連載「2019年から2038年まで何が起きるか」(坂口孝則)

*2019年から2038年まで日本で起きることを予想し、みなさまのビジネスに応用いただく連載です。

<2025年②>

「2025年団塊世代が75歳へ」
これまでのシニアビジネスは消滅し、シニアが恒常的になる

P・Politics(政治):医療費の増大を抑えるために、国家として健康増進に取り組む。
E・Economy(経済):シニアマーケティングは次の段階に入り、シニアを意識させない商品やサービスが流行する。
S・Society(社会):20歳以下が人口の一部しか占めず、日本は大人だけの国家になる。
T・Technology(技術):日本での先行事例が、外国のこれから高齢化を迎える国々へのコンサルティングビジネスとなりうる。

高齢化が叫ばれ何年も経つ。実際に実現しているのは、若者がいない国ニッポンである。シニアは特別な存在というよりも、ニューノーマルとなりつつある。そのときに、商品開発者と、需要者にギャップが生じる。
シニアも、別にシニアになりたくてなったのではない。一人の生活者としてシニアを捉えるのが大事だし、けっきょくは一人の人間として誰かとコミュニケートしたい欲望がしぼんでいるわけではない。孫や、あるいは異性との関係を醸成するビジネスは重要になってくるだろう。

・さまざまな試み(1)店舗設計の変化

この高齢化は、店舗設計にも高齢化は影響を与えそうだ。ルンバなどの自動掃除機は、コンセントの抜き差しなどでしゃがむ回数が減るため売れているが、若者設計者には実感がない。スーパーでもとくに売り出したい商品は視界に入るゾーンに並べるべきだが、女性シニアの身長を考慮した高さ配置が求められるだろう。また、買物中に、とにかく立っているのがつらいシニアはたくさんいる。だから、売り場に椅子を多く置いたところ、売上があがった例もある。同伴者が「早く帰りましょう」という回数が減るためだ。

現在、大型スーパーマーケットで階段に番号を記載する試みがある。もちろんスーパー内部を広大な運動場にしてほしいからだ。何段上がったかを記録してもらうとともに、ついでに買物も楽しんでもらう。

実際に私の子どもがそのように、大型スーパーにあるゲームセンターは、孫と祖父(じいじ)の遊び場になっている。インベーダーゲームで遊んだ経験を持つ祖父だから、比較的ゲーセンとは相性がいい。孫と一緒に触れ合う場となっている。

・さまざまな試み(2)趣味・恋愛・旅行

以前、3G(スタディシニア、育児シニア、チャラチャラシニア)が流行った。チャラ爺がいまどれだけかはわからないが、共働き世帯が多い現在、育児は近隣に住んでいれば必然的に関わることになるし、学習欲についても音楽教室や大学・カルチャーセンターの教養講座は人気を博している。

私もそうだが、楽器を社会人になると同時に封印したひとは多い。時間があれば再チャレンジしたいものの一つだ。ギターなどの楽器教室、作曲教室なども振るわっている。さらに楽器ができれば孫との交流にも一役買う。

この読者は自分の親の年齢と比較してほしいのが1964年という年だ。この年は海外旅行が自由化されたポイントで、いまのシニアは海外渡航について心理的な障害はない。だから旅行代理店的な旅行提案機能はいっそう重要になるだろう。

また、スーパーの枠を超え、シニアの囲碁大会を開催したり、ゴルフコンペを企画したりするスーパーも出現している。コミュニケーションそのものが商品になるのだ。

シニアといっても、年齢がそのひとを諦めさせるわけではない。というのも、老人ホームで聞いた話では、つねに入所者の会話ナンバーワンは、入所者同士の恋愛話だという。恋も美容も、若いころと同じ、というわけにはいかないだろうが、隠れた感情をすくい上げておきたい。実際に、カルチャーセンターでも、習い事でも、新たな異性との出会い、の観点は忘れてはいけない。

・さまざまな試み(3)御用聞きビジネス

シニアにたいして、ご用聞きビジネスがさかんになるとは書いたとおりだ。実際にやってきても重い買物を持ち帰られないシニアも多い。実際のスーパーは、お客同士が憩いの場として使えるようにし、手ぶらで来て、手ぶらで帰ってもらう。ネット経由での注文も受け付けてもいいし、グループのコンビニで受け付けても良い。

また一概にシニアがスマートフォンやタブレットを使えないと断じてはいけない。それこそ冒頭で書いた陥穽に落ちる。使用法を学ぶ機会が少ないだけだ。だから、初回注文から何回かは丁寧にサポート社員がやってきて、シニアに方法を伝授する仕組みが考えられるし、実際に近いものはすでに存在する。

常に安価な店舗を探したり、定番商品をもたずに切り替えたりすることをブランドスイッチと呼ぶ。シニアはこの転換がなかなか生じないため、コストをかける価値があるだろう(転換が起きない、というのが、現時点から考える思い込みかもしれないが)。

・思想

たまに祖父母の家にいったとき、壁に飾ってある先祖の年齢を聞かされて、その若さに驚く場合があった。50代だともう長老のようだし、30代でも定年間近な雰囲気を醸し出している。

シニアマーケティングと繰り返し述べたが、これからは。高齢者とか年寄りとか思うのではなく、新たな消費者層が誕生したと思ったほうが良い。つまり、ほんとうはもっと働けるし、体も頭も動けるが、定年により膨大な時間を有しているひとたちだ。

冒頭でもあげた北野武さんは、ビートたけしとして「高齢者は最強だ」とテレビで語っていた。「最強なのは高齢の暴走族だ」と。「止めなさい。君たちには将来がある」「将来なんかねえよ」と。この最高のギャグは、これほど高齢化が進んだ社会で聞くとさらに面白い。つまり、将来を考えることなく、余生を楽しめればいいだけの消費者層が誕生しているのである。

・高齢化する恋愛市場

シニア版のバチェラーがありうるのではないだろうか。バチェラーとはアマゾンプライムビデオで公開されているもので、一人のアッパーな男性を女性が取り合う悪趣味な番組だ。高齢で独り身の、しかし、魅力的な女性が、一人のさらにアッパーな男性を取り合う番組が、ギャグではなくリアルに感じる時代に私たちはいる。

弘兼憲史さんの傑作『黄昏流星群』に出てくる40代は、たしかに十代から見たら「おばはん」かもしれないが、日本のマジョリティからするとじゅうぶんに”年下”だ。弘兼さん自身も、漫画を通じて40代女性の魅力を伝えたいと語っている(『どうする?どうなる?ニッポンの大問題』)。

人生100年時代だ。70歳になってから、最後の恋を見つけても、残り30年ある。テラスハウスのシニア版。恋愛斡旋ビジネスは必然として生まれるだろう。そして、高齢者版のシェアハウスも、介護人が足りない中、高齢者同士が助け合う観点からは有望だろう。

日本は外国にとっても実験場となるだろう。日本でどのようなビジネスが誕生するか。それは、そのまま海外への展開材料になるだろうし、老年国家ニッポンのビジネスはもしかすると、超・高齢化が進む中国へのコンサルティングビジネスになるのかもしれない。

<つづく>

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