シングルソースサプライヤへの対処法(牧野直哉)

先日、大阪で開催したセミナーの受講生からの質問と、私の回答を掲載します。多くのバイヤーに共通の課題であるシングルソースサプライヤへの対応です。

御質問: シングルソースサプライヤへの対処方法について

調達先が1社限定になっており、競合ができず、ここ数年コストダウンが進まず、値下げ要請をずっと拒否し続けている仕入れ先があります。原材料相場はここ1年で劇的に下がりました。サプライヤに原料相場下落を根拠にしたコストダウンを要望しても

「もともと赤字のような単価でやっている」
「過去に原材料が上がったときに、単価を上げさせてもらえなかった」
「いまようやくトントンになってきている」

等々の理由で、全く単価改定に応じてもらえません。

コストダウンが進まない要因である、1社限定になっている原因は、そもそも業界的に競合企業が非常に数少ないことがあげられます。数少ない競合業者に毎年見積依頼をしていますが、結果として既存業者より安く単価が提示されたことがありません。そのため、長らく1社限定購買が続いています。

この場合、高くてもいいから新規サプライヤを採用して、既存業者をけん制すべきでしょうか。それとも既存業者がベストプライスを提示しているとみて諦めるべきでしょうか。現在の価格がベストだとしても、対前年比でいくら下がったか、が調達・購買部門の評価です。前年単価維持では我々は仕事をしたことになりません。そこが本当に苦しいところです。(もちろん高いところの採用=値上げなので、もってのほかです)

牧野からの回答:

御質問ありがとうございます。まず、くださった御質問の内容から、具体的な問題点を、くださった内容順に次の通り絞りこみ、それぞれに御回答します。

●問題点1 供給側業界秩序の打破

御質問の内容は「シングルソースの打破」ですが、市場の供給者との観点では、シングルソースではありません。競合企業も存在し、見積依頼もおこなっていらっしゃいます。しかし、競合企業から、既存のサプライヤよりも魅力的な見積価格が提供されない。なぜ、競合企業は、既存サプライヤよりも魅力的な価格が提示できないのか。既存サプライヤからの購入価格が、すでに業界でも安いかもしれません。また、業界内で顧客の「すみわけ」をおこなって、競合をおこなわずに自分達の利益を守っているかもしれません。しかし現時点では、どういった原因が該当するのかが、かなり不明確です。これまで述べた想定原因に対して対応する前に、次の問題点を先に解決します。

●問題点2 コストダウンをしない理由への対処

既存のサプライヤがコストダウンをしない理由を3つ明記してくださいました。これだけではなく、さまざまな理由をお聞きになられていると思います。効果的な打開策がない現状では、コストダウンがない理由を一つ一つ突き崩してはいかがでしょうか。

・「もともと赤字のような単価でやっている」

これ「もともと」っていつでしょうか。いつの時点での単価が「赤字のような」単価なのかを明らかにします。

・「過去に原材料が上がったときに、単価を上げさせてもらえなかった」

「過去に原材料が上がったとき」はいつでしょうか。そのときに、単価をあげさせなかった根拠はありますか?

・「いまようやくトントンになってきている」

「いま」を最近とすると、多くの原材料費が下がった中でトントンになったと判断できますね。最近の話であれば、外国為替の換算レートも大きく変動しています。為替変動の影響があるのかどうか。

こういったサプライヤの主張の事実関係を確認します。確認する内容は、すべてコストに関係する話ですから、数字で確認します。確認する内容は、次のポイントです。

1.購入品のコスト構造

まず、買っている製品のコストがどんな構造かを調べます。上場企業であれば、損益計算書や、原価計算書が企業単位で公開されている場合があり、その数値を使います。そういった公開データがない場合は、信用調査会社の発行するレポートを参照します。入手には数万円必要ですが、これから獲得をもくろむコストダウン額との対比で、レポート入手するかどうかを判断します。

入手したデータから、売価に占める原価、特に原材料費や購入部品費と人件費の割合を調査します。小数点以下は無視して、原材料費と購入部品費、人件費と利益を合計して100となる数値を入手、もしくは類推します。

市況変動は「原材料費」にもっとも大きく影響します。購入品を構成する原材料費が、トータルコストに占める割合も調べます。これは、なかなか調査が難しいのですが、もっとも簡単な手段は、サプライヤへの質問です。原材料費の高騰による値上げ要求に際して、話を聞かないといった高圧的な手段ではなく、サプライヤに妥当性のある説明をさせて、情報入手するのです。

2.価格推移情報の入手

今回の御質問では「原材料費が下がっている」とあるので、何らかの市況データをもとに「コストダウンできるはず」と御判断されているのでしょう。この市況データは、今コスト削減に活用するのであれば、1990年代中盤から入手します。今回の御質問の原文は、次の順番でした。

①「もともと赤字のような単価でやっている」
→1990年代バブル崩壊後の日本は、現在と比較しても、かなり低い水準で推移しており、原材料費の市況の下げ止まりと、需要減退の中で、原材料メーカーはかなり苦しい事業運営をおこなっていた

②「過去に原材料が上がったときに、単価を上げさせてもらえなかった」
→原材料費が低迷した時期を脱して、新興国の経済発展にともなって、あらゆる原材料価格が、2008年まで総じて上昇

③「いまようやくトントンになってきている」
→現在、新興国経済と、北米と欧州経済は停滞感が強く、原材料市況は低下している。ここ数週間の円高トレンドは、その傾向に拍車をかける可能性が高い。

書いてくださった順番は、ここ20年の原材料市況と戦ったメーカーの「生き様」とも言えるサマリーをコメントしており、なかなか反論しずらい内容でした。それぞれの場面で、サプライヤもいろいろ努力して生き残っています。しかし、少しだけおかしい点があります。②と③の間に、リーマンショックによる市況の低迷と、日本では大きな震災にともなう超円高の時期、そしてリーマンショックから立ちなおったグローバル経済によって、原材料費の価格も高騰し、同時に円安も進行しました。こういった環境要因の中で、購入価格がどのように推移したかを、バイヤーがストーリー化します。私の経験でも、必ずどこかに説明のつかない矛盾点があります。その部分を切り口に、今回市況では「下げなければならない理由」をストーリーに織りこみます。

●問題点3 社内評価基準

対前年比のコストダウンが評価である点は、調達・購買部門としてやむを得ない面もあります。しかし、そういったマネジメントサイクルそのものは見直すべき時期にきています。海外からUSドルベースで購入する原材料の市況が高騰しているタイミングで、円安に進んだ場合、果たして日本円ベースで前年度対比のコストダウンを引きだせるかどうか。市況や為替動向がそれまでと同じトレンドの場合は、経済的合理性から考えて不可能です。もし、そんな時期にコストダウンできたら、元々高く買っていたと考えるべきです。

問題点2は、過去からの経緯を確認する意味がありました。確認してみれば、なるほど過去のある場面では、原材料費が高騰していたのに購入価格に反映しなかった時期があるかもしれません。当時は妥当性のある意志決定だったかもしれません。しかし、当時の決定によって今、コストが下がるべきタイミングにもかかわらず得られないなら、過去のねじれた価格構造を解消すべきです。

そもそもコストダウンとは、市況の変動による購入価格の上下とは別です。市況変動の価格への反映方法をルール化しておけば、市況が上がった、下がったによって交渉する手間も省け、本来的なコスト削減活動へ注力できると考えます。「本来的なコストダウン」とは、使用する量の見直し、使用する品質、商品グレードの見直しといった要求仕様そのものへメスを入れておこないます。市況変動への対応ルール化は、サプライヤとだけでなく、社内のコンセンサスも得ます。市況の見通しが値上げ前提で、同じトレンドを反映した予算設定ができなければ、市況を無視した前年度対比マイナスのコストダウン目標設定が続きます。社内の打ち合わせでは、許されるかもしれません。しかし、株主総会で、為替変動や市況が上昇トレンドにある中で、声高に購入価格の引き下げを業績アップ見通しの根拠にしたら、達成の見通しも怪しまれます。ちなみに、前年度対比で値上げ予算を組み、値上げ額の抑制をおこなって調達・購買部門の評価にしているケースもあります。市況は、価格が上下するものなので、上昇局面の実態に即した対処を設定すべきなのです。

最後にご質問への回答です。

●この場合、高くてもいいから新規サプライヤを採用して、既存業者をけん制すべきでしょうか。それとも既存業者がベストプライスを提示しているとみて諦めるべきでしょうか。
→過去のデータと、コスト構造のデータを収集し、既存業者の購入価格の妥当性を検証しましょう。コストダウンは諦めてはいけません。まだできることがあります。新規サプライヤの前に、コストダウンを勝ちとるための武器を獲得し、既存業者に突き付けましょう。

●現在の価格がベストだとしても、対前年比でいくら下がったか、が調達・購買部門の評価です。前年単価維持では我々は仕事をしたことになりません。そこが本当に苦しいところです。(もちろん高いところの採用=値上げなので、もってのほかです)
→次年度の購入額見通しが、常に前年度マイナスである、評価方法に問題があります。値上げの抑制も、立派な調達・購買部門の仕事だと思います。一朝一夕にはゆきませんが、次年度の予算設定の折に、市況から判断した結果を率直に提案してはいかがでしょうか。闇雲に前年度対比のコストダウンを計画するより、計画して、その通りに進めるために活動する方が良いと思います。でも、日本の会社では難しいかな・・・。

(つづく)

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