調達・購買担当者の意識改革~番外編「サプライヤ収益管理などムダなのか」(坂口孝則)
・他社の収益を管理するということ
「調達・購買の仕事はサプライヤを選ぶだけではない。サプライヤの利益状態も管理するのが仕事である」と私はいってきたし、いっている。なぜなら、それが自動車業界では普通に行われているし、自社だけが儲けるだけではなく関係者みなが利益をあげるのが、中長期的に良い結果をもたらすと信じるからだ。
しかし、それは可能だろうか。つまり、自社の利益コントロールさえ難しいのに、他社(サプライヤ)の利益をコントロールなんて可能だろうか。結果からいう。それは可能だと思う。それは発注量の増減によってだ。とはいえ、たとえばそのサプライヤが属する業界全体が低迷するとき、特定サプライヤだけ利益増を志向するのは、激流に抗う行為に似ている。
他社(サプライヤ)利益コントロールは可能だ、と書いた。ただし、冷静な観点も与えていこうと思う。それはすなわち、
・企業というのは販売する製品特性でほとんど利益率が決まる
という冷徹な事実だ。私たちはときとして、「企業は経営者しだいで決まる」と思ってしまう。「営業や調達のがんばりで業績は変わる」と思ってしまう。いや、思ってしまうというのは、勘違いという意味ではない。そういう側面もあるけれど、ただし同時に、業界全体の浮き沈みがもっと大きな要因としてある。
たとえば、1970年からの「能美防災」と「ホーチキ」の利益率推移だ。
*グラフ作成にご協力いただいたIさんにはこの場を借りてお礼申し上げる。
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縦軸は営業利益率(%)だ。これは「能美防災」と「ホーチキ」がどこかのサプライヤというわけではなく、同業種の利益推移という意味でご覧いただきたい。別にプレスメーカーでも樹脂成形メーカーでも良かったけれど、非上場企業ではデータ収集が難しいためだ。「能美防災」と「ホーチキ」という類似企業。この利益率推移を見てどう思うだろうか。
ほとんど同じじゃん
と思うはずだ。
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同じく総合電機の日立製作所・東芝・三菱電機で見てみた。これも驚くべき相似形だ。同じく注釈しておくと、日立製作所・東芝・三菱電機は大企業だから、サプライヤ例としてではない。繰り返すと、企業は製品形態とその市況によって多大な利益影響を受ける事例としてご覧いただきたい。
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消費者向け家電で有名なパナソニック・シャープ・三洋(かつて)で見てみると多少のバラツキはあれど、やはり相似形だ。
・いまのところの結論
たぶん、というかこういうことだと思う。
私たちは「戦略」というものを、うまくやる手法・思考、という意味で使っている。しかし、本来の戦略とは「選ぶ」ということなのだ。どの市場が高収益かを察知し「選ぶ」こと。選び方さえ正しければ、その企業はうまくいく(可能性が高い)。
サプライヤ管理にあてはめるとどうなるだろうか。そのまま解釈すれば、サプライヤには適切な製品領域を「選んでもらう」ことになるだろう。ただ、当然ながら、電源メーカーのサプライヤがいるとして、「電源は儲からないから、違うモノ作れ」とはいえないだろう(たぶん)。ここに、<企業というのは販売する製品特性でほとんど利益率が決まる>事実を前にした難しさがある。
今回は、逆に読者のみなさまに投げかけて終わろうと思う。この記事タイトルは「サプライヤ収益管理などムダなのか」と書いた。みなさんは、どう思いました? サプライヤ収益管理などムダなのでしょうか。
<つづく>