調達・購買担当者の意識改革~番外編「サプライヤがつぶれないか確認する方法」(坂口孝則)
・いよいよサプライヤはつぶれていくのか
かつて講演で怒られたことがあります。2010年のときに、その昨年の自動車産業を振り返って、私はこのようなスライドを使いました。
これはそのときの経常損益(この場合は利益)をまとめたものです。好調な自動車産業は、2009年7-9月期4社で4000億円ていど稼いだのです。これに他の自動車メーカーぶんをいれると相当な額でした。しかし、その額は自動車メーカー優遇のためのエコカー補助金の額とほぼ一緒です。エコカー補助金は5000億円も投入されました。
私は自動車メーカー出身ですから、自動車メーカーを悪く言いたくはありません。応援したい。しかし、実際はけっして状況が良いとはいえません。現在でもほぼ変わりません。バックナンバーで、通常94号、95号をお読みください。今回のエコカー減税は、2012年4月から受け付けを始め、9月末までに予算総額2747億円を使い果たし、その多くが自動車メーカーの利益になったと述べています。
自動車メーカーが悪者ではありません。製造業といいますか、多くの日系企業においては、ほとんど「稼ぐ力」は改善していないようなのです。となると、下請けがもっと大変です。
円安がすべてを救うといわれましたが、実際は改善しませんでした。円安であっても輸出数量が伸びていない現在、ティア2以下サプライヤの倒産が懸念されています(このへんも94号に書きました)。中小企業金融円滑化法は終了しましたが、現在は、会社再生の補助金がじゃぶじゃぶに流出している状況です。これまで以上に、サプライヤが「つぶれるのか」注意せねばなりません。
・サプライヤの安全度を見る方法
そこで私がススメたいのは、硬派な財務指標講座ではありません。もちろんサプライヤの決算書をいじくりまわして細かな細かな数値をチェックできます。ただ、ここでは調達・購買担当者として把握すべき単純な3ポイントを述べます。
・最悪利益
・赤字
・役員報酬
です。つまり、危なさそうなサプライヤ決算書を見るとき、「まず最悪レベルの利益を確保しているか」→それすらも確保できていない場合、「2年連続赤字になっていないか」→赤字の場合は「役員報酬を取りすぎではないか(それで赤字になっていないか)」と確認するわけです。
・最悪利益の確認
まず、「最悪利益」ですが、これは文字通り<企業存続のための最悪の利益>です。ここでは端的に数式を説明します。
上記式では「最悪利益(額)=総資本×危険率」としました。総資本はサプライヤのB/S(貸借対照表)をチェックすればわかります。説明は不要かもしれませんが、B/S(貸借対照表)には総資本と総資産の合計が書かれていますから見てください。その、総資本に危険率をかけます。
ここでは3%を使います。たとえば総資本が1億円のサプライヤがいるとしたら、最悪利益は300万円です。経常利益がこの300万円以上になっているか確認してください。それでチェックは終わりです(なぜ経常利益かは議論がわかれますが、特別損失まで考慮してもしかたがないので、そうしています)。
直感的な意味では、<総資本の3%ぶんは最悪でも残しておけば、万が一のケースにも生き残られる>ということです。たとえば取引先の倒産や不回収、もろもろ……。まあ、ビジネス規模の3%くらいは「最悪でも」稼ぎましょう、ということです。これまた説明は不要でしょうが、経常利益で総資本の3%を確保しているというのは、従業員給料や役員報酬を払い終わったあとに残っているわけですからね。
では、なぜ3%でしょうか。税理士によっては1~3%と表現するひともいます。しかし、3%とはそれなりに根拠があります。企業倒産は、起こるとしても年に1度です。企業は倒産しないように1/365の確率をしのぎながら企業経営しています。そして、資金繰りは毎月に乗り越えるものであり、おなじく一ヶ月のうち2回の債務超過は起きません。したがって、危険率は 1/365×12(ヶ月)=3.2%です。なので3.2%を使用してもけっこうですし、ここでは保守的に3%を採用しています。
・赤字の確認
そして赤字の確認です。上記のとおり、「2年連続で赤字になっていないか」だけ見てください。もし2年連続赤字のところがあれば、赤字の種類を確認します。つまり、粗利益(売上総利益)の時点で厳しいのか、あるいは販売費及び一般管理費が大きすぎて赤字になっているか、です。
もし販売費及び一般管理費が大きすぎて赤字になっているとしたら、役員報酬をみてください。中小企業で上場していないところは、社長や役員が株主になっており、役員報酬を自由にコントロールできます。
そこで重要となるのは<役員報酬の基準値>です。
http://www.future-procurement.com/97.pdf
これは資本金別の役員給与をまとめたものです。メルマガ読者のみに公開しますので転送厳禁にてよろしくお願い申し上げます。
みなさんがチェックしているサプライヤの箇所を見てください。そこの役員給与が500万円だとして、サプライヤ役員が4人とすると、2000万円が役員報酬として平均となりますね。もちろん文字通り平均であり、かつ、概算ではあります。しかし、これが基準として使えるはずです。
さらに、たとえばではあるものの、平均が2000万円であるのに、3000万円とっていて、その結果1000万円ほどの赤字になっていれば改善は可能です。もちろん衒学的アプローチではあるものの、一つのラインとなります。
真性利益とは、<真性利益=経常利益+役員報酬>で表現されます。たとえばこの3年分を見てみて、経常利益は横ばいなのに、真性利益が下がっているケースでは、その役員報酬を削ってなんとか経常利益を確保していることになります。そして、役員報酬が平均以下で、かつ赤字が続いているとすると赤信号といえます。
この「最悪利益」「赤字」「役員報酬」の三観点をチェックすれば、調達・購買担当者がたった数分でサプライヤのあやうさを把握できます。この時代ゆえの分析手法として「番外編」をお届けしました。
<了>