ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
●情報活用力と情報力まとめ
これまで3回にわたって述べてきたことを、次の3つにまとめます。
1. 情報収集、情報共有、情報分析、情報活用の4つを「情報力」の構成要素とする
2. 情報の取り扱いは、決して「情報収集」だけではないこと。情報収集の後に行うことが、むしろ情報の取り扱いにおいては重要であること
3. 4つの構成要素をサイクル化することが、状況変化への対処を容易にする
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今回は最後のプロセスとなる「情報活用力」についてです。じつは、このメールマガジンをお読みの非常に意識の高い方でも、意識して情報を活用するケースは少ないでしょう。理由は二つあります。
(1) 普段の業務の中では、あたりまえのように情報を活用しつつ意思決定を行って行動しているため、あえて意識していない。
(2) 収集した情報について、共有・分析を的確におこなわないが故に、意思決定・行動と集めた情報に連続性がない
上記(1)のケースは、意識せずとも今回定義の「情報力」が実践されているものとします。問題は、上記(2)のケースです。いろいろ情報収集はおこなったものの、実際におこなったことは情報収集によって導かれた見通しとはほど遠い。もしくは、そもそも情報は集めたけれども「見通し」を見いだすまでにいたっていない。そんな状況が想思い浮かびます。ここで重要な点は、先に提示した図のサイクルを回す「スピード」です。
いうまでもなく情報はその「鮮度」が重要です。情報は、情報源から放たれた瞬間から内容の陳腐化がはじまります。たとえば昨年3月に発生した東日本大震災の様な大きな災害の発生を想定してみます。最初被災に関する情報はまったくありません。だんだんと具体的な被害の全貌が明らかになってゆきます。そして発生直後の情報は正確性も乏しい。あのような緊急事態では、腰を据えて情報を集めることは得策ではありません。次第に明らかになる事実は、明らかになる前の状況に対して「変化」と捉えることができます。大きな災害の後では、日々刻々の変化が大きいので、集めた情報が陳腐化するスピードも速いのです。確度の高い情報を集めるためには時間が必要だ、とのスタンスでは、肝心要の意思決定に際して陳腐化した/事実でない情報をもとにしてしまうかもしれません。
大きな災害を前提としない場合でも「スピード」は強く意識をするもう一つの理由、それは情報力を構成する4つの活動に明確な「終わり」がないためです。特別なことがなくても継続しなければならないというのは、自分で区切り・締め切りを持たないことには、漫然と続けてしまう悪循環に陥る可能性もあります。常にやらなければならないということは、明確な目的・ゴールをあえて設定しないことにもつながってしまいます。
一方、当然時間の費やす度合いによって、情報内容の深さには差が生まれることも事実です。インターネットを活用することで、情報収集については、簡単にたくさんの情報にアクセスできるようになりました。しかし、一方でそれは情報過多=自分の欲しい情報にたどり着けない状況を生んでいます。また、時間をかけ深く情報収集や分析をおこなうためにはインターネットはあまり役立ちません。論文、文献といった読み応えのある資料と向き合う必要があります。次の4象限は、情報力を構成する4要素、時間と取り組みの深度の関係を表した図です。
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① 自分のテーマ・命題
これは、自分の人生であったり、一生を賭す仕事であったりといった、簡単には結論は出ないけど、でも考え続ける必要があるテーマに関する情報の取り扱いです。個人的には究極の情報力が試される分野と考えています。これは短期間でどうこうと性急な結論を求めることはできません。文字通り一生をかけて情報力の4要素を回す必要があるテーマです。
② 一般常識
この分野で重要なことは、特に意識せずとも自分の手元に分析しやすい情報を簡単に得ることができるかどうかです。幸いにして、日本の大多数の地域では、新聞が配達される環境にありますね。テレビやラジオのスイッチを入れれば、様々な情報へのアクセスが可能です。しかし、一方的な情報提供が連続的におこなわれますので、頭の中に残りにくいことも事実です。また、この分野の情報で禁物なのが鵜呑みにすることです。問題意識を持ち、一定のの批判的な視点を持つことが、この手の情報の本質を見抜く上では、極めて重要です。
③ 外力を活用
非常に短期間に、深い洞察を要し、なおかつアウトプットが必要な場合。これはサラリーパーソンに強いられる場面がありますよね。重要なテーマであれば、私は迷わず「得意な人」を探します。それが友人や知人にいれば有難い話です。もし、短期間でのアウトプットが必要であれば、自分だけで悩むのでなく周囲の力を借りることが重要です。①や②ではさほど重要ではない「情報共有力」の良し悪しが如実に表れる分野です。震災後のバイヤー対応などはこれに当たります。もし、知人や友人が思いつかない、もしくは業務上必要であれば、信用会社やコンサルティング会社といったアウトソースの活用も視野に入れる必要があります。
④ 他人からの指示・依頼
ここは日々の業務の中で一番求められることですね。依頼や指示を受ける場合には、その道にある程度の知見があるという他からの評価の証でもあります。そしてもっともスピードを意識する必要がある分野でもあります。まさに一週間後の100点よりも、当日の60点、翌日の80点を目指す必要があります。
他からの評価の証ということは、①や②で普段継続的におこなっている情報力の活動が試されるタイミングでもあります。たとえば、VOS(ボイスオブサプライヤー)や、サプライヤーリレーション、新規サプライヤーの開拓といったテーマは、私にとって①に該当します。その点の一部をニーズに合わせてアウトプットするだけで相手に満足してもらえることもあるわけです。私が普段深く考えていて、ある程度整理されている内容であれば、時間をかけないアウトプットも可能となるわけです。
今日を含めると4回にわたって「情報力」なるものを述べてきました。基本的に情報力を構成する4つの要素とは、常日頃から意識せずに行っています。しかし、残念ながら「大震災のとき!企業の調達・購買部門はこう動いた―これからのほんとうのリスクヘッジ( http://amzn.to/A0kxgw )」執筆の過程で、情報の共有・分析について、バイヤーの意識が非常に薄い事実を目の当たりにしました。これは情報収集と、結果どう動いたかの点に連続性を見いだせず、最終的には情報収集に費やした時間が無駄になるケースが多いということです。常にやっているからこそ、戦略性を持って、アウトプットを意識することが重要である、インターネットの普及・一般化による情報の活用は、結果=行動に反映することを強く意識しなければならないのです。
2012年は、情報に踊らされることなく、情報を読み解いていくバイヤーが増えることを祈っています。
<終わり>