サプライヤー分析 8(牧野直哉)

☆情報サイクルの「回転速度」と活用の方向性

情報分析全般について、必要な情報サイクルの「回転速度」と活用の方向性に関する2回目です。前回は、極めて短時間で情報に関する一連のサイクルを回すケースを御紹介しました。前回に引き続き全体像は次の図を御参照ください。今回は、前回よりも少し長い「日次、週次、月次」ベースです。


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日次、週次、月次ベースの情報サイクルは、日常業務であり、すべての情報サイクルの中心です。日々、事業を円滑に進めるために必要な情報サイクルです。ふだん仕事をする中では中心的な業務ですが、一方で企業経営に必要な付加価値を創出するといった観点では「処理する」のが主眼である内容が多くなります。このような日次、週次、月次ベースの業務の性格から、情報サイクルを円滑に回すために、2つのポイントがあります。

1つ目は、できるだけ時間をかけずに、成果を出す仕組みの構築です。より効率的に実行できる改善を自らの裁量で行える場面も多いはずです。例えば、注文書を発行したり、納期通りに納入されたり、品質を確保したりといった作業は、正しく実行されると、顧客との契約の遵守=売り上げの計上による新たに付加価値を創出する側面があります。しかし、どちらかと言えば失われた場合に損失が大きくなる業務です。したがって、決められたルールに沿って、できるだけ効率的に=人力に頼らずにおこないます。すでに紙の注文書を発行せず、Web EDIといった形で効率化を進めているケースも多いでしょう。そして今、話題となっているAIが調達購買の実務に展開されると、決まりきった仕事は機械に置き換えられてゆくでしょう。人の感情に左右されない分、安定したアウトプットが可能になる可能性を秘めています。もし、この部分で、非定型業務が多く、それこそ日々納期フォローをおこなっている場合は、企業における、最低限の付加価値である顧客との契約納期の遵守のみに従事している状態です。契約遵守への貢献は大きいかもしれませんが、現在求められている調達・購買部門への期待としても最低限レベルです。納期フォローは、同じようなフォローを二度と行わない、根源的な仕組みの改善までおこなって初めて行う意議があると言えます。また、日次、週次、月次ベースよりも、時間的に短いサイクルや、逆に長いサイクルを回す際の基礎的な条件を整える必要もあります。サプライヤーや社内関連部門との良好な関係を保つのも、日々の業務を円滑におこなってこそ、実行できます。

2つ目は、日次、週次、月次ベースのサイクルから、より短いサイクル、あるいは長いサイクルへ、有用な情報の提供や、サイクルを変更する「きっかけ」の発見です。前回、時間ベースでサイクルを回す例として、大震災後の2つのケースをお伝えしました。加えて、バイヤー企業の購入に影響を与えるサプライヤーの変化を日々の業務から察知します。例えば、これまで高いレベルで納期遵守率が維持されていたサプライヤーが、突如納期遅れを発生させたとします。発生時のフォローで、バイヤー企業の操業には影響を与えなかったとしても、元のレベルに戻るかどうかは注視しなければなりません。また、サプライヤーの経営不安の一報がもたらされた場合は、すぐに情報サイクルの長さを短くして、最新の情報に基づいた対処を時時刻刻と行わなければなりません。そういった変化を感じて、サプライヤーの状況を確認してみると、実はサプライヤーの事業継続に大きな問題があると発覚したといった事態も十分想定できます。

ちょうど今の時期、4月から新年度が始まる企業では、調達・購買戦略の立案や、予算の設定といった業務に追われている方も多いのではないでしょうか。いずれのケースも、調達・購買部門で検討する場合は、打ち出す戦略や予算の「根拠」の多くを、日々のサプライヤーとのコミュニケーションから入手しなければなりません。発注製品の性格や、購入額、購入頻度や納期遵守率、サプライヤーの評価結果といった情報は、必要となったら集めてまとめるのではなく、すぐに取り出せる状態が理想です。話は変わりますが、現在政府主導で押し進められている働き方改革では、業務時間中に占める削減対象に、会議や資料作成といった、一般的なサラリーパーソンからすれば重要と判断してきた業務が挙げられています。会議でも、資料作成でも、やりやすいインフラを整備して、仕組みを理解して効率的におこなう必要があります。そもそも基本的な資料は整備して、加工して取りだしも行いやすい重砲基盤の整備が必要です。

日次、週次、月次の業務は、企業における事業活動の根幹を担い、とても重要です。しかし、ただ処理すれば良い、終われば良いと考えるのは大きな間違いです。日次、週次、月次の業務によって、緊急事態と事業戦略を検討する際に基礎的な情報を収集するといった考え方には、疑いの余地はありません。だからこそ、できるだけ手数を費やさずに、違った速度のサイクルに活用しやすい情報を提供したり、自ら違ったサイクルで回すきっかけを感じとったりする「感度」が必要なのです。

(つづく)

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