終活ビジネスについて知っておくべきこと(坂口孝則)
仕事柄、中小企業と仕事をするのですが、先日「あの社長は、『自分が死んだら、社葬にしてくれ』っていうだろう。あれはな、自分の愛人が参列できるようにするためなんだ」と聞かされました。なるほど、社葬でなければ本妻の手前、なかなか難しいですよね。
経営者であれば会社に債権譲渡したり、愛人に財産を残すために会社の株式を活用したりする方法などを経営者に伝授するコンサルタントが存在します。保険金も、会社で支払いを受けたあとに、そこから退職金としたほうが税金は安くて済みますからね。
医療の進化があるものの、2030~40年くらいが日本では死亡者数のピークです。その数は年間160万人ほどです。いまだに人間は老いて死ぬ現実からは離れていません。そこで注目されるのが終活と終活ビジネスです。文字通り、最期を望みどおり迎えるものです。葬儀などのビジネスを含めると、終活関連の新興企業は好調が目立ちます。
くわえて現在では、50歳時点で、一度も結婚したことのない男性も20%を超えています。彼らがどのように最期を迎えるのか、関心が高まるのも当然です。現在、大学病院に献体を希望するひとが増えていますが、これは医学に寄与するよりも、もっぱら、自身の死を誰も面倒見てくれないからです。日本では無縁死という、誰も引き取らない死体は5万を超えました。葬式を省略して火葬場に直行する直葬も10%以上です。日本では死亡が確認され24時間を超えないと火葬できませんから、そこまで葬儀社が保管するわけです。現在では、拾骨すらしない場合もあるらしく、その簡易性に、どこか恐懼するほどです。
遺言も公正証書遺言があり、証人二人の前で述べ、それを公文章として作成するものです。これならば法的な効力も有します。しかし、実際にやろうと思えば、面倒と感じます。その他、前述のように、死後の財産分与をどうするか、また誰から看取ってほしいのか。単身なら、誰に訃報を伝えるのか、そしてSNSやエロ本などはどう処理するのか。そういった要望を訊いて、それを一括で提供するサービスが求められています。
とくに現在、問題となっているのは、資産と負債です。かつて銀行預金しかなかった時代はまだしも、現在は、証券に海外口座、不動産、仮想通貨に、ベンチャー投資など、さまざま分岐しています。実際に、この国では、口座保有者の死後、家族の誰もが把握しておらず手付かずになっている金額が毎年800億円を超えています。その他を考えると相当な金額に登るはずです。これらは確実に記録に残しておきたいですね。さらにわかりやすい住宅ローンや自動車ローンは別にしても、個人間で貸していたり、連帯保証人になっていたりするものは、非常にわかりにくい。これも残された人たちを考えて、記録しておくべきでしょう。たまに「親の隠れ借金がわかった時点で、相続放棄すればいい」というひともいます。しかし、放棄が可能なのは死後3ヶ月以内です。
ところで、急死した知人の命日が近づくと、彼のSNSには毎年、弔う書き込みが相次ぎます。SNSはもはや現代の墓です。しかし残念なのが彼の最終投稿がオヤジギャグなことです。忘れてはいけないのは親の顔ではなくSNSのパスワードになったように、現在、死化粧よりもSNSから不適切な投稿を抹消することが故人に花を添えます。
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