調達・購買担当者のための資料作成入門(坂口孝則)

・資料作成前に5つの項目を明確にする

「結局のところ、俺になにをしてほしいんだ?」

ぼくは仕事柄、さまざまな企画書や提案書を見ることが多い。その多くが、ご丁寧な説明とセットになっている。説明が長々と続き、「ということで、私たちの説明を終わらせていただきます」と相手は語る。

そして長い沈黙。先方は、こっちの反応が不安で焦っている。

こちらは「うーん」としかいいようがない。なぜか。内容が不明瞭の場合もあるけれど、その企画書なり提案書なりで、結局ぼくたちになにをしてほしいのかわからないのだ。新商品やサービスの売り込みがある。……で? これの購入を検討してほしいのか? あるいは感想をいってほしいのか? それとも販売先を紹介してほしいのか? 「ご興味おありですか?」と相手は訊いてくる。なぜ、それほど無意味な提案をしているのか、そのひと自身に興味はある。でも、企画書や提案書の中身自体には関心も興味もないんだ。

あるひとは、企画書や提案書によって、聞く人に感動を与えたいという。でも、ほんとうにそうなら、企画書や提案書が最適だろうか。AKB48なんかのチケットを渡したほうが、よっぽど感動を与えるだろう。あるいは、闇夜で背後から襲ったほうが、多くの驚きを与えることができるだろう。

企画書・提案書・報告資料・レポート等々の形式的、定量的スキルは必要だ。だけど、実際の資料作成方法を学ぶ前に、まずはじっくりと頭で企画書や提案書の存在意義を考えるクセをつけておきたい。その資料の目的は何か、誰にいいたいのか、どんなことを伝えたいのか、どんな順番・構成にして、どんな媒体で語りたいのか。

みなさん、記憶にないだろうか。あなた、あるいは部下、あるいは同僚が資料を作成して、それを上司に見せたときのこと。これがダメ、あれがダメといわれて、資料が作り直しになってしまったことを。資料作成者の時間はムダになってしまう。部下は上司を恨むかもしれない。上司も部下を「なんでこんな資料を作成するんだよ」と蔑むかもしれない。

でも、これは両者とも間違っているんだ。なぜならば、資料作成前に、その資料の存在意義を確認していなかったからだ。図には、5つの項目である「目的」「対象者」「メッセージ」「ストーリー(構成)」「媒体」を書いている。すべての資料は、作成前に、これら5つのボックスを埋めることができなければならない。これが明らかじゃない資料は、冒頭の「なにをしてほしいんだ?」資料になってしまう。資料の目的が曖昧なまま作成したって、曖昧な印象を持たれておわりだ。

そして、注意してほしいのは、「対象者」のところだ。相手の会社の担当者にたいして、社長決裁が必要な内容の判断を迫ったって、しかたがない。逆に、社長にたいして、担当者に聞いてもらうべき細かな内容を語っても、どうしようもない。

また、自分が提案・説明しようとしている内容について、相手はどれだけ詳しいんだろうか。詳しい相手に、一からご丁寧に説明したって、退屈にさせるだけだ。無知なひとに、高度概念をいきなり説明しても、相手はちんぷんかんぷんだろう。

もう一つの軸は、自分自身だ。提案・説明しようとしている内容について、自分自身はどれくらい精通しているのだろうか。たとえば、あなたがコンサルタントだったとしよう。クライアントのメーカー企業を何度か訪問して、特定製品の生産効率が悪いことを発見したので、解決策提案の機会があったとする。その生産効率悪化要因・解決策に、あなたはどのくらい詳しいのだろうか。経験値が豊富で、自信満々に指摘できるのだろうか。あるいは、仮説段階なんだろうか。自分自身が仮説段階なのに、当事者で専門家の相手に、解決策を語っても「そんなことわかってんだよ。そんなことが簡単にできりゃ、誰も苦労しねえよ」と思われるのがオチだ。

相手と自分の特性から、語るべきことが変化することがわかる。図では、「資料を聞く側」と「資料を説明する側」にわけた。そうすると、2×2=4タイプの資料があることがわかる。もちろん、厳密に四つに分類できるわけじゃない。でも、これを意識することが、相手にたいする「優しさ」とぼくは思うのだ。

そして対象者に応じたメッセージを記載する。

・A4一枚にストーリーチャートを記載しよう

次に、ストーリーの明確化だ。これは、別紙を使って記載すればいい。

さきほど5つの項目の「メッセージ」までを記載していたはずだ。そのメッセージをこの図の上に貼り付ける。そして、このメッセージを伝えるに、もっとも効果的な構成を考えるのだ。これが、ストーリーチャートだ。この図に記載しているのは、あくまで例であるものの、「現状説明」「問題点提起」「具体的施策」「効果予測」「スケジュール」と流れている。その下にある「大意」とは、文字通り、ここでなにを語るかを概要として記載するものだ。

さらに、下のボックスには、材料を書いてほしい。材料ってのは、説明するときに表示するデータやグラフ・一覧表とかだ。大意で書いた内容を導くために、なにを挙げれば良いかを記載する。

サンプルとして、ぼくが本業である「調達組織改革」の資料を作成したときのストーリーチャートだ。

それで、ふたたび5つのボックスに戻ってみよう。残るは「媒体」のことだ。媒体とは、ワードがいいのか、エクセルがいいのか、パワーポイントがいいのか、印刷物がいいのか、CDに焼いて郵送したほうがいいのか、あるいは相手には口頭のみで説明したほうがいいのか。そういうことだ。

ほとんど意味がないのに、なんでもかんでもワードやパワーポイントで資料を作ろうとするひとがいる。ワードやパワーポイント何十枚の資料はほんとうに必要なんだろうか。その媒体でなければ、「目的」を果たせず、「対象者」に「メッセージ」を伝えることができないんだろうか。そもそも資料ではなく、目的を果たすためには、口頭で熱っぽく語ったほうがいいんじゃないか。あるいは、飲み会の席でワイワイ騒いで、「弊社の商品を選定お願いします」と一筆箋を添えてワイロを渡したほうがいいんじゃないか(もちろん、極端な話だ)。それらを考えたうえで、効果的な媒体を一つ記載する。
その熟考の果てに、やはりワードやエクセル、パワーポイントで資料を作成することになったとき。もし余力があればさらに、ラフイメージを白紙に手書きしておくことだ。ラフでかまわない。概要さえわかればいい。

そして、最後に、

・5つのボックス
・ストーリーチャート
・ラフイメージ

これら3つを関係者全員で合意してから、資料を作成しはじめることだ。逆に、この段階で関係者が納得できなければ、資料を作成する意味はないといえる。どうせ資料をつくったって、弊履と化す。最初はこんな事前準備が面倒に感じるかもしれない。ただ、ぼくの経験からいえば、これら3つを準備したほうが、圧倒的に早く・速く資料を作成できる。

そしてここまでやっておけば、自動的に資料の目次が完成するだろう。

重要なのは、このように関係者と合意しておけば、誰も文句をいえなくなることだ。そして、あなたを信頼するひとが増えることだ。考えてみれば、資料を依頼したら、完成するまでどんなものが出てくるかわからない「運を天に任せる」型社員よりも、あらかじめ完成物が予想できる社員のほうに仕事を頼みたいと思うだろう。

・ビジネスマンの作るストーリーチャートは25個に集約される

そして、5つのボックス、ストーリーチャートを記載したら、どこか一箇所に保存しておけばいい。ビジネスマンは多種多様な資料を作成している。だけど、内容を分類したら、せいぜい25に集約できる。

この根拠は絶対的なものではなく、経験値だ。しかし、一人のビジネスマンの仕事は、大カテゴリで5つ程度にわけることができる。その5つをさらに細分化しても、5つ程度。したがって、5×5=25だ。これは、一人のビジネスマンが取り扱う商品・サービス数でいっても同じことだ。これも経験値であるものの、商品は大カテゴリとして5つに分類でき、それらカテゴリ毎の商品を細分化しても、5つ。よって、5×5=25だ。
このメールマガジンご購読者はお馴染みの通り、サンプルとして私がコンサルタントとして扱っているサービスを分類してみた。やはり、25個でおさまった。


ということは、資料の大枠は25しかない。私の例でいえば、お客に提案するサービスが25個なのだから、25のストーリーチャートを用意しておけば、次から考えることなく、模倣すればいい。資料全体の構成や流れといった大枠も、お決まりがあることを述べておきたい。

仕事を一過性のものにしてしまうのはもったいない。一度なした仕事の再活用を考え続けること。これが、すべての仕事の基礎となるものだ。

<つづく、かもしれない>

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