ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

「見積りのウソの見つけ方 第四回」

(第一回と第二回、第三回をお忘れの方は、バックナンバーからご確認ください。また、無料購読期間中の読者の方は少しおまちくださいませ)

・サプライヤーから「ほんとうの」コストを入手できているか

前回まで、サプライヤーのコスト構造からどのように見積りのウソを見抜けばよいかを述べてきた。サプライヤーのコスト構造を、「政治判断領域」と「原価分析領域」に分け、そこからどのように真の原価を模索していくかを説明した。

はい。ごめんなさい。連続で表示しているものの、これが基本となる図なので、ご容赦を。前回まで、サプライヤーの値引き行動と、原価上の値引き限界点を明確にした。そして、述べてきたのは次の通りだ。

  • 見積りを細かく分析すればいいという「コスト分析一派」、あるいは相見積りだけで中身を見ようとしない「競合一派」のどちらが正しいというわけではなく、両者の良いところをとるべきであること

  • サプライヤーの決算書(計算書類・財務諸表)と見積りとを比較することによって、コスト構造のギャップ(すなわち見積りのウソ)を知ることができるということ

  • さらに(私の経験から)「販売費及び一般管理」の目安であるが、ズバリ10%~20%が適正だということ

しかし、サプライヤーから見積りの詳細を入手しているはずのバイヤー企業であっても、そのほとんどはサプライヤーが意図的に薄利多売かのように偽ったものであること

では、さらに次に、どのようなことが起きているかを述べていこう。

・見積書におけるサプライヤーのウソのつき方

さて、サプライヤーはほんとうは薄利ではないのに、見積書上は薄利かのように振舞う、といった。しかし、それはサプライヤーへの批判ではない。私は、「バイヤー側も原価計算の基本ができない場合が多く、適正値を理解していないので、サプライヤーとしてもウソをつかざるを得ない状況である」こともあわせて説明した。

しかし、である。ほんとうは薄利ではないのだから、どこかでその数字を埋め合わせる必要がある。つまり、利益を低くする分、どこかを加算しているのだ。それはどの領域だろうか。それは、「加工費の領域である」と言ってしまおう。

どういうことだろうか。これは意外に知らない人が多いので説明しておきたい。見積書でこのような記述に出くわすことがある。

  • 「加工費:100円/個」

  • 「別途、新規設備300万円を請求」

などというものだ。これは一見、当たり前のように思える。製品を生産するために、加工費が100円かかる。また、それと同時に、その加工を行う新規設備が必要となるので別途300万円を請求させてくれ、というわけだ。

加工費とは別にこのような費用請求をしている場合が多々ある。しかも、バイヤーもマジメにこの設備の300万円が妥当か、などという交渉をサプライヤーと実施している。300万円じゃなくて、250万円にしてくれ、とかね。

しかし、ちょっと待ってほしい。これは紛れもない「二重請求」なのである。

なぜか?

加工費とは、すなわち「新規設備費」にほかならないからである。加工費とは、通常、「労操設」と呼ばれる。「労働コスト(工場作業員)」「操業費(光熱費)」「設備費」であり、その大部分は「設備費」にあたるところだ。

より突っ込んで説明しよう。設備費とは、減価償却費のことである。減価償却費には定率法と定額法があり、多くの企業は定率法を採用している(それは財務会計の仕組に影響されているのであるが、ここでは省略する。詳しくは私の著作「利益は「率」より「額」をとれ!―1%より1円を重視する逆転の発想」「会社の電気はいちいち消すな」などを参照のこと)。

要するに、300万円の設備であれば、その費用を10年程度に分割し、それを一つひとつの製品に割り振るのである。繰り返しであるが、減価償却費のことについては私の著作等を参考にしてほしいが、ここでは設備費はすでに「製品一つ一つの加工費に既に入っている」ということだけを覚えていてほしい。

ゆえに、加工費を請求しているのに、新規設備のお金をもバイヤー企業に請求してしまっているのは倒錯なのである。加工費とは、かなりの部分が減価償却費の塊であるから、「減価償却費」と「新規設備」を両方求めるのは、二重請求なのである。

たまに営業マンでも、この理屈をわかっていない人が多い。「なんで加工費と新規設備を同時請求しているのだ」と尋ねても、その質問自体を理解してもらえないときもある。

一度、私は会議室で侃々諤々の議論になり、営業マンがまったくこのことを解してくれなかったことがあった。「一度、御社の工場にいる原価管理担当者を呼んでほしい」と伝え、三人で話したら、やっとわかってもらえた(実はその営業マンも、自分が二重請求しているということ自体わかっていなかったのだが)。やっぱり日本の製造業は工場に近い人たちほどちゃんとしているね。

その後、営業マンから「実は加工費はたしかに二重請求だったのだが、『販売費及び一般管理』をもっともらわないと、やっていけない」というコメントをもらった。私は「その勝負は受けて立ちます」と申し上げた。このように見積りのウソが明らかになり、ほんとうの『販売費及び一般管理』であり、ほんとうのサプライヤーのコストが明らかになっていくからだ。

サプライヤーのほんとうのコストを知るのは疲れる作業だ。でも、プロのバイヤーになるためには、その道は避けて通れない。さらに、サプライヤーの見積りのウソを見抜く道程は続く。

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