4-(5)-2 納期の確保「私の経験」
「なんでこんな役に立たないモノを持ってきたんだ!バカヤロー!!」
ある年、2月のおそろしく寒い日、私は秋田空港にいました。
空港出口の自動ドアが開くと、一面に雪が舞っており、持参した一枚のコートではとても寒さに耐えることはできませんでした。雪の中を歩いたせいで靴は汚れ、スーツから伝わってくる冷たさで凍えてしまいそうでした。
どうしても納入期日に間に合わない製品をハンドキャリーで持ち帰るために、私は秋田のサプライヤー工場に向かっていました。製品はパワーユニットでした。
タクシーに乗って、見知らぬ土地の奥地へ。工場に着くと、全く歓迎してくれない様子の生産管理担当者がいました。しかし、私は仕事だからと必死に交渉しました。
「あんな納期ではとても製品などできない」と相手は一点張り。私は、担当者にひたすら頭を下げて、生産を急いでもらうようにお願いしました。
そもそも無理な納入期日であることは私も十分承知です。それに、発注が遅れたのは私ではなく、他部門の責任でした。それでも納期を確保するのはバイヤーの仕事だろう、と責任を押し付けられた私。しかし、そんな社内の事情をごちゃごちゃ言っても仕方がありません。
生産現場の片隅に設置されていた会議室で5時間も待ち、やっと検査工程が終了したそのパワーユニットを持参したバッグの中に入れ、手短なお礼を述べタクシーですぐさま空港に戻りました。
そこから最短帰路で自社の工場に向かい、近くのホテルに宿泊。翌朝、工場の受け入れ検査場に持っていきました。
しかし、動作確認をしても、そのパワーユニットは全く動こうともしません。何回やっても、結果は同じでした。揺らしながら持って帰ってきたせいか、あるいは完成したときからの不具合なのか分かりませんが、いずれにせよ不良品です。受け入れ検査の担当者は、私にこう言いました。
「お前、なんだよ!どういうつもりだ!役に立たないモノ持ってきやがって!」と。
悔しくて泣いてしまいそうだったことを思い出します。