ケーススタディ公開 解説編(牧野直哉)

前回まで掲載したケーススタディの解説と、私が考える回答を3会に渡って掲載します

1. ケーススタディとはなにか

(1) 実践的な教育を目的に、ハーバードビジネススクール(以下HBS)で1912年にロースクールの判例研究をヒントに始められた(HBS設立は1908年)
(2) 問題の所在を突き止め、本質的な問題を見極め解決する訓練が目的(問題分析⇒手段・行動の決定の繰り返しにより、判断力と決断力を養う)
(3) ケーススタディは、ディスカッションを通じて学習するため

① 学習内容の定着率が期待できる
② 批判的に考える力がつく
③ コミュニケーション能力
④ ファシリテーション能力
⑤ 説得能力

といった、ビジネスパーソンに不可欠なスキルを身につけられる。

【参考:小樽商科大学の定義】
「特定の企業についての記述(ケース)を読んで、その企業が抱えている問題点を発見し、分析し、解決案を策定する一連の作業」 ⇒企業における問題解決の方法を学ぶ

2. ケーススタディ活用法
(1) 文章読解力の向上(含む分析力)
(2) 複数名でのディスカッションによる相乗効果(同じ内容を読んでも違った意見が出る)
(3) 自分で考えて決断ができる

3. 今回のケーススタディのポイント
(1) 読解力
一般の本:    100000字(原稿用紙250枚)
A4 1枚:     1440字(原稿用紙3.6枚、ワード標準)
R25の記事:   基本800字(原稿用紙2枚)
スマフォ画面: 300~400字(原稿用紙1枚弱)

今回のケーススタディ 4432文字+図表(原稿用紙11枚)
→スマートフォンの普及により、長い文章をスマートフォン一画面基準で表現するサービスが増えています。これは、効率的に理解できる範囲が増えるとのメリットを持つ反面、長い文章を読む能力が、落ちざるをえない環境になりつつあるともいえます。効率的なコミュニケーションを実現させるために、サマリー力は重要です。しかし、サマリー力を培うためには、自ら長文を読んで理解する能力は不可欠となります。

(2) サプライヤーマネジメントをおこなう上でのポイント2つ
① サプライヤーの社数は変動する
企業には栄枯盛衰があり、自社(バイヤー企業)とサプライヤーの企業の寿命的なライフサイクルは同期化しないのであれば、バイヤー企業とサプライヤーの間にミスマッチが発生します。これは異なる法人間の話なのでやむを得ません。その場合、リソースの有効活用/ミスマッチの解消との観点では、サプライヤーとの取引関係の解消との選択肢は持つべきであり、取引社数は変動するとの前提に立ったマネジメントの実践が必要となります。

② サプライヤーの社数は、できるだけ少ない方が良い
自社の事業運営に必要なリソースが確保できれば、サプライヤーの社数はできるだけ少ない方がよいとの大前提を実現するためにどうすれば良いかを検討します。ポイントは、各企業によって異なる「最小限」の定義内容よりますし、これは調達購買部門の責任にもとづいて行なうべきです。
→上記2点をベースにすると、サプライヤーマネジメントの結果採用すべきアクションは、サプライヤー数を
1) 現状維持する
2) 減らす
3) 増やす
の3点しかありません。

(3) 不足する情報への対処
仕事では、常に十分な情報を入手した上で意志決定ができるわけではありません。情報が不足する原因には、情報収集能力が不足している問題と、意志決定に求められるスピードの問題があります。一般的なケーススタディでは、不足した情報を自分で仮説を構築して意志決定をおこないます。我々が実際のビジネスでは、十分な情報の確保を目指しつつ、情報が不足した事態への準備(想像力・仮説構築力)を怠ってはならないのです。

4. 今回ケースのモデル回答

私(堀江)は、サプライヤー数の「削減」を提案します。削減する対象サプライヤーは、大島テクニスと、ぱ・る・る板金工業の2社です。削減する根拠は次の3点です。

1. 数量効果によるコストメリットの追求。
今後激化する価格競争に備えて、さらなる低コストを追求するために大島テクニス発注分を麻友精密と柏木ファインブランキングへ全点発注先の変更を目指します。2社のいずれに発注するかとの選択は、2社の競合によって決定します。高止まりした大島テクニスへの発注価格を基点とすれば、数量効果+αの効果によって購入コストの削減が期待できます。
2. ぱ・る・る板金工業の取り扱い
ぱ・る・るの最近の動きを見ていると、いずれ遠くない将来に事業継続が難しくなる事態が想定されます。上記1の競合と合わせて、ぱ・る・る発注分についても2社競合に含め、当社査定では安価と位置づけている価格ベースで指値を行ないます。
3.今回のサプライヤー数削減を行なった上で、指原工業も含めた比較検討を行ない、 最適発注の姿を模索します。最終的には2社体制までの絞り込み可否を模索します。

この提案の実行に際しては、製品品質に不安のない大島テクニスへの発注を停止し、この製品区分における不良率の増加、完成品品質への悪影響との大きなリスクが存在します。しかし、その点は発注先選定時の条件としてさらなる品質改善を具体的な数値目標と共に課し、最低限でも現状維持してカバー致します。

<つづく>

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