ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●6-4サプライヤ評価結果の活用方法 ~発注方針への展開方法

サプライヤ評価結果は、調達購買部門におけるサプライヤごと、購入カテゴリー、全社それぞれの発注方針をつくるための基礎資料になります。評価結果によってサプライヤの特性を理解し、問題点を解消し、サプライヤの得意分野を積極活用する発注を目指します。

☆発注方針に合致したサプライヤはどこか

発注品目に類似点があるサプライヤを想定した評価結果を、レーダーチャートで表示します。次の例では、3社のサプライヤ評価を1つのグラフに表しています。次のグラフから読みとれるサプライヤの傾向は次の通りです。

<クリックすると、別画面で表示されます>

(1)B社は、コスト競争力があるものの、それ以外の分野ではA社、B社に劣っている点が多い
(2)A社は、各分野での評価は高いが、コスト競争力に難がある
(3)C社は、A社、B社の中間的な特徴を持っている

以上の評価結果から、今後の発注方針を考えてみます。

① 低価格商品の開発に際して採用するサプライヤ候補

コスト面の優位性が必要であれば、サプライヤ評価結果からB社を発注先の第一候補として検討します。幸いにして、開発力にも秀でていますので、開発段階の問題発生の可能性は少ないと判断できます。しかし、品質管理や納期管理の観点では、他の候補サプライヤよりも低い評価となっており、開発から開発完了、量産へのプロセス管理に不安が残ります。コスト優位性を重視した採用であっても、製品化までのプロセスや御客様への納入以降に問題を発生させれば、コストの優位性のメリットをバイヤ企業として享受できません。製品化までのプロセスに注意し、要すれば改善要求をおこなって、コスト優位によるメリットの確実に確保します。

他のサプライヤ(A、C社)にも、見積もり依頼をおこないます。コストの優位性はB社よりも劣るとの評価です。しかし、案件の内容によってはA、C社であっても、B社を凌駕(りょうが)する見積もりをおこなう可能性が残されています。見積もり依頼内容は「低価格商品の開発」でした。これが新興国のボリュームゾーンを主要なマーケットとし、サプライヤが案件内容に魅力的に感じる場合は、従来の売価設定レベルを変更する可能性も残されているのです。

② 日本国内向けのハイエンド新製品の開発

この場合、発注先選定は難しくなります。私は、AかBのどちらかを軸にして、対抗をC社にします。B社は、他の2社に比較して、際立った特徴をコスト面、開発面で持っています。半面、品質や、納期といった経営管理の面で弱点を持っています。B社の将来性を考えると、こういった面は、どこかのタイミングで必ず改善しなければならない課題です。日本国内向ハイエンド製品とのコンセプトは、B社に従来の弱点を克服する大きなチャンスになる可能性もあります。ハイエンド製品向けの購入が実現できれば、コスト以外では安定的なA社にとって脅威が増大します。

一方で、円滑な納入を前提にすれば、総合的な能力を根拠にA社の選定も想定できます。この選択肢は、なによりコスト面以外のリスクが少ないと実績から判断できます。A社を選定すれば、バイヤがあまり手をかける必要がない可能性も高くなります。

実際のサプライヤ選定の局面では、さまざまな要素を元に判断しなければなりません。見積もり依頼をおこなって得られた回答によっては、どのサプライヤにも発注する可能性は存在します。重要なのは「なぜ、このサプライヤを選んだのか」です。どんなサプライヤを選定しても、リスクは0%にはなりません。選定したサプライヤによって、最新の評価結果をみれば、想定されるリスクが特定できます。特定したリスクの顕在化を防ぐ取り組みが、発注以降の調達購買部門におけるサプライヤへのフォローテーマとなるのです。

続いて、具体的な発注案件だけでなく、この分野での将来的なサプライヤをどのように確保していくかを考えてみます。将来、高度な開発や技術的な対応が必要となる場合は、B社を軸にして、A、C社の技術力をどのように引き上げるのかをテーマにします。そして、技術的な対応よりもコスト面での優位性を追求する場合は、B社のコスト競争力の活用と、A、C社並みの技術面、品質面、生産管理面の確保をどのように実現していくかがテーマになります。また、将来的な発注量の変動も、発注方針の決定には反映します。増加する場合は、各社の生産能力を踏まえ、増産を打診できるのか。必要であれば、設備投資も検討します。逆に減少が想定される場合は、現在の3社体制の維持できるのかどうかを判断します。

☆サプライヤ評価は定期的に実施

サプライヤ評価は定期的におこない、調達購買部門やバイヤの意志決定の材料にします。評価する頻度は、サプライヤ全体に対して年一回を基本とします。もちろん、半期や四半期ベースの評価も、よりサプライヤの最新状況の反映がタイムリーにおこなわれるメリットが存在します。半面、頻度を増やせば、それだけ社内関係者の負荷も増加します。他の業務と同じように、費用対効果を判断基準として、最低でも年一回の実施を目指します。バイヤ企業側で、重要な意志決定が必要で、かつサプライヤが密接に関係している場合は、対象のサプライヤに対してのみ、最新の評価状況から変化した内容の有無と度合いを再評価します。

また、サプライヤを年一回評価する「タイミング」です。会計年度が終わったタイミングで、前年度の実績としてバイヤ企業への貢献度合いを含めて評価すると、調達購買戦略への反映ができなくなってしまいます。新年度が4月にはじまる場合を考えてみます。3月に前年度が終了して、サプライヤ評価を4月に開始すると、4月にはすでに新年度の調達購買戦略が立案され、実行されているはずです。4月に新年度が始まる場合、戦略の立案作業は、前年の12月~2月におこないます。サプライヤ評価の目的から考えれば、評価作業の時期は年度の中頃、4月に新年度が始まる場合は、10月以降におこないます。

(つづく)

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