用を禁止し、児童が労働市場に駆り出されることがないように、家族に対して資金援助

各社とも、自社の調達購買活動によって、事業推進上で生じるデメリットへの対処をおこなっています。スターバックスの例では、購入価格を生産者レベルでのコストに見合うレベルとする。ナイキでは、過去の教訓から、サプライヤレベルでの労働条件の監視。イケアでは、児童労働を発生させないために、資金援助をおこなっています。

上記では、調達購買活動にともなうデメリットをご紹介しました。バイヤ企業にのみ最適な調達購買活動では、CSR調達が実現できません。サプライヤの事業推進の中でも、バイヤ企業と同様の適正なプロセスが確立されなければ、CSR調達は成立しないのです。

ここまで、外資系企業の取り組みをご紹介してきました。では、日本企業でCSR調達を実践している企業として、ユニクロ( http://www.uniqlo.com/jp/csr/businesspartners/ )をご紹介します。サプライヤ(HP上では「生産パートナー」と表示)に向けた「コードオブコンタクト」は、企業として取り組むべきCSR調達のポイントを網羅しています。次のポイントで内容が明記されています。

・法的要求事項
・児童労働
・強制労働
・抑圧及びハラスメント
・差別
・健康と安全性
・組合結成の自由
・賃金と諸手当
・労働時間
・環境保護
・文書化とコミュニケーション
・モニタリング及び本コードオブコンダクトの遵守
・是正措置
・下請業者及び家内労働者
・透明性及び誠実性

ファーストリテイリングのHP( http://www.fastretailing.com/jp/csr/business/monitoring.html )では、サプライヤの監査結果( http://www.fastretailing.com/jp/csr/business/monitoring02_popup.html )も公開されています。興味深いのは、最新の2013年の調査結果で「評価E:即取引見直し対象に値する極めて悪質なかつ深刻な事項」が指摘されたサプライヤが10件あり、その指摘内容と、結果として6件とは取引を終了させたと明記している点です。

ここで、お読みいただいた読者の皆さんへ質問です。HP上では具体的な改善事例も明記されています。果たしてユニクロに対するイメージが、実際に監査結果を読んだ後に下がったかどうか。ユニクロ製品の購入をこれからやめようと判断するに至ったかどうかです。

公開されているE評価の例は、児童労働と、虚偽報告です。まさにナイキで問題となった例、そして虚偽の内容は違いますが、マクドナルドの例に近似した内容です。ポイントは、みずから公開するか、それともマスコミに代表される第三者からの公開(告発)によるかの違いです。

調達購買活動も含むCSR活動のポイントは、モニターと公開、そして改善活動です。企業のイメージを損なう活動や、結果があった場合に、それを隠すのか、それとも公開するのか。CSR調達の実践でも、最初から100点を取る必要はありません。現状を掌握し、要すれば公開して、問題点へ改善をおこなう。われわれが日常的におこなっているコストや業務内容に対する改善活動と、CSR調達の実践はなんら変わらない、そう理解します。

<つづく>

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