「持続可能な調達」を最低限正しく理解する 10(牧野直哉)

●ISO20400

ISO20400とは、正式名称を「Sustainable procurement – Guidance/持続可能な調達 – 手引き」といいます。2017年4月に正式リリースされました。昨年末に日本語訳版も日本規格協会からリリースされています。

規格の特徴として、対象を「購買プロセスに関わるあらゆる利害関係者(請負業者、供給業者、購買者、政府・地方当局など)」としています。利益を追求する一般企業以外も対象にしているのは、ISO20400記載内容の実践によってえられるメリットを次の通り設定しているためです。

1.購入時の価格が仮に高くても、製品のライフサイクルを通した競争力を評価した意思決定を行いやすくなり、長期的な経済的効果が期待できる。
2.サプライチェーン内における、法、財務、倫理、環境面などのリスクを早期に発見し、顕在化を予防しやすくなる。
3.企業の経営方針や文化、価値観などを、実務を通して他者と共有することで、企業としての魅力を高め、顧客・従業員・株主といったステークホルダーの満足を向上させることもできる。

民間企業に勤務して、前述1のような考え方は、なかなか受け入れがたいのが実情でしょう。しかし、規格の確立に際して設定された基本的な考え方を理解すれば、ISO20400を読み進めてたときに覚える違和感の解決にも、少なからず役立つはずです。

また、規格の内容は、これまで企業や組織が取り組んできた活動を生かすための工夫の跡がみられます。個々の条文は、ISO9000や14000、26000といった規格から流用されています。これまで、品質や環境、ISO20400のベースになったCSRといった規格をベースにした取り組みをできるだけ活用する=新たな取り組みをできるだけ増やさない意図が読んでとれます。

ここで、ISO20400の冒頭に明記されているまえがきの一部をご紹介します。ISO20400の理念を明確に示されています。

あらゆる組織は、環境、社会、経済に影響を与えます。
調達は、責任ある態度で行動し、持続可能な開発と国連持続可能な開発目標の達成に貢献したい組織にとって強力な手段です。サプライチェーンを含む調達方針とプラクティスにサステナビリティを組み込むことで、持続可能な環境、社会、経済発展のためのリスク(機会を含む)を管理することができます。
持続可能な調達は、生産性の向上、価値とパフォーマンスの評価、購買者、サプライヤ一、すべての利害関係者間のコミュニケーションを可能にし、イノベーションを促進することにより、組織に大きな価値を提供する機会を表しています。
この文書は、以下の理解を提供することを通じて組織が持続可能な発展への責任を果たすことを支援します。
・持続可能な調達とは何か。
・調達活動のさまざまな側面での持続可能性への影響と考慮事項は何か:
・方針、戦略、組織、プロセス、持続可能な調達の実施方法

そして題名にもある「持続可能な調達」について、次の通り定義しています。

「ライフサイクルにわたり社会的、 経済的及び環境的に最大の利益をもたらす調達」
そして、対応すべき「原則」には次のポイントが挙げられています。

・アカウンタビリテイ
・透明性
・倫理的行動
・公平な機会
・ステークホルダーの関心への配慮
・法と国際行動規範の尊重
・人権の尊重
・革新的なソリユーション
・必要性へのフォ一カス
・統合
・すべてのコストの分析
・継続的改善

さらに中核課題は、次の通り設定されています。これはISO26000の中核課題と全く同じです。

・組織統治
・人権
・労働慣行
・環境
・公正な事業慣行
・消費者課題
・コミュニティーへの参画およびコミュ二ティーの発展

また今回の連載は「持続可能な調達」としていますが、次のような言葉も、ほぼ同義で使用されます。

・責任ある調達
・CSR調達
・サプライチェーンのCSR
・エシカル調達

こういった内容について、これから解説を加えます。

最後に、ではこういったガイダンス規格が具体的に調達・購買の実務に、どのような影響をおよぼすのでしょうか。大きく3つのポイントがあります。

①購買・調達方針を社会性・環境活動を意識した内容に変更する。
②統合報告書などIR資料にサプライヤーの社会性・環境性監査報告を加筆する。
③サプライヤーに対して社会性・環境面で問題ないかの報告を求める。

したがって、調達・購買部門では、まず①の取り組みをおこなって、その上で③の報告を各サプライヤーへ求め、報告内容に応じたサプライヤーへの対応を実践する必要があるのです。

(つづく)

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