今どきのサプライヤー訪問を考える(牧野直哉)
前回に引き続き、サプライヤーのオフィスや工場を訪問する場合の対応についてです。今回は、通常業務でもトラブルでもないケースを想定します。
●表敬訪問
この記事では、首尾一貫して、表記訪問はおこなうべきでない立場をとっています。もちろん表敬は重要です。サプライヤーの納入がなければ、自社の事業も立ち行きません。そういった現実を理解していれば、当然心から表敬したくなる気持ちも生まれるはずです。
問題なのは、表敬のみを唯一の目的にした訪問です。どんなに関係の深い、サプライヤー評価の高いサプライヤーであっても、まったく問題や課題のないサプライヤーはいません。仮に納入実績やサプライヤー評価が高得点であっても、そういった状況は継続してもらわなければなりません。継続には、どこかに問題の根がないか?を捜し続けるバイヤー企業とサプライヤー双方の取り組みが欠かせません。
例えば、新任の上司が来たら、当然重要な関係の深いサプライヤーを理解してもらわなければなりません。サプライヤーの理解を通じて、自分の取り組みを理解してもらう意味もあります。表敬訪問が付加価値を生むのは、今後の関係性に効果的な相互理解です。
サプライヤー訪問では、工場を見たり、打ち合わせをおこなったりします。上司を伴った訪問では、あまり重い内容をともなう打ち合わせはふさわしくありません。重い内容を解決するのはバイヤーの責務です。訪問時にサプライヤーから、事前事後にバイヤーから上司へ説明する内容としては「課題」がふさわしくなります。できるだけ長期的な課題、バイヤー企業内で課題解決に社内関連部門へ協力を仰ぐようなテーマ選択します。取り組みの状況や阻害要因、解決した後のメリットについて説明しましょう。
できれば一方的にサプライヤーの説明を聞くのではなく、訪問する上司からも、担当者とは異なる視点で、自社の戦略や方針について説明します。訪問するサプライヤーの協力がぜひ必要であると話をしてもらいましょう。これは、次のテーマにも関係します。
●関係強化/パートナーシップ構築
具体的なテーマをもちながら、もう一段高い視点で、より関係性を深めたいと感じるサプライヤーもいるでしょう。そういった場合に、関係強化/パートナーシップ構築を目的にした訪問も十分想定できます。
こういったケースで必要なのは「なぜより関係を深めて仲よくしたいのか」と、バイヤー企業の将来展望や方針、いわゆる戦略ですね。に加えて、そういったバイヤー企業の戦略への協力が、サプライヤーにもメリットがある根拠が必要です。
「仲よくする」といっても、一緒に食事をして、ゴルフに興じるだけではダメです。双方の法人としての業績向上には何が必要か。関係強化/パートナーシップ構築を目的に訪問する場合は、次の4点は必須です。
①バイヤー企業の目標:これは会社目標であり、会社目標を達成するための調達・購買部門の目標。
②目標達成に必要な戦略:調達・購買戦略
③戦略実行には、サプライヤーの協力(具体的なニーズ)の必要性:具体的なサプライヤーのリソース名(製品や設備、技術陣に代表される人的リソース)
④協力すれば、サプライヤーにもメリットがある根拠:バイヤー企業で実行すべきと判断に至った根拠と、サプライヤーへの波及メリット。
この4つを説明して合意が得られれば、将来的なサプライヤーと協業の具体的な取り組みの推進要因になるはずです。
関係強化/パートナーシップ構築ですから、先ほどの表敬訪問と合わせて、上位者と一緒に訪問するケースも十分に想定できますね。上位者が説明できない場合は、担当としてサプライヤーの経営幹部と対等をする準備が必要です。
皆さんは、具体的な案件はなくても、①~②まではサプライヤーへ説明できますか?こういった話をするためには、サプライヤーうんぬんの前に、自社の目標、戦略の理解が重要です。サプライヤー訪問を意義ある機会とするには、自社の実情だけではなく、戦略の理解も欠かせません。
●おわび
サプライヤーへのおわびも、なかなか想像しにくい事態です。バイヤー企業側に落ち度があった場合や、保証はしないまでも納入見通し数量に大きな変動が発生した場合、バイヤー企業の情報通り真剣に対応してくれたサプライヤーほど影響が大きい皮肉な結果になってしまいます。
そういった場合、やはりサプライヤーにおわびする姿勢は重要です。私は、ある事情で短期間に20社のサプライヤーにおわび行脚をした経験があります。やむにやまれぬ事情で緊急手配したアイテムを、ほぼ全てキャンセルする事態に至った、そんなときです。
こういった場合に危惧すべきポイントは、将来的にバイヤー企業の話に信ぴょう性が薄れる事態です。説明しても信用してもらえない事態は極めて重大な憂慮すべき事態です。起こってしまったのはやむを得ない。しかしこれまで培った信頼関係を、できるだけ保ちたい気持ちがありました。
顧客都合だったので、自社(自分)に責任がないと言えなくもありません。しかし私は、せっかく通常とは異なる依頼を受けてくれたサプライヤーには、おわびすべきと判断しました。幸い、一時的にサプライヤー側でも在庫が増えるものの、短い期間で消化される見通しもあり、サプライヤーとの間で大きな問題にはなりませんでした。おわびしたサプライヤーとは、その後も厳しい価格やその他の条件にまつわる交渉をおこないました。キャンセルの件を交渉で持ち出されずに済みました。双方にとって、おわびで「けじめ」が付いていたのでしょう。おわびした瞬間は、大変さだけでしたが、後々になってやって良かったと思える経験でした。
(つづく)