ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

物流の話をしよう 3 

前回は物流に関する定義、そして基本的な考え方を皆様にお伝えしました。物流とは、

1. 物流によって発生するコストは固定費的性格を持つ 

2. 物流で発生するコストには「時間との闘い」が存在する 

としました。そして、今回は物流におけるトレンドについてです。トレンドと言っても、当たり前ですが、次の3つのキーワードに表されます。 

(1)短納期化 

(2)多頻度化 

(3)小口化 

そして、物流にともなって発生するコストとは、いったいどのような状態に置かれているでしょうか。ここで、製造業における典型的な2つのケースを想定して考えてみたいと思います。 

Case 1 まったく表に出てこない物流コスト 

これは取引基本契約であらかじめサプライヤーとの引き渡し条件が規定されている場合です。見積依頼にあえて明記はしませんが、あらかじめきめられた引き渡し条件を前提にしています。多くの場合、サプライヤーからの価格提示は、物流費込みの価格が提示されます。普段バイヤーは物流費に頭を悩ませる必要はありません。物流に必要な条件が明確に定義されているためです。バイヤーが見積依頼を際はすべて同じ条件である。バイヤーは、購入する財にのみ集中すれば良いわけです。 

Case 2 手を変え、品を変え登場する物流コスト 

取引基本契約を締結していないサプライヤーが多い場合、また取引基本契約に明確なサプライヤーとの引き渡し条件が明記されていない場合がこのケースに該当します。この場合、物流費用の価格への反映方法は千差万別です。見積価格に含まれるケースもあれば、購入する財の価格とは別に物流費を提示される場合もあります。そして、よほどの重量物か嵩(かさ)のはるものでなり限り、提示される物流費は数百円~数千円です。購入する財の価格には敏感でも、輸送費について言及することはありません。言及するほどではない、妥当性をにおわせる金額であるが故です。 

上記の2ケースは、いずれも実在する製造業を例にしています。さて、両者の共通点とはなんでしょう。実在する上記2つの例の企業規模は、資本金だけの比較では2000倍にもなります。全く異なる両社ですが、二つ大きな共通点があります。 

① 納期設定が「日」単位であること 

② 一方は、詳細まで規定して、もう一方は、あまりにも規定がなくて、双方バイヤーが物流費に無関心であること 

両社とも、昨今のトレンドを意識して、というより当たり前のようにサプライヤーへ日単位での納入を依頼しています。一方ではバイヤーがあえて気にする必要がないくらいに確固たる条件があって、もう一方は千差万別過ぎて、また提示される物流費がなんとなく「妥当」であるが故に無関心となってしまっているわけです。 

ここで、先に提示した物流に関するキーワードに再び登場してもらいます。 

(1)短納期化 

(2)多頻度化 

(3)小口化 

上記の2つのケースはいずれも、(2)多頻度化で、発注量にもよりますが(3)小口化にも該当します。Case1では納入一週間前の確定発注をおこなっています。それまではあくまでも発注予定の連絡でしかありません。一週間前に連絡した数量に対して±10%の数量の納入責任をサプライヤーに課しています。確定から納入まで最短で一週間ということで(1)の短納期化にも該当します。 

発注規模の大小には関係なく、それでも物流のトレンドをとらえている両社。表に出ようが、姿を隠そうが、確実に物流費は払っています。物流のトレンドとして語られる3つのキーワードは、発生費用の面から見ればどれも好ましくない条件ですね。本来であれば、(1)短納期化(2)多頻度化(3)小口化によってプラスで発生する費用と、マイナスされる他の費用の両方をチェックしなければ、物流費の妥当性は判断できませんね。

モノを購入する際に必ず必要な物流費用。上記の2つのケースで起こっている無関心で、一見効率的な業務をおこなっているように見えて実際一番ラクをしているのはバイヤーです。普通のバイヤーであれば、見なくて良いポイントかもしれません。しかし、今まさに日本経済に迫り来る「空洞化」によって海外進出を余儀なくされる日本企業。みなさんが担当するサプライヤーが海外に工場を持つことは、これからよりいっそう多くなります。そんなとき、海外工場製とのメリットを正しく受けるためには、正確な物流費の掌握が必要です。今、日本の多くのバイヤーにはこの部分への準備がすっぽりと抜け落ちてしまっているのです。 

物流費の妥当性を判断するためには、2つのプロセスが必要です。 

1.支払いっている物流費そのものの妥当性 

2.(1)短納期化(2)多頻度化(3)小口化という物流費にとってプラスとなる費用と、マイナスとなる費用の見極め 

1は物流規模によって千差万別ということを頭に置くことが必要です。サプライヤーの物流量の規模によって、発生費用には大きな差が生まれます。またバイヤー企業側の発注量にもよります。毎回の納入が決まったサイズのトラックに最適な量であればバイヤー側からのアクションでミニマイズ化が可能です。しかしそのようなケースはまれですね。しかしバイヤーは日々の生活の中で、個人的に物流を使用するわけです。したがい、個人でなんらかの輸送を行った場合よりも高い物流費用は避けなければなりません。 

2は発注する財がいったいどのような性格かに依存します。ここで利用すべき情報は、調達・購買部門で主体的に決定する「発注方式」です。 

<つづく>

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