ダイエット産業と儲けのカラクリ(坂口孝則)

16年間ほど体重が52キロから変わっていない、と私が話すと驚くひとがいる。出版社もやってきた。私のその方法は、「食べないことです」。すると出版社は「それでは本になりません」と帰っていった。意外な高運動量で再注目をあびているラジオ体操も15分で70キロカロリーしか消費しない。ご飯一杯ぶんのカロリー以下だ。ハンバーガーなど食べたら台無しだ。運動もいいけれど、適度な食事は体重維持やダイエットの唯一解だろう。

私たちは野菜と穀類を中心とした質素な食生活から、食肉文化に移り変わってきた。統計上の食料需給表「国民1人・1年当たり供給粗食料」で見ると、昭和35年度にたった6.5キロにすぎなかった肉類の量は、平成23年度には44.9キロにまで上昇した。

高カロリー食生活蔓延のいっぽうで、世のダイエット熱は上昇し続けている。メタボという単語が普及し、ノンカロリーやカロリーオフをうたう飲料水や食品が人気を博し、キリンビバレッジ特保コーラは販売数量が1億本を超え、低カロリーメニューを紹介するタニタの社員食堂アプリは8万ダウンロードを超えた。菓子類でもカロリーをでかでかとパッケージに載せている。ある調査では、ペットも2割強がダイエットを経験している(!)。

ダイエット産業は定義が難しく、何をダイエットとするかで答えはまるで変わってくる。3兆円から30兆円までその市場規模を試算するひとたちがいる。国民ひとりあたりで割ると、3万円から30万円だ。この数字に意味はない。ただ、大きな市場であるには間違いない。「巻くだけダイエット」「ロングブレスダイエット」「骨盤枕ダイエット」などのブームが次々に起きている。傑作『いつまでもデブと思うなよ』を書いた岡田斗司夫さんいわく、1キロ1万部の法則があるらしく、著者が痩せた量に応じて本を買うひとたちがいる。岡田さんは50キロ痩せ、同書は50万部を突破した。

ちなみに岡田さんの同書は、てっとり早く痩せる方法を伝授するものではない。ただ、ダイエット本の多くは短期間に努力なく痩せる方法を喧伝する。食品は「食べたい。だけど太りたくない」という消費者のわがままに焦点をあわせる。ダイエット器具は、あたかもそれを買うだけで痩せるかのような錯覚すら抱かせる。

世の中の商品には予防策型と解決策型がある。前者は問題が起きないようにするもの。後者は問題が起きたあとに対処するもの。多くのひとがカネを払うのは後者だ。これからも太った(問題)のちのひとたちが救済策をもとめてダイエット産業の拡大に寄与するだろう。日本の将来を体現する米国ではポール・ゼイン ピルツァー氏が著作『健康ビジネスで成功を手にする方法』をヒットさせ、ウェイト・コントロール産業で富を生めと力説する。

「痩せる商品を販売する会社って、みんなが痩せちゃったら商売にならないよね」
「詐欺なのか?」
「いやいや。まじめにやったら何でも痩せるでしょう」
「継続が問題なのか」
「ええ。『ダイエット産業』を入れ替えると『詐欺だとよう言えん』ですからね」
「いきなり関西弁かよ」
「太り方を教える仕事もあるみたいですよ」
「なんにせよウェルネス産業から離れられないってわけか」
「dietを入れ替えると、tied(がんじがらめになる)だからね」

ダイエッターの減量成功を祈る。いや、ほんとうに。

<了>

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