連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)
*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。
<2024年②>
「2024年アフリカで富裕層が急増」
人口増によるビジネスが勃興
P・Politics(政治):アフリカ開発会議などで日本が大幅な経済援助を約束。
E・Economy(経済):富裕層の数の伸び、またGDPの伸びはアフリカ全体で堅調。
S・Society(社会):人口は世界の20%弱をしめるが、2100年には40%に拡大する見込み。
T・Technology(技術):ICT(情報通信技術)を活用したビジネスが増加。
人口増が続くアフリカでは、GDP等の経済指標も堅調に推移している。そこで企業は人口増に伴い、市場としてアフリカを見るようになった。またICTの応用により新たなビジネスも生まれている。ただし、アフリカ経済は原油の市況に大きく影響され、また農業生産性も悪いままだ。リスクを抱えながら、日本はアフリカ市場をいかに戦略的に攻略するかが課題になっている。
・私の注目する三国
ビジネスの観点から、3国を紹介しておく。
・アンゴラ
・ナイジェリア
・ルワンダ
・アンゴラ
アンゴラは原油やダイヤモンドに恵まれている。2000年代の中ごろには、経済成長率が20%を超えた。その経済を強く牽引したのが、原油輸出だった。2007年にはOPECにも加入した。中国はロシアとサウジアラビアから原油を輸入している。意外なことに、3番目はこのアンゴラだ。
ところで話が変わるようだが、ここで注目すべきはミャンマーである。このところのミャンマーの発展には中国が関与している。ミャンマーからアフリカに抜け、アフリカのアンゴラとナイジェリアから原油を調達するためだ。
世界地図を見てもらうとわかるように、シンガポール、マラッカ海峡を通るルートよりもミャンマーからのルートがはるかに近い。中国はアフリカ投資、対アフリカODAを積極化していると同時に、ロジスティクス上の拠点もアジアに整備していたのだ。
中国がミャンマーを開発し、そして原油を運び、さらにミャンマーを通じて自国の商品をアフリカに送ろうとしている。中国の出口戦略の観点からもこのアンゴラは注目する価値がある。
・ナイジェリア
GDPは5218億ドルにいたり、OPECの一員でもある。ナイジェリアは、国家の歳入の8割を原油が占めている。そのパワーは絶大で、ナイジェリアのGDPは南アフリカを抜くにいたった。まともなGDP統計が存在しておらず、電気通信や金融業を加算すると、実はアフリカ第一の経済大国に「認定」されている(なお原油の市況価格が下がった2015年の局面では、絶望的なダメージを受けたのも事実だ)。
ナイジェリアでは、イギリスから独立するほんの4年前に原油が見つかった。これは独立する観点からは幸福でもあり、不幸でもあった。なぜならば、その独立前の1956年に原油が発見されてから、内部崩壊がもたらされた。内戦が勃発し、国が二分され、200万人が死んだとされる。現在ではイギリス企業の多数がナイジェリアに進出しており、新たな植民地主義ともいうべき資源の取り合いが生じている。
欧米に原油を取られてきたナイジェリアだったが、このところ中国が積極的に介在している。原油を確保するために、立て続けに中国は二国間のプロジェクトを始動させた。これにより発電や原油施設などのインフラ整備に融資していく。
中国はナイジェリアから原油を調達する代わりに、それまでナイジェリア国産だった繊維製品を安価にナイジェリアに提供することとした。中国がしたたかなのは、ナイジェリアにとっても2007年以降は、米国ではなく中国が第一の輸入国となっていることだ。中国の狡猾な戦略によって、ナイジェリアは国内の繊維産業は斜陽となった。中国は原油をナイジェリアやアンゴラに依存している関係だったはずが、自国の安価な繊維商品によって、むしろ彼らが中国依存体質になっていった。
ナイジェリアは先に上げたとおり、アフリカの人口増を牽引するところでもあり、消費拡大により市場としても注目されている。
・ルワンダ
ルワンダは内陸に位置し、地下資源などに恵まれていない。しかし、同国は「アフリカの奇跡」と呼ばれた。この10年間は経済成長率を8%ていどキープした。そして現在、世界中からベンチャー企業を誘致している。同政府は2000年に「VISION2020」を発表した。これはICTを活用し先進的な国家へ脱皮する宣言書だ。
カーネギーメロン大を誘致しコンピュータ修士課程を開講した。さらにLTEサービスの提供をはじめ、さらに電子政府プロジェクトをも開始した。ダボス会議ではルワンダをICT活用にすぐれた政府と賞賛されたほどだった。
同国は1994年のルワンダ大虐殺の記憶が新しい。しかしいまでは、同国政府は汚職が少ないことでも知られ、腐敗認識指数では2016年に世界50位となった。これはボツワナに次ぐ高順位だ。会社設立が容易で治安の良さも高評価につながっている。
日WIRED2017年VOL3では、ルワンダでドローン配送ベンチャーを興したカルフォルニアのZipline社をインタビューしている。<ルワンダを選んだ理由としては、政府がヘルスケアに、そしてすべての挑戦に協力的なのが大きい。(中略)最も重要なのは、ルワンダ人の多くがもつ起業家精神だ>。同社はドローンを活用し血液を病院に届けるサービスを展開しているが、アフリカでは先進国が100年かけて開発してきたテクノロジーをいますぐに使える利点があるという。あとは政府が積極的に技術を摂取しようとするかだ。
・企業の反応等(人口増そのものにたいして)
アフリカはこれまで資源の価格高騰によって外貨を稼ぎ出し、それにより経済が上向き、さらに個人消費を伸ばしてきた。実際に、原油価格とアフリカのGDP合計はほぼ相似形にある。そして投資を呼び込み、その所得でアフリカでは個人が消費する。
アフリカにおいて政府消費や、農林漁業、鉱業、製造業などを差し置いて、はるかに個人消費がもっとも経済成長に寄与している。そして外資メーカーもそこに注目した。10年以上前よりBOPなる単語が流行した。これはボトム・オブ・ザ・ピラミッドの略で、アフリカの低所得者層向けの消費財販売などを指す。洗剤などの日用品から、飲料などにいたるまで進出が続いた。
そこでスーパーマーケットもアフリカではかつて富裕層むけビジネスだったが、庶民向け小売店として拡大するにいたっている。
アフリカの消費者はいったん気に入ったものは使い続ける傾向が、他地域より顕著だといわれる。一般財団法人経済産業調査会発行の「アフリカビジネス」によれば<保証は絶対条件である。テレビで3~5年、冷蔵庫で10年の保証を付している>とか<ブランドイメージの維持が重要である。一度値下げしたらアウトであり、日本企業も韓国企業も値下げしていない>などといった意見が見られる。
・企業の反応等(健康向上ビジネス)
さらにアフリカでは医療にたいする飢餓感があり安価な医薬品や私立病院の建設などが期待されている。実際に南アフリカでも出生時平均余命は60歳にいたっておらず、世界のなかでもっとも寿命が低い地域であるのは間違いない。
アフリカは農業国のイメージがあり、実際に全労働人口の6割が農業に従業している。しかし、その生産性は先進国の四分の一から五分の一にすぎない。アフリカの農業生産性は低く、食料供給はこのままだと破綻するだろう。健康向上の観点からも、アフリカ人たちへの農業技術の移管は古くて新しいテーマだ。また、意欲のある人たちが農業機器などを買えるように、マイクロファイナンスも発展してきている。
同時にアフリカへ穀物の輸出をねらい、アルゼンチンなどの穀物輸出国からアフリカへの送るビジネスを手がける商社もいる。
なお、国連開発計画によると、アフリカにおける女性たちの労働時間は長く、ケニアでは一日11時間ほどを歩くとされる。ケニアは一例で(http://www.undp.or.jp/ticad_undptokyo/pdf/AfricaGender.pdf)、アフリカ全体での家事労働の長さが指摘されているが、そのわずかな時間をぬって子どもたちのために美味しい食事を作ろうとするニーズがたしかにある。そこで加工食品メーカー等が進出している。
・企業の反応等(未開分野開拓)
ルワンダの箇所で<アフリカでは先進国が100年かけて開発してきたテクノロジーをいますぐに使える利点がある>と書いた。おなじく、アフリカの地で同種の取組として面白いのは、ケニアで施行されているOKHiというサービスだ。
74億人の世界人口のうち、住所を有しているのは、30億人ほどしかいない。住所をもたないひとが40億人強もいる。彼らに荷物を運ぼうと思っても運べない。しかし、彼らはGPSで観測できる座標はもっている。それによって配送対象を拡大している。
おなじくアフリカにはいまだに電気が開通していない地域がある。そんな地域で電気の自給は一つの解決策になるだろう。実際に、簡易的な自家発電装置を販売するサービスがある。
アフリカ諸国は再生可能エネルギーの投資を急拡大している。人口増によってただでさえ既存インフラでは電力需要がまかなえないためだ。再生可能エネルギーで充足させるのは疑問であるものの、太陽光発電などが重要視されている。
また現在、ブロックチェーンの技術が話題になっている。これはビットコインでも活用されている技術だ。簡単にいえば、中央にある集中化したサーバーで情報を管理するのではなく、暗号化されたデータを分散されたコンピュータで所有し改ざんをしにくくする。これを活用しようというのが、アフリカにおける土地登記システムだ。というのもアフリカでは政府が信頼できず、国家という中央集権のみに土地管理データを預けておくと恣意的に改ざんされるかもしれない。それをブロックチェーンによって制御できれば、安全性が高まるため海外からの投資を呼ぶこともできるだろう。
もっともアフリカ経済が安全かというと、そうでもない。原油に依存しているため、価格下落に国家財政はダイレクトな影響を受ける。そこで、逆にアフリカの苦境を「活用」しようという動きもある。
とくに中国はモノづくりの原材料をアフリカから輸入し、そしてアジアの安価な労働力を活用し、さらにそれをアフリカに販売するサプライチェーンを構築している。たしかにそれは植民地時代の搾取システムと同義かもしれない。ただし、ナイジェリアのようなアフリカの国々を市場として開拓した先見性は認められてもいい。
日本も戦略性をもってアフリカと対峙しなければならない。まずは一度ナイジェリアなどに行ってみるところからはじめたらどうだろうか。
アフリカの特徴として働き手が大陸をこえている。それは祖国への仕送りの多さを意味する。毎年250万人が祖国をあとにしている。現在ではビットコインなどを使った送金手段もある。出稼ぎ先と祖国をつなぐサービスなどは必要とされるだろう。
また、日本の高度成長期のことを考えてみよう。かつて日本では人口増で外食の調理時間が足りなくなり、それがセントラルキッチンという発明を生んだ。また、オリンピックの警備人員不足が民間の警備会社を躍進させた(セコム等)。
アフリカの人口増が、そのまま住宅を増やすとすれば何が起きるだろうか。その際に問題となるのは、建築家が足りなくなることだろう。そして、建材の生産ノウハウなども、日本が優位性をもっている。
くわえて、人口増が都市の密度をあげ、そして自動車であふれかえるようになったらどうなるか。アジアで見られる交通渋滞をさらにひどくした状況になる(現になっている)。そのようなとき、手軽に車中で暇を潰せるゲームが人気となる。
人口増はアイディアしだいで、日本企業にも大きな恩恵をもたらすだろう。
<つづく>