ケーススタディ公開(牧野直哉)
先日開催された第42回関東購買ネットワーク会で行なわれたケーススタディの全文を公開します。今回は8チームによる討議によって私の回答を含めて9種類の方針が示されました。次の増刊号でケース解説を掲載します。
【問題】ケースストーリーに登場する「堀江」はあなたです。
以下のケースストーリーを一読して、対応の方向性を次の(1)~(3)から選択し、決定した根拠と共に回答してください。なお回答に際しては、選択した方向性によって生まれるリスク要因を少なくとも1つ取り上げ、リスクへの対応策も同時に提示してください。
(1) サプライヤー数は現状維持する
(2) サプライヤー数を減らす
(3) サプライヤー数を増やす
【発表方法】今回は発表方法を規定します。
パワーポイントや模造紙で書いて頂くかどうかは、各グループの自由とします。発表者は、次のスタイルで発表をお願いします。
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我々×グループは、サプライヤー数の○○○○を提案します。○○○○する根拠は次の3点です。
1.
2.
3.
この提案の実行に際しては、△△△△との大きなリスクが存在しますが、その点は□□□□□□□□でカバー致します。
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【ケースストーリー】
相模原中央車両株式会社は、物流・マテハン用の産業車両を製造する国内3位のシェアを持つメーカーである。アベノミクスの影響による円安基調によって一時期に比べれば業績は回復しているが、フォークリフトや無人搬送車(AGV)といった製品は、製品性能だけでは優位性を際立たせるのが難しく、激しい価格競争に苛まれており、企業として業績の先行きは不透明感が強い。国内シェア1位、2位の競合会社は、車両に加えた自動立体倉庫や搬送装置を加えた構内物流システム構築に活路を見いだしているが、相模原中央車両は元々車両専業メーカーであり、ラインナップとしては自動立体倉庫や搬送装置を揃えているものの、システム構築能力・実績ともにシェア上位メーカーに差を認めざるを得ない状況に合った。
そんな中、社長の中野渡は考え、悩み、そして憔悴していた。国内シェア3位といっても、上位の2社は世界シェアでも1位と3位のグローバル企業である。世界シェアで9位の相模原中央車両とのグローバル市場での差は歴然としていた。国内マーケットでも通販大手のJungle.comの国内物流センター向構内搬送システムの引合いでは、上位メーカーに明らかな後塵を拝していた。現時点では円安基調によって業績も一服しているが、またどんな影響で円高に転じるかもしれない。また新興国メーカーのコスト安を武器にした追い上げも激しく、技術面・品質面でのキャッチアップも時間の問題であった。そんなことを一人で考えていると、心の休まる時がなかったのである。ひとときの円安による小休止ともいえる状況でも、企業体質の強化を行なわねばならない。そう考えた中野渡は各部門のトップにある指示を出した。
調達課長の半沢は、今時珍しい反骨精神にあふれた新進気鋭の最年少課長である。新入社員の頃は「やられたらやり返す!10倍返しだ!」を口にすることをはばからず、バイタリティーの塊と評されていた。そして調達購買部門でも輝かしい実績を残しており、並み居る先輩を飛び越えて課長に抜擢された逸材である。言うことも派手だが、行動を起し実績を残す姿勢には、サプライヤーからの信頼も厚かった。そんな半沢の元に、社長の中野渡から指示を受けた常務の大和田から呼び出しを受けた。半沢は、大和田の元へ走った。
大和田からの指示は「抜本的な取引先戦略の見直し」であった。過去に半沢が作成した資料の一部を参照しながら説明を受けた。もしかすると、リストラ=人員整理の指示かと思っていた半沢はほっと胸をなで下ろしたが、しかし「抜本的」の解釈が、いささか悩ましかった。抜本的について大和田に質問すると、次の5点との話が合った。
・大和田が説明する際に使用した、半沢作成資料の一部
調達購買部門への「抜本的」の意味
① 上記の購入品区分毎のサプライヤーの社数は妥当なのか?1つの品目で5社もサプライヤーを抱えているのは多すぎないか?
② もっと集中購買を進めれば、コスト削減できるのではないか。
③ サプライヤーの社数が減少し管理工数が減れば、あらたな展開にも人員を投入できるのではないか(例えば海外調達の拡大とかいろいろ)
④ この表のサプライヤーの数の妥当性を検証し、妥当でない場合は改善策を提示して、実行スケジュールを作成し、速やかに妥当性の確立をおこなうこと。現在のサプライヤー数が妥当であれば、その根拠を示すこと。
⑤ 将来的な調達購買戦略に、不足しているリソースを認識しているのか。もし、あれば具体的にどう確保していくかを具体的なスケジュールを明確にして提示すること
中野渡の話はこのような内容だった。闇雲にサプライヤーを減らせとの指示ではないが、平均的に2~3社で対応している中にあって、5社とは多くないか、なにか特別な理由があるのかとの話。話を聞きながら、半沢は自分でも同じような疑問を持っており、「検証します」と回答して、大和田の部屋を出た。
5社のサプライヤーを擁す製品区分は、いずれも半沢が過去に実務で担当していない分野であった。PCB・電子部品の分野は、電子部品の購入先によってメーカーの得手不得手が存在し、5社でも少ないくらいであるとの感触を得ていた。また、市場ニーズである構内搬送システム構築には、キーとなるサプライヤーであり、この分野は明らかな拡大戦略を採用していた。半沢は残った2つの分野にこれからメスを入れようとし、部下に指示をしていた。そんな矢先の今回の上からの指示に、内なる口惜しさを感じていた。オフィスに戻って、板金を担当する堀江主任を呼び、発注企業サマリーを見ながら上層部からの指示について説明していた。
【ボディ・カウンターウェイト(板金) 発注企業サマリー参照】
<クリックすると、別画面で表示します>
堀江は、半沢の話を一通り聞いた後、最新の発注サマリーを見ながら口を開いた。
堀江:「これまでも、この5社に発注を集めるような取り組みをしてきたのですけどね。(ボディ・カウンターウェイト(板金) 発注企業サマリー 左下グラフ①部分)そういった活動が実って、昨年からはこの5社以外のサプライヤーへの発注は目に見えて減少していますし……」
半沢:「そういった地道な活動まで、大和田さんも理解していなくてね。これは、私のアピール不足とも言える。本当に申し訳ない。ただ、社長も闇雲にサプライヤーを減らせと言っているわけじゃないのだ。この点は何度も大和田さんに確認したから、増やすか、減らすか、維持するかについては結論ありきではなく、先入観無しで、堀江さんとしての理想的なサプライヤー群の姿を提案してくれないか」
堀江:「はい……わかりました。やってみます。少し気になるのは、社長の「抜本的」な指示は、我々だけにではないのですよね?例えば、経営企画や、営業、技術には、どんな指示が出ているのでしょうか。他部門が検討した結果によっても、このサプライヤー群をどんな形で維持・発展させてゆくかは、大きく影響を受けると思うのですけどね」
半沢:「そうだな、その辺は俺が情報を集めてみるよ。今日明日待ってくれ。各部門にでた「抜本的」な指示をヒアリングしてみる。あと、最後の指示は、俺が対応するけど、もしなにか提案があれば、俺に言ってくれ。充足しているリソースなんかないけど、こんな機会だから、IPOの設立予算と、バイヤー教育の予算を言ってみようと思っている。せっかくの機会だから、いろいろ提案しようと思っているから、なにかアイデアがあったら教えて欲しい」
堀江:「ありがとうございます、私もすこし考えてみます」
半沢は、さっそく各部門に確認をしてみた。確認した内容をメモにまとめて読み返してみると、自社の置かれた厳しい状況を再認識すると共に、サプライヤーを増やしても、減らしても、あるいは維持したとしても、以下の課題に答えが出た後の方が、調達購買部門に大きな課題が到来する事態を予見していた。
●各部門への抜本的指示
・経営企画/営業
① 国内シェア3位、グローバル9位のポジションは、将来的にジリ貧となる可能性が高い。
② 現在の市場における顧客を分析して、自社の強みと弱みを踏まえた今後の生き残り方を検討せよ。なお生き残りの方法論については、タブーはなしだ。
③ 「タブーはなし」とは、先日グローバルシェア3位のアメリカのCTU社から、内々に協業の可能性模索の打診を受けている。これまでに情報収集を行なった結果、どうも協業の先には、CTU社は当社の買収を目論んでいるらしい。CTU社は、アジア市場攻略を目指して、中国の大連に工場を持っているが、そこのオペレーションがうまくいってないらしい。そこで、当社のリソースを活用して大連工場のてこ入れを考えているようだ。CTU社と一緒になれば、グローバルで第2位の規模になり、会社としては生き残れる可能性が高くなる。ただ、この相模原の設備と人員をどうするかは、大きな課題だ。社内で英語が公用語になるかもしれない(笑)
④ もちろん、自社でグローバル展開を模索する方向性もあり。まだ今だったら、新興国に工場を建設できる程度のキャッシュは準備できる。
⑤ ここまで話した内容は、あくまでも可能性の話だ。可能性を実現できるシナリオに落とし込むのが君たちの役割だ。将来的な市場の見通しと、どうすれば企業として対応できるかを描き、現在のリソースで不足している部分をあぶり出してくれ。
・技術
① Jungle.com社の国内物流センターの商談では、当社の抱える問題点が明らかになった。いつまでも「モノ」だけを作れば良いとの考え方から、脱却する最後のチャンスだ。
② 今回の敗因は、分析するまでもない。しかし、思い込みで判断するのもダメなので、技術的対応面での敗因を分析せよ。自社の弱さを直視するのだ!
③ 従来から言われ続けているシステム構築力の弱さをどう克服するか。もし、技術部門だけで改善策が描けないのなら、社内に協力を仰いだり、外部のコンサルタントを活用したりしても良いから具体的なアクションプランまで描け
④ 経営企画と営業にも指示を出しているが、あぶり出された自社の弱みで、技術的な面でのカバーするための方策を検討しろ
⑤ 「良いモノ」でなく、「売れるモノ」はなにかを突き詰めろ。どこかオフサイトで、技術のメンバーだけで缶詰合宿をしてもいいから、突き詰めて、共通認識を構築し、対策を講じろ。
【別添資料 補足】
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発注シェア:製品区分あたりの購入総額にしめる割合
業界シェア:文献から引用した産業車両向け板金業のシェア
発注金額推移:新年度開始は、毎年4月。上期は4~9月、下期は10~3月
発注割合:購入部品の使用先によって分類した発注金額の割合。
試作にはサプライヤー側で発生する設計費用を含む
サプライヤー評価:各社をQCDDPの5つの項目で評価。年1回100点満点で評価。
(つづく)