興味深いレポートとこれからのバイヤー 3(牧野直哉)

今回で3回目の「日本の産業を巡る現状と課題」にて提示された現状分析と、これからのバイヤーの有るべき姿の提示。今回は25ページより語られている企業ビジネスモデルの課題についてお話します。

26ページでは、同一製品の世界市場の伸びと、日本企業の世界市場でのシェアが対比して並べられています。このような比較を見ると「日本企業はほんとうに大丈夫なのだろうか」なんて心配になってしまいますね。いずれの製品も、世界市場での伸びは右肩上がりであるにもかかわらず、日本企業の世界シェアは見事なまでに右肩下りです。この資料では、このような状態を「特定企業や特定製品の問題ではなく、日本企業のビジネスモデルの問題」としています。

日本企業はこのような状態を、どんな風に解釈しているのでしょうか。市場のパイが拡大しているため、市場シェアが低下しても各企業レベルでの絶対的な生産量に大きく影響を与えていないのかもしれません。このような分析をどのように各企業が理解をしているのか、とっても興味がありますね。もし、このような製品のメーカーにお勤めの読者の方がいらっしゃれば、ぜひご意見をうかがいたいところです。このグラフに示されたデータから確実にいうことができる一つのこと。この現象は、グローバルマーケットでのバイイングパワーの減退につながります。そんなバイヤーにとって困りゆく事態に、どのような準備をされているか。みなさんもご興味をもたれるでしょう。

前回の記事は、同じセグメントにおける日本企業数についてでした。グローバル市場で活躍する企業数との対比で、日本の企業数が多すぎるのです。国の規模としては日本よりも小さな国に、日本企業よりも大きな規模の企業が存在しているわけです。(「日本の産業を巡る現状と課題」20ページより)

ここで我々が住む世界を描いた3つの地図をご覧頂きます。

(1) ふつうの世界地図

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(2) 人口数で国土面積を表現した地図

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(3) GDP規模で国土面積を表現した地図

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この地図は、いまだかつて見たことがない世界と銘打たれた「Worldmapper」というサイトから引用したものです。

ふつうの世界地図だけを見ていると、日本は小さな国に思えます。今回は意識して、日本が極東と呼ばれる所以である欧米での一般的な世界地図にしました。一瞬日本はどこだろう?なんて探しませんでしたか。地球は丸いので(1)の地図で面積は正しく表現されていません。しかし、日本が国土面積的小さな国であることは明らかです。この国土面積が小さいという事実が我々に与える影響を考えてみます。見慣れているが故に、我々の意識への影響力は大きいのです。日本の国土面積は確かに小さい。しかしその他の地図では、日本は世界的に見ても、確かに大きな存在感を示しています。ここで、既に風前の灯火であり、実質的には中国に抜かれ、世界第三位となっている経済規模と、人口を表した数 表を参照してみます。(日本を赤く示しています)

(2)ー1 人口

(3)-1 GDP


私の本棚にある経済学の本によれば、市場とは特定の財・サービスを扱う買い手と売り手の集まりとあります。売り手だろうと買い手であろうと法人、個人がその担い手となります。上記の図で示したいくつかの世界地図と数俵は、地理的でない、我々が日々生きている、ほんとうの日本という市場の姿をしめしています。

人口は、売り手、買い手の双方に量的な影響を与えるファクターです。日本の隣には世界最大の人口を抱える中国がありますね。そして、地図を眺めれば地理的にとっても小さな日本を、小さな頃からずっと目にしてきています。日本は鉱物資源に恵まれていないから、世界から原材料を輸入して、付加価値をつけ世界へ工業製品を輸出する加工貿易立国であとも私は教えられてきました。

しかし、です。上記(2)ー1の人口に関する数表でご理解頂けるとおり、人口という市場規模を決めるファクターでも、日本は世界第七位です。日本は決して小さな国ではありません。「日本の産業を巡る現状と課題」の18ページに日本の輸出依存度の低さをしめすデータが掲載されています。そのデータへと行き着くまでにも、先進国の産業構造の中では、自動車、電機といったグローバル産業の比率は低下傾向にあるといった内容もあります。

私が申し上げたいこと、それは日本は紛れもなく大国であり、世界の国々との相対的な比較では、国内市場も大きい。であるが故に、日本国内市場だけを対象にしていても、経済成長による恩恵をこれまでは享受することができていたわけです。しかし今、急速な高齢化社会とともに、出生率の低下によって人口の減少が始まっています。これは、間違いなく市場規模の縮小が現在進行形で起こっていること ・進んでいることをを意味します。もしかすると、コスト削減ではなく、購買量やアイテムの減少によってバイヤーの数を削減する、そんな企業が登場する時代がやってくるかもしれません。

一国の評価を経済的な側面においてのみでおこなうことはできません。しかし、日本における産業は、80%以上が国内を対象としています。そして国内市場の根幹をなす人口は減少している。これは間違いなく 市場規模は縮小し、衰退していること意味します。衰退するとどうなるか。衰退とはこれまでと同じことができなくなります。便利だったっものが不便になります。美しかったものが醜くなります。 できていたことができなくなる、または回数が減る。これは恐怖ではないでしょうか。日本の近代化が始まって、初めて体験する世界へ、我々は一歩一歩近づいています。いや、近づいているのではなく、もう始まっています。

人間の身体的な衰えは、 やむを得ないものです(今、アンチエイジングによってもしかすると人類は老いも克服するかもしれないですね)。しかし、再三取り上げている「日本の産業を巡る現状と課題」は、日本の老いを語っているにほかならない。日本でこのメールマガジンをお読み頂いているみなさんとって決して人ごとでなく、今自分の周囲に起こっていることを語っているのです。

私の身が老いていくのはどうしようもない。が、しかし、今日よりも悪くなる明日を予見して尚、何も行動を起こすことなく甘んじることはできません。以前のこの有料マガジンで、LCB(Low Cost Buyer)という考え方についてお話ししたことがあります。私は、どうしたらそうならずに、面白おかしい人生を歩み続けることができるのか、そのことばかりを考え続けています。「日本の産業を巡る現状と課題」が与えてくれたいろいろな示唆から今、いろいろなアイデアが生まれています。それは、購買ネットワーク会や、もちろんこの有料マガジンでお話をしてゆきたいと思います。

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