ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・25のスキルと知識がバイヤーを変える

今回も調達・購買担当者に必要なスキルと知識を解説していこう。以前から私は、下の図で調達・購買担当者のスキルと知識体系を解説してきた。前回は「調達・購買 業務基礎」のAである「調達プロセス知識」をとりあげた。

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そこで、2回目は、「コスト削減・見積り査定」のA「見積り様式整備」についてふれたい。今回、「そんなこと知っているよ」と思われるかたもいるだろう。ただ、そんな方々にもぜひお読みいただきたい。前回と同じく、きっと新しい発見があるはずだ。

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今回の説明によって、25個のうち二つを塗りつぶすことができた。

・見積り様式整備で必要なこと

まず、各調達・購買担当者は、自分が買っている調達品の価格構成を知らねばならない。100円、90円、50円……とプライスだけを記した見積書をもらっても、それが高いのか安いのかがわからない。

たとえば、製造業の直接材と呼ばれるものであれば、次のように価格要素を分解できるだろう。

例としてふさわしいかはわからないが、「プラモデル」を調達している場合を考えよう。下から上に見ていこう。

プラモデルの元となるプラスチックが材料。その材料を射出して成型(成形)することが加工。そして、そのプラモデルに梱包する、印刷業者に依頼した組立説明書が購入品。作業者がそれぞれのパーツを組み合わせて箱詰めにすることが、アッセンブリー領域。管理費は、一般管理費(社員の給与や輸送費、光熱費など)・製品開発費(テスト費・パテントなど)・利益(内部留保)などが含まれる。

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また、見積り内の価格要素を分解することができれば、上記のようにティア2・ティア3のサプライヤー構造についてもマッピングすることができるようになる。多くの場合は、ティア1サプライヤーはアッセンブリだけで、小部品を生産しているのはさらに下のティア2・ティア3サプライヤーであることが多いだろう。

さて、こうやって分析することができれば、見積りフォーマットも完成する。すなわち、各価格要素にわけて見積りを作成してもらえばいいのだ。バイヤーはエクセル等で、見積りをフォーマット化し、サプライヤーに見積り依頼(RFQ)と同時にそれを渡せばいい。見積り条件として、サプライヤーがバイヤーの作成した見積りフォーマットに記載することとする。

前回にもお話ししたとおり、たしかにいきなりサプライヤーがすべての見積り情報を開示してくれないかもしれない。ただし、新規の見積り依頼品からはせめて見積明細をもらうように努力することはできる。これを外資系の一部では「オープンポリシー」と呼ぶ。見積明細をオープンにしてくれることが、取引条件だと宣言するのだ。なかには契約とは呼べないまでも「取引ガイドライン」として配布し、見積り明細の明確化をお願いする企業もある

・コスト情報備蓄の重要性

バイヤーが指定したフォーマットによってサプライヤーから見積りをもらうことの重要性を述べてきた。そしてさらにもっと重要なのは、それを継続して備蓄することだ。いや、コスト削減のためには、この情報の備蓄がキモだと思ってもいい。

かつて「一つの情報であればゴミだが、それが積み重なったときに宝になる」といったひとがいた。言い得て妙だ。それだけ、継続して備蓄すること自体に意味がある。

さきほどはプラモデルを例ととしてとりあげた。これは極端な例だったけれど、いいたかったことは、各製品・商品・サービスにあった見積りフォーマットを作成することだった。

・直接材
・間接材
・サービス
・工事・保守

……もちろん、直接材といっても樹脂成形とプレスと半導体、電気部品ではまったく違うから、さらにそれぞれのフォーマットを作成する。

え、自分の担当する製品の価格要素がわからないって? 簡単だ。サプライヤーの営業マン何人かに聞いてみればいい。そうすれば、どのような価格要素を考えればいいかが明らかになる。

そうやって価格要素が明らかになり、かつサプライヤーから各要素の見積り明細をもらっているとすれば、次のような価格比較が容易となるはずだ。

このケースでは、直接材のコストを「原材料費」「加工費(マシン)」「加工費(アッセンブリ)」「購入部品」「設備・金型(1個あたり)」「管理費」にわけて見積りを入手している。そうすれば、どの要素で各社の優劣があるか一目瞭然となる。

コストテーブルの作成方法はおってこのメールマガジンで説明していこう。この時点では、コストテーブルは所与のものとして扱うならば、おなじくサプライヤーの各見積り要素を自社の基準と比べることが容易となる。

継続してコスト情報をためることが重要だといった。上記の例で、さらに重要なのは「B社の過去履歴とも比べる必要がある」ことだ。よくA社、B社、C社で競合してB社が一番安く、かつ自社のコストテーブル以下だというひとがいる。競合結果でしか見ていないのだ。そのとき、ではB社の過去コストレベルと同等か、という観点がすっぽりと抜け落ちている。現在軸で比べるだけではなく、同社の過去とも比べる必要があるのだ。

多くのバイヤー企業ではこの比較が行われていない。だから、「最安値から買い続けている」はずなのに、調達品の価格レベルがバラバラなのだ。

重要なことは次の三つである。

1.将来にも使える見積りフォーマットを決めること
2.サプライヤーにそのフォーマットに記載してもらい、継続的に情報を備蓄すること
3.新規競合のときは、現在の価格を単に比べるだけではなく、過去の情報も参照し、最適価格になっているかを確認すること

ちなみに、多くの企業では「調達した企業」の見積書は残っていても、競合で負けた企業の見積書を残していないことが多い。もったいない。せっかく入手した情報(見積書)は活用できるようにしておくべきだ。競合で負けた企業の見積書には「特別価格」が紛れ込んでいることもあるし……。

これまで述べてきたことなど「あたりまえ」と思ったひとも多いだろう。しかし、そのあたりまえができていない以上、繰り返しお話ししたい。差別的にいうのであれば、頭のいいひとが集まる企業にかぎって、この見積りフォーマット化と情報備蓄ができていない。それぞれの担当者が独自の価格分析をおこない、業務が属人的になっているのだ。それではいけない。属人的ではなく、組織で価格情報を共有すべきだ。そうしないと、連綿とつづく価格情報をつかった価格交渉などもできないだろう。「一つの情報であればゴミだが、それが積み重なったときに宝になる」からだ。

・どの領域でもコスト要素を横並び比較することが重要

これまで、やや直接材バイヤーに特化した内容になってしまったものの、これは間接材バイヤーであっても変わらない。同じく見積書のフォーマット化と、その価格情報の備蓄が重要だ。

次のものは、翻訳業務見積りの実例だ。見積フォーマットを統一していなかったとき、某社は各社からばらばらの見積りを入手していた。具体的には、A社、B社、C社がおり、翻訳の見積りを、「ページ単価×ページ数」で見積るところもあれば、「単語単価×単語数」で見積るところもあれば、「作業時間単価×作業時間数」で見積るところもあった。

これでは横並びの比較は難しい。実際に、担当バイヤーは最終価格でしかサプライヤーを決定していなかった。

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それにたいして、見積りフォーマットを統一する動きをかけた。内容的には、B社が採用していた「単語単価×単語数」という見積り形式に統一したのだ。また、文字ではなく、図表を訳してもらうときの価格も同じく明確化してもらった(それまでは「経費」のなかに紛れ込んでおり、いくらかかっているのかわからなかった)。加えて、利益率も明示化してもらったのだ。

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これによって、次のことが可能となった。

・同項目でのA社、B社、C社のコストレベル比較
・これまで不明確だった価格の詳細内容把握
・各社の「強み」「弱み」の明確化と、目標価格の設定

このうち、最後の<各社の「強み」「弱み」の明確化と、目標価格の設定>について補足しておこう。これは要するに「いいとこ取り」のことだ。見積り項目を統一すれば、A社、B社、C社のそれぞれが、どの項目について最安値かを知ることができる。その3社のうち、最安値項目だけを抽出して「目標価格」を設定するのだ。

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たとえば、上の例では、B社は3社のうちで「単語単価」「図表フォーマット単価」が最も安く、C社は「利益率」がもっとも低い。その「いいとこ取り」をする。上図では「min価格」と右側に載っているのがそれだ。

もちろん各社の最安値要素を抽出したものを「目標価格」と読んでしまうことには、いささか逡巡がある。なぜなら、それは各サプライヤーの強みと弱みを無視しているからだ。よって、私はこう考えている。この意味で、前述の「目標価格」は「絶対」目標の単価ではない。むしろ、理論的可能値としての「目安」目標単価だ。ただ、何の基準ももたないより、この「目標価格」を持ち交渉するほうが有利だ。その点からも、「目標価格」設定の重要性を語っておきたい。

2回目として、「コスト削減・見積り査定」のA「見積り様式整備」をお話ししてきた。これらは、最適なサプライヤーや価格決定の土台となるものだ。

ぜひ、次回以降も25のスキルと知識をご紹介したい。

 <つづく>

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