ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
緊急論考!値上げ対応 2
バイヤーが今、すべき値上げへの対応準備。まず、なぜ今値上げ対応への準備を調達購買部門として、バイヤーが行なわなければならないのかを考えてみます。バイヤーを取り巻く環境から、外的・内的の2つの側面でみてゆきましょう。これから述べるそれぞれの「要因」は読者の皆さんが購入されているアイテムに、直接的にコストアップとして影響される場合もあれば、「値上げやむなし」と、サプライヤーとの価格決定の際のスタンスに影響を及ぼす場合もあります。したがって、これから述べる内容は、皆さんにとって直接的な影響の有無にかかわらず理解し、値上げを抑止するための反論材料を持つために必要となります。それぞれの要因の影響力は小さいかもしれませんが、積み重ねによって値上げへの圧力が生まれる事実を忘れないでください。
●外的要因
これは、主に市場環境における外部からの影響による要因です。以下の通り3つの要因を想定しています。
1. 経済環境~キーワード 円高、原材料費高騰
昨年末以降の円安基調。輸出産業の損益改善に貢献すると、円安に転じた際には好感をもって受け入れられてきました。しかし、昨年の11月以降、日本経済新聞誌上で扱われる値上げに関連する記事の数は、その前の半年間と比較すると約4割多くなっています。ニュースとして報じられる値上げが確実に増加しているのです。
確かに輸出時にドル建てで販売する場合、円安によって売上は円貨ベースでは増加します。しかし、調達購買業務を行なう我々にとって円安とは、海外製品を購入場合に購買力の減退へとつながります。米ドルで$1の製品が、従来であれば80円で購入できていたのに、最近では98円でなければ買えないのです。海外サプライヤーとの売買を行なっていない方は実感しづらいかもしれません。しかし、昨年10月と現在では、米ドルで購入する場合、約2割実質的に値上げとなっているのです。
また、地下鉱物資源の、価格も上昇し続けています。2010年を100としたとき、企業物価指数は今年の3月で115.3となっています。企業物価指数の算出(外貨建ての場合)には、「原油、ナフサ、銅鉱、銅・同合金くず」といった製品価格が採用されています。この外貨建て企業物価指数は、2005年基準でも155.4。2000年基準でも141.1となっており、2000年以降、一貫して上昇しています。外貨建てでの単価の上昇に加え、円安によって、まさにダブルパンチで値上げの影響を受けているのです。
2. 市場要因
鉱物資源の調達に際して、顕著な傾向をお知らせします。下の4つの円グラフをご覧ください。
<クリックすると別画面で表示されます>
2000年代に、資源採掘会社の寡占化が進みました。上記円グラフの黒い部分は、上位メジャー会社の占有率です。いずれも上位数社で過半数のシェアを占めています。この寡占化は、残された地下資源の採掘コストが上昇している背景があります。同時に供給会社の減少・寡占化は、価格決定の主導権が供給側に握られてしまいます。鉱物資源の価格交渉は、各メジャーであるサプライヤーに有利な状況なのです。
実際に資源メジャーとの価格交渉を行なわれる機会は、ほぼ無いでしょう。しかし、特に製造業の調達購買部門では、鉱物資源を原材料とする購入を行なっています。こういった原料における価格高止まりにつながるマーケットの状況も、我々の購入に影響を与えるのです。
3. 財政政策要因
外的な要因の最後に、現在の日本の財政政策、そして政治家の発言を挙げます。まず財政政策としては、インフレターゲットが、1%から2%に引き上げられました。インフレターゲットとは、金融政策における物価上昇率目標です。あくまでも「目標」ですし実体経済への影響度は未知数です。しかし、この目標を達成すべく、日銀は「異次元緩和」と称される金融緩和をおこないました。この記事( http://goo.gl/KBY6R )では、先に述べた「円安」の対応策を企業調査した結果、約3割(製造業で29%、非製造業で34%)が、製品やサービスの値上げを検討しているとあります。
今回掲げた3つの要因が、我々の調達購買活動にどれほどの影響を与えるか。それは分かりません。値上げへの対応とは、このような要因を想定して、購入するモノやサービスに具体的にどのような影響があるかを見極める取り組みです。先ほどご紹介した記事に拠れば、輸入調達コストは「上昇」と書かれていました。実際に、サプライヤーから値上げ要求を受けている方にとっては、これらの要因による影響度を早速検討して、値上げ要求の妥当性を検討しなければなりません。
そして、サプライヤーからの値上げ要求に対応するためにはもう一つ、ここでは内的要因と呼ぶ点への考察も欠かせません。市況の高騰や為替レートの変動によって、サプライヤーの購入する原材料費が上昇することが、値上げの根拠になるでしょうか。なんらかの要因でコストが上昇し、これまでの販売価格では従来の利益確保が難しくなったために、顧客へ値上げにつながります。次回は、バイヤー企業内の値上げ対応の現状について述べることにします。
<つづく>