調達・購買担当者の意識改革ステップ・パート4「支出分析」(坂口孝則)

・支出分析とは

解説:

支出分析では、自社の調達データを抽出し、何をどこからいくら買っているかを確認します。多くの支出分析では「ABC分析」(重み付け分析)によるものです。このABC分析では、それぞれの品目の調達金額を並べることで、どの調達品を重点的に考えるべきか視覚的に把握します。あるいはサプライヤ毎に並べることで、サプライヤ戦略を構築していきます。ここでは、ABC分析とともに有名なデシル分析を紹介しつつ、「意味のあるコスト削減」について述べていきます。

・意味があるコスト削減と意味のないコスト削減と

意識改革のために:調達・購買担当者が苦しむのは、難しい仕事ではありません。意味のない仕事です。私も、この意味のない仕事に苦しめられました。たとえば、総額10億円の調達品の価格を下げるべきであれば奮闘もします。しかし、部門の都合によって、たった数万円ていどの調達品を下げることに、ずっと注力できるひとはいません。

これは、数万円ていどの調達品のコスト削減に意味や意義がない、といっているわけではありません。すべては優先順位によります。ビジネスパーソンの時間は限られているのですから、やはり、重点的に取り組む品目と、(言葉は悪いものの)時間をかけない品目にわけるべきです。

しかし、こういうのは簡単。実際は難しいものです。私が企業をコンサルタティグしているときもそうです。調達金額はけっして大きくない、少額品のコスト削減に必死な部門がたくさんあります。話を聞いてみると、「この品目を使っている事業部はうるさくて、どうしてもコストを削減せねばならない」とか。声の大きさや直感で優先順位を決めているのです。全体にほとんど寄与しないコスト削減に特化しています。

こんなときには、視覚化が大切です。やはり、こんなときにはABC分析やデシル分析が使えます。このコーナーで使用するエクセルファイルをアップロードしておきました。

http://cobuybtob.sakura.ne.jp/sakaguchi/ABC.xls (旧エクセル版)

http://cobuybtob.sakura.ne.jp/sakaguchi/ABC.xlsx (新エクセル版)

外部リンクのURLからファイルをダウンロードできないひともいるかもしれません。その場合は、ご自宅からダウンロードください。

・ABC分析とデシル分析

まずシート「元データ」には品目別の年間調達額が書かれています。これは品目は私がダミー値を入れたのでイメージだけをとらえてください。そして、この「元データ」を並べ替えたのが、シート「ABC分析結果」です。説明を繰り返すと、調達額の高い順に並べ、その累積(折れ線グラフ)を重ねあわせたものです。有名なのは、パレートの法則です。パレートの法則では、数値の大部分は、ごく一部の要素が生み出す、とされています。8:2の法則ともいいます。実際に、累積を見てみますと、35個の品目で全体の8割を占めています。すなわち、優先順位をあげて取り組むべきは、これらの35品目です。

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次に、さらにパワフルなデシル分析を紹介します。シートの「デシル分析」をご覧ください。デシルとは十分の一のことです。デシル分析では、項目をまず十等分し、それぞれのカテゴリの比重を計算します。

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わかりにくい? では、品目が200あったとしましょう。ABC分析では、この200品目をまとめて分析していました。しかし、デシル分析では、10にわけます。200÷10=20ですから、20品目ごとのカテゴリにわけるわけです。

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そして、1~10それぞれのカテゴリの合計金額が、全体の何%を占めるのかを見ていきます。この結果では、1カテゴリが55.9%を占めています。次の2カテゴリでは29.4%です。こうやって10まで見ていくと、このデシル分析の「わかりやすさ」が光ます。

デシル分析によって、カテゴリごとの力の入れ方が一目瞭然です。もちろんやっていることはABC分析と一緒ですよ。ただ、あえてカテゴリをわけることで、「この品目はコスト削減対象ではないのか?」「いえ、これはカテゴリ4ですから、ほとんど重要視しません」などといった会話も可能となります。

また、部署や事業部ごとの特徴もわかります。1~3あたりのカテゴリに偏っているところと、広く浅く分布しているところなど、さまざまな見方が可能です。あるいは、「カテゴリ1と2は調達品戦略を構築しよう」などの調達部門のルールを設定することもできます。

余談ではありますが、もし読者が将来、お店を運営するなら役立つでしょう。顧客リストと、その顧客への売上高を並べて、おなじくデシル分析を実施します。そうすると、1・2カテゴリに入る顧客のみに追加ダイレクトメールなどを送付するのです。そうすると、低コストで売上を伸ばせます。

ではたとえば、品目数が121だったらどうしましょう。12.1品目ずつ? いえ、そんなときは12品目ずつカテゴライズして、最後の10カテゴリ目だけ13品目にしてください。主旨目的からすると、これでもほとんど問題ありません。これは厳密性を争うものではなく、カテゴライズを割り切って行うことで、コスト削減等の発想を出しやすくするものです。

さきほども少し触れたものの、たとえば、このような分類も可能でしょう。

・カテゴリ比率50%超は、調達戦略を必ず構築し、サプライヤミーティングを実施
・カテゴリ比率20~50%未満は、調達戦略を必ず構築
・カテゴリ比率10~20%未満は、調達戦略を必要に応じて構築するものの、基本的には競合を実施
・カテゴリ比率0~10%未満は、安定調達のみを目標とする

これはあくまでも一例であり、絶対的なものではありません。ただし、デシル分析によって、品目を「差別的に」扱うべきだと感じていただければ幸いです。

・それでも動いてくれない社内と対峙するみなさんへのメッセージ

よし、それでは5~10カテゴリに当てはまる品目はすべて無視だ!と思っても、実際にはなかなか上手くいかないかもしれません。これまで、調達担当者が、品目の位置づけをちゃんと説明していなかったとしたらどうしようもないとしても、ちゃんと説明しても「(その部品を使っている事業部からすると)俺たちの部品の価格はどうだっていいのか!」と怒り出すかもしれません。

以前、私が資材部というところにいたとき、ある部門の設計者にたいして「そちらの部門ていどの数だったら安くできませんから、コスト交渉なんてしません」と正直に語ったことがあります。そうすると、その設計者は怒りました。「お前、資材部のくせに、部品の価格は知らねえっていうのか」と。おそらく、この人が経営者だったとしたら、デシル分析やABC分析よろしく、重要部品に社員を特化させたいと思うはずです。しかし、現場ではそのような効率的な観点だけではうまくいきません。

ここは、凡庸ながら、社内関係者と上手にやっていくしかないかもしれませんね。せっかく新たな分析手法を模索しているにもかかわらず批判するひとすらいます。

最後に、私が自分自身のために捧げたメッセージを載せておきます。かつて手帳に貼って、悩んだときや苦しんだときに見ていました。

1.社内関係者は、あなたのことを理解せず、不条理で不合理なことをいう。それでもなお、仕事にうちこみなさい

2.何か成果をあげれば、誰かが妬み、足をひっぱろうとするだろう。それでもなお、仕事にうちこみなさい

3.出世すれば、味方と敵にわかれる。これまで味方と思っていたひとが敵になるかもしれない。それでもなお、仕事にうちこみなさい

4.せっかく関係者のために尽力したことも、明日には忘れ去られるだろう。それでもなお、仕事にうちこみなさい

5.真摯に語るほど、その些細な過ちにつけこんで指摘するひとがいるだろう。それでもなお、仕事にうちこみなさい

6.善の心をもつあなたは、いつか悪の心をもつひとに邪魔されるかもしれない。それでもなお、仕事にうちこみなさい

7.強者の味方ばかりするくだらないひとが多いだろう。それでもなお、仕事にうちこみなさい

8.何年も積み上げた実績が、一瞬にして消え去ることもあるだろう。それでもなお、仕事にうちこみなさい

9.困っている顧客を助けたにもかかわらず、その行為を批判するひとがいるだろう。それでもなお、仕事にうちこみなさい

10.会社のことを思って行動したとしても、その会社から仕打ちを受けるかもしれない。それでもなお、仕事にうちこみなさい

誰かが見てくれていますから

 <了>

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