ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

優れた調達・購買・資材力をつけるために

年頭でまず書きたいのは、優れた調達・購買・資材力をつけるために必要な心構えだ。

私が「心構え」などと書くと、違和感があるかもしれない。これまで、論理を中心とした解説ばかり施してきたからだ。しかし、「論理だけでは解決しない」というリアルが年々増している。

そこで、調達・購買業務を進める上で、自分(あるいは部下)に問うべき内容を紹介したい。これらを自問し続けることが大切ではないかと私が考えていることだ。

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ここに四つあげた。

1.戦略構築においては「他部門を納得させる戦略、説明できる論理性があるか」
2.サプライヤおよび価格決定においては「外国人にできない仕事か」。および
3.「相見積りだけで価格を決定していないか」
4.購買実行においては「会社のための決定になっているか」

この四つである。順に説明したい。

1.戦略構築においては「他部門を納得させる戦略、説明できる論理性があるか」

2011年こそは、調達・購買改革をせねばならないと意気込んでいる企業(や部門)は多いだろう。それを実現しようと思えば、他部門からの協力は欠かせない。いまごろ、来年の調達・購買戦略を立てている時期と思うけれど、それは調達・購買部門のマスターベーションになっていないだろうか。

他部門を説得するためには、他部門が納得してくれるには、調達・購買部門内だけで通じる論理を振りかざしてもしかたがない。よく、調達・購買部門の戦略シートは、自部門だけで完結している場合が多い。その戦略シートを他部門に持って行っても、説明できるものだろうか。協力を促すことができるものだろうか。自分に、部下に問うべきは、まずこのことだ。

2.サプライヤおよび価格決定においては「外国人にできない仕事か」

戦略を構築し、発注サプライヤを決めるとき、あるいは日ごろの価格決定を行うとき。その行為は、外国人にはできない付加価値を持ったものになっているだろうか。日本人という高給料をもらっている人相応の働きができているだろうか。

こう書くと「外国人差別ではないか」と言う人がいた。もちろん、これは比喩的表現である。「World is Flat」という言葉通り、現在は労働力のグローバル化が進んでいる。日本人の仕事を、同じようなクオリティで、日本人の数分の一以下で請け負う人も出てきている。そのような激変のなかにいる。そのとき、自分の仕事は「そのような方々の数倍の価値があります」と言い切れるだろうか。それが問われている。

単に机を叩いてサプライヤの見積りを下げるだけであれば、机を叩いてくれる外国人労働者を数人雇ったほうがいいではないか(繰り返しだが、この「外国人労働者」とは比喩的表現だ)。

3.「相見積りだけで価格を決定していないか」

また、サプライヤ決定というときに、単に相見積りを入手して、それだけで決定していないか。単純に見積りを並べるだけであれば、誰だってできる。極端な話、今後は機械でもできるようになるだろう。そこまでいかずとも、実際に見積りを回収し結果を分析するBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)は進んでいる。しかも、BPOに委託してしまったほうが安い。

これは相見積りを否定するものではない。しかし、相見積りだけでは価値がないということだ。

4.購買実行においては「会社のための決定になっているか」

そして、一番重要だと思われる、この4.をあげたい。業務プロセスは明文化できる。しかし、愛社精神というものは明文化できない。私は、やや古臭いことをいおうとしている。これは愛社精神ではなく、愛仕事精神でもいい。

戦略やプロセスを規定する。そして、ルールどおりに仕事をしていても、日々のなかで判断に迷うときがやってくるだろう。判断に迷うときは、失敗することもあるだろう。ただし、失敗したときに「すみませんでした。ただし、これは会社のためを考えて決断したのです」といえるかどうか。この一言のみに、失敗を許されるか否かがかかっているように私には思われる。

会社を愛していないと、あるいは仕事を愛していないと、このセリフはいえない。逆に、もし失敗したとしても、「すみませんでした。ただし、これは会社のためを考えて決断したのです」という部下がいたら、それ以上その人を責める気になるだろうか。

ちなみに、某有名経済評論家の方が「会社で出世するためには」という問いに、このようにおっしゃっていた。

1.社内は速く歩くこと
2.誰にでも同じことをいうこと(話す人によって内容を変えないこと)
3.会社の利益を考えて行動すること

これは若いビジネスマンがメモしておいてもよいのではないかと思うくらいの卓見だ(ちなみに、東レ経営研究所所長の佐々木常夫さんは「礼儀だけで東レの役員になれれる」と講演でおっしゃっていた)。

「会社のことを考えて決断しろ」。これは精神性ばかりを強調したいのではない。それくらい思いつめることができなければ、きっとほんとうの調達・購買部門改革などできないと思うからだ。

・優れた調達・購買・資材力のための四つの使用禁止用語

そして、これまでの四つの文言から導かれる四つの使用禁止用語がある。

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1.「あくまでもこれは調達・購買・資材部門の戦略です」
2.「これ以外にやりようがありません」
3.「相見積りで○○社が一番安かったです」
4.「あちら(サプライヤ)にも事情があるようです」

上記の四つだ。1.は繰り返し、他部門の協力が必要である以上は言ってはいけない。また、2.は、いままで以上のことを考えるのが仕事である調達・購買部員がいうべき言葉ではないだろう。「だからできません」ではなく「できるように考えます」と言わねばならない。3.については繰り返さない。

そして、4.だ。私は、サプライヤの事情も考えずに、自社の都合だけを押し付けろといいたいわけではない。むしろ、サプライヤの便益も最大化し、しかも自社の利益にもなるように考えるのが調達・購買部員の仕事ではないか。そんなこと夢想だろう、といわれるかもしれない。でも、望まない夢が叶うことは絶対にない。その意味で、私はその程度は青臭くいたいのだ。

今回は、四つの自問項目と、四つの使用禁止用語を紹介した。2011年の初頭にこのような内容を申し上げることが最善かはわからない。もしかすると、「なんたらソーシング」とか「なんたらマネジメント」という言葉を多用して、かっこ良さそうな記事を書けばよかったかもしれない。

しかし、と私は思うのだ。そんな「なんたらソーシング」とか「なんたらマネジメント」って大事か、と。そんなキレイな言葉でごまかすよりも、より幼稚で根源的なことを考えたい。

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