コストテーブル論3 (牧野直哉)

今回は実際にコストテーブルを作成します。

●見積書一枚、10秒でコストテーブルを作成する方法

コストテーブルは、見積書あるいは購入実績が1件でもあれば作成可能です。したがって、あまり構えずに目の前のサプライヤーの見積書でコストテーブルを作成してみましょう。わかりやすいサンプルとしてiPhoneでコストテーブルを作成してみます。最初に表計算ソフトを使って、価格と価格決定する要素(キーファクター)を含めた表を作成します。


<クリックすると、別画面で表示されます>

上表の通り、各データをインプットします。インプット内容は、データ管理するためのモデル名、これは見積書に記載された名称や製品名称、購入品名称、モデル名といった、他と区別できる内容を記載します。

続いて、カタログから入手できる情報で価格決定する要素を2つ明記しています。1つはデータ保存容量です。もう一つは画面の大きさです。画面の大きさはiPhoneの場合、モデルによって共通です。しかしモデルが違った場合の価格の整合を将来的に見るためにもキーファクターとして採用しました。最後のデータは価格です。

実務では見積書や発注仕様書、図面から読み取って入力します。バイヤーに必要な製品知識は、このキーファクターの判別に活用するのも取得目的です。

このデータから、まず価格と容量の関係をグラフ化します。



<クリックすると、別画面で表示されます>

上グラフの通り、見積書や購入実績が1つでもあれば、誰が見ても分かりやすいコストテーブルが完成します。表計算ソフトに含まれているグラフの作図機能を使えば、データが増えても簡単に作成できます。

上のグラフは、表計算ソフトエクセルのグラフの「散布図」です。コストを決定するキーファクターは「容量」を選択しました。グラフが完成したら、必ず題名をつけ、データが正しく表示されているか確認します。その上でデータが1つの場合は、印刷してゼロからプロットされた点を結ぶ「線」を引いてみましょう。これで異なる容量でも、価格を想定できるコストテーブルが完成しました。

コストテーブルの作成経験がある方はおわかりになると思いますが、このコストテーブルは、現時点で突っ込みどころ満載の内容です。しかし、コストテーブルの作成経験がない方に理解していただきたかったのは、表計算ソフトを活用すればコストテーブルの作成は非常に簡単である点です。こういったデータの蓄積とグラフ化を繰り返しながらコストテーブルを更新し、より精度の高い内容へ近づけてゆきます。

●コストテーブルの「矛盾」を探す

作成したコストテーブルは、特にデータの少ない段階では、さまざまな矛盾をはらんでいます。ここで、作成したコストテーブルについて、矛盾点がないかを確認します。先ほど作成したコストテーブルの、特に○をつけた部分に着目して矛盾点を考えます。


<クリックすると、別画面で表示されます>

・価格の連続性

さまざまな容量の価格を知るために、プロットされた点とゼロを結ぶ線を引くとお伝えしました。この線によって64 GB以外の容量であっても、価格の見当が可能になりました。しかし、容量が異なったときに、この線のような傾きで価格の連続性が発生するのか大きな疑問になります。

生産側の都合で何らかの規格が存在する場合、価格の連続性は保たれません。iPhoneのメモリ容量は、一般的なパソコンに搭載されるメモリと同じ容量です。一方、サプライチェーンの上流、原材料に近い位置で生産している場合は、価格の連続性が保たれるケースが増えてきます。

・起点はゼロか

ほぼすべてのコストテーブルで、価格の起点がゼロはありません。企業における費用構造で、固定費と変動費の存在が理解できれば、ゼロが起点ではないとお分かりいただけるはずです。もう一つデータがそろえば、エクセルの機能で線まで自動的にプロット可能です。また、設備の容量や生産数量といった要素を含めると、価格は直線では表現されません。生産数量が多い、サプライヤーが持つ設備にマッチした購入品であれば、キーファクター対比の価格も安くなる傾向が見いだせるはずです。

・コスト網羅性

今回サンプルで使用したのは携帯電話のiPhone。購入品の性格によっては、購入時点の価格のみで判断して良い場合と、購入以降に発生するコストも含めた判断が必要な場合があります。携帯電話の場合、初期投資である購入価格も重要ですが、購入した後に発生する通話料、データ通信料も購入の際には考慮すべき要素になります。発注品の特性に応じて、ライフサイクルコストやトータルコストと呼ばれる、購入した後に発生するコストも含めて考えます。

・数量背景

携帯電話の販売価格は、ビジネスの形態としてはBtoCです。したがって、売り手は数量背景を踏まえた価格設定を行っているはずです。しかし企業の調達・購買部門が購入する場合、数量の大小は価格に大きな影響を与えます。サプライヤーによっては、数量によってあらかじめ単価変更する場合もあります。また数量の考え方も、納入数が重要なのか、一定期間の購入総量が重要なのかといった違いが、購入する製品によって存在します。

・購入ルート

今回サンプルは、iPhone Xの64GB仕様をApple Storeで購入した価格を採用しました。iPhoneは、Apple Store以外に日本国内の場合、NTTドコモやau、ソフトバンクといった携帯キャリアからも購入可能です。複数のサプライヤーから同じような品目を購入している場合、価格の違いは購入ルートの違いであるケースもあるでしょう。購入ルートはコストテーブルになかなか表現しづらいですが、もし価格の傾向に何らかの矛盾が生じた場合は、購入ルートにも踏み込んで査定を行う必要があります。その場合、作成した表をフィルター機能で、購入ルートごとのコストテーブルを作成して違いを探ります。

・キーファクター

今回のサンプルでは、データの保存容量に影響するメモリの容量をキーファクターに選定しました。果たしてこれが正しく価格の傾向を表しているのかどうか。キーファクターの選定が妥当なのかどうかは、コストテーブルを作成し更新する限りずっと確認し続けます。iPhoneでも他にCPUやディスプレーの大きさ、モデルの違いといったキーファクターになりうる要素が存在しています。

サンプルで作成したコストテーブルに対し、6つのポイントで矛盾点となる可能性の要素を指摘しました。こういった矛盾の解消は、すぐできる場合もあるし長い時間をかけてデータを収集しなければできない場合もあります。一度コストテーブルを作成したのなら、コストテーブルに基づいてさまざまな想定を行ってみます。そして生じた矛盾を解消するプロセスが、コストテーブルがより正確な査定を実現するツールへ育てていくのです。

(つづく)

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい