コストテーブル論(牧野直哉)

2018年最初の調達・購買に関するスキルアップは、コストテーブルです。実はこのテーマ、調達・購買の現場では、企業によって当たり前なスキルでもあるし、新たなスキルでもあると考えています。日本で最もコストテーブルが作成された時代は、高度成長期の後半です。当時はコストテーブルに関する文献も複数出版されていました。

私が調達購買部門に配属されたとき、やはり昭和50年代に作成された青焼きのコストテーブルを先輩から引き継ぎました。表計算ソフトがない時代に、表やグラフを使って詳細なコスト分析が行われていました。

当時のノウハウが、現在まで正しく引き継がれていれば、今でも強力な武器になっているはずです。値下げ要求の局面だけではなく、さまざまな要因でサプライヤーから要求される値上げについても、コストテーブルは十分にその力を発揮するはずです。

しかし、問題はせっかくコストテーブルが作成されたにもかかわらず、現在はコストテーブルがない状態です。コストテーブルは、唯一無二で絶対的な存在ではなく、コストを構成する要素の、それぞれのコストが最新に更新されなければ、全く使い物にならなくなります。また最終的にサプライヤーからの購入価格を査定するロジックも、時代の変遷とともに見直しをかける必要があります。

コストテーブルは、その作り方と内在するデータの更新を行わなければ、すぐに陳腐化してしまう厄介なツールともいえます。しかし、日常業務の中にコストテーブルの見直しやデータの更新作業を織り込んでおけば、常に最新最良の価格査定が可能になります。コストテーブルには作るだけではなく、サプライヤーの見積書の価格査定や、実際の価格交渉に活用し、その上でデータの更新や価格決定のロジックを見直します。

コストテーブル論を学ぶ目的は、次の3点です。

1つ目は、まずコストテーブルが自分で作成できるように方法論を学びます。調達・購買業務で、エクセルに代表される表計算ソフトが最も活用できる資料がコストテーブルです。表計算ソフトがなかった頃に比べると、格段に作成が容易になり、さまざまな分析も可能になりました。

2つ目は、コストテーブルのデータの更新です。原材料費などは、日々とは言わなくても、一定の期間ごとに見直され変動します。バイヤーにとっては、そういった変動を吸収し、かつコスト削減が責務であるはずです。そういった責務を果たすためにも、実際のコストの傾向がどうなっているのか掌握して価格交渉に臨む必要があります。それには、最新のデータに更新されたコストテーブルでサプライヤーの意向を読み取る必要があるのです。

3つ目は、コストテーブルの活用です。コストテーブルは、見積書の査定や価格交渉に長活用するのではなく、調達・購買業務のあらゆる場面での活用が可能です。発注戦略や、サプライヤー戦略。調達・購買戦略の立案にコストテーブルをどのように活用するのかも述べていきます7

●コストテーブルの定義

まず、コストテーブルの定義です。

「購入対象の原価構成要素から、購入価格に影響を与える要素を見つけ、購入対象の見積、価格の査定による妥当性確認と交渉のみならず、調達・購買業務全般に活用するツール」

とします。ここで、定義の中に、重要なキーワードが3つあります。「原価構成要素」「影響を与える要素」「ツール」の3つです。

●原価構成要素


どんな企業であっても、特に同じ製品やサービスを提供する企業であれば、発生する原価にあまり違いはありません。しかし、サプライヤーの社内で発生する原価を数値として計算する方法が企業ごとに異なっています。上図に示された内容は、どんな企業であっても発生するコストを最低限分類した構成です。

そして、サプライヤーの原価構成要素を詳細に調査しようと思っても、一般的には許されず、許さないからこそ難しいのが実情です。したがって、まず自社の原価計算方法を学び、その過程から「コスト」の決まり方を理解しましょう。社内であれば、経理や財務といった部門に確認をすればわかるはずです。

続いて上図に示された各要素についてです。材料や労務費、経費、一般管理費・販売費は、企業が異なっても同じレベル、すなわち割合であったり額であったりする可能性が高くなります。もちろん、材料費や労務費といった部分で他の企業よりも安ければ、それはイコール企業の競争力となります。企業の競争力は特徴であり、企業にとってのアピールポイントです。サプライヤーとのコミュニケーションから、特徴を読み取って、コストにどのような影響を与えるのかを推測します。

最後に利益です。本来であればこの部分は企業によって良しあしの違いが出る部分です。しかしこの部分こそ、サプライヤーにヒアリングをしても最も回答が得られない、バイヤー企業にとっては大きなコスト要素です。したがって、業界平均を用いて計算します。

いずれのケースにも言えますが、コストテーブル作成のために必要な原価構成要素の数値に正解はありません。正解はサプライヤーの原価計算書にしかないのです。それを参照できれば良いのですが、一般的にそのような資料を目にできません。したがって、調達・購買部門でコストテーブルを作成する場合、何らかの根拠に基づいた数値が導き出せるかどうかが、活用できるコストテーブルになるかどうかの分かれ道です。

(つづく)

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