ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●6-3サプライヤ情報の活用方法 ~評価する

サプライヤから情報を入手したら、次は活用しなければなりません。あらかじめ設定した同じ基準を用いて評価します。評価結果によって、サプライヤのどのように区別して対応するかを決定します。

☆サプライヤ評価基準の設定方法

サプライヤを評価するには、あらかじめ定められた基準が必要です。評価者の個人的な好き嫌いで評価をおこなってはなりません。サプライヤに発注する際は、QCD(品質の向上:Quality、低コストの実現:Cost performance、必要な時期に届ける:Delivery Date)の実現性を確認します。サプライヤの評価でも、発注先の選定基準と同じくQCDを評価します。発注先選定と異なる点は、一定の期間における購入全体を対象とする点です。QCDに加えて、バイヤ企業の要求事項にもとづいて、サプライヤに必要な基準を付加します。近年では、次の様な内容がサプライヤ評価に加えられています。

D:開発力(development) →製造業的

自社の設計/開発業務は、自社の得意分野へ集中的に投下しなければなりません。サプライヤに必要機能と条件を提示し、その範囲でサプライヤ独自に設計してもらう場合、サプライヤの「開発力」の評価が必要となります。評価ポイントとしては、過去の設計実績や、設計部門の人的リソース、すでに開発を依頼している場合は、実際の案件のアウトプットによって対応力を綜合的に評価します。

S:サービス →間接購買的

「間接購買的」としましたが、直接材購買でもサプライヤのサービス面での評価は可能です。納入物以外の納期の順守率(バイヤ企業の依頼に対する対応)、見積依頼をおこなってから提出までのリードタイム。バイヤ企業として、やりやすいパートナーであるかを評価します。これは、サプライヤとコンタクトがある部門と共同で評価すると、興味深い結果が得られるケースもあります。調達購買部門には、たまにしか来訪しないサプライヤが、実は購入要求部門には足繁く通っており、見積依頼書の中には明記していないさまざまなサポートをおこなっているといった状況です。このような例を、調達購買部門を相手にしていないと判断するのでなく、そういった相手に対してバイヤ企業にもっともメリットのある対応を考えるきっかけ・材料にします。

M:マネジメント(経営管理能力)

QCDの良しあしは、サプライヤの企業としての経営力に依存しています。一般的なサプライヤの財務分析をベースとした信用力の評価との側面に加え、従業員の平均年齢や、設備投資の状況、また企業の戦略の滲透度といった観点で、企業内の活力や風通しの良さを判断します。この評価は、企業が活力に満ちていて、かつ企業内階層間の風通しが良い会社とは、バイヤ企業にとって「手強い」ケースが多いとの事実です。一方、停滞気味で、風通しも悪い場合、キーマンを押さえれば、バイヤ企業の主張は通りやすくなります。その半面、企業の永続性の観点では、危険信号が灯っているともいえます。評価内容が高ければ、サプライヤとしての有効性も高くなりますが、評価結果の判断には注意が必要です。

P:ポジショニング(志向性、忠誠度)

これは、サプライヤにとってのバイヤ企業の重要性を表します。バイヤ企業の発注額が、サプライヤの売上げに占める割合で評価できます。サプライヤの売上げの30%以上であれば、バイヤ企業の意向は大きな影響力を持ちます。そして50%を超す場合は、バイヤ企業の意向を聞き入れる度合は高まりますが、バイヤ企業の発注方針が、サプライヤの命運を握る状況になります。バイヤ企業にとって、代替のない重要なサプライヤであれば問題ありません。しかし、際立った優位性がないサプライヤの場合は、高い忠誠でも注意が必要です。

☆評価基準について

サプライヤマネジメント実行に際して、多くの企業が立ち止まってしまう場面、評価基準の妥当性の担保です。調達購買部門内でもさまざまな意見が存在し、関連部門をふくめると意見が噴出し、集約できないほどに拡散してしまう。結果、評価基準が固まらないので、サプライヤも評価できず、サプライヤごとの戦略も立てられず、最終的には、どのサプライヤにも代わり映えのない対応になってしまう。サプライヤマネジメント実行では、もっとも残念な例です。

評価基準の妥当性の議論ほど、妥当性を欠いた内容はありません。議論に参加する担当者は、自分の担当職域をベースにした個別最適しか主張できません。また、サプライヤ評価は、企業の公式的な好き嫌いの表明であり、100%妥当性を担保などできません。もし、過去に設定されたサプライヤ評価基準があれば、基準の妥当性議論よりも、実際の評価を優先しておこないます。そうすれば、現行の評価基準によって、サプライヤの優劣が決定します。その結果、調達購買部門の認識とギャップが存在し、その解消をおこなわなければ誤った意志決定をおこなってしまう事態になって初めて評価基準の見直しをおこないます。

評価基準は、継続して評価するために、頻繁な変更は避けます。一方で、時々の経済環境に合わせて設定する経営戦略の方向性とは、整合性を保たなければなりません。経済状況への対応には、評価項目の「重み付け」を変更で対処します。例えば、輸出企業が急速な為替変動によって、価格競争力を失った局面を想定してみます。バイヤ企業では、よりコスト競争力を持っているサプライヤへの傾斜的な発注する必要性が生じます。このような場合は、コスト面で評価の高いサプライヤを抽出し、従来の発注方針の変更を検討します。コストが優先だからといって、品質やリードタイム(納期)は軽視できません。コストだけを優先させ、他の要素を軽視し、結果としてトータルコストが高くなるのは、もっとも避けなければなりません。重点を置くポイントと、他の要素をバランスさせ、事業戦略にも合致する発注方針を打ち出し、サプライヤマネジメントを実践するのです。

評価項目は、明確な判断基準も設定します。サプライヤの評価は、担当するバイヤが行ないます。評価の判断基準が曖昧だと、あやまった意志決定を行う可能性もあります。評価基準は、客観的に決めなければなりません。また、評価項目と判断基準は、サプライヤにも公開します。新しくサプライヤを採用する場合は、サプライヤにも自己評価してもらい、その上でバイヤ企業側の評価と対比して、双方で納得した評価結果とします。この取り組みによって、偏った評価を防止します。評価する時点でのサプライヤの状況を過不足なくそのまま理解しなければなりません。双方の評価を合わせ、自社にのみ都合のよい評価を防ぎます。

(つづく)

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